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悪役令嬢は舞台の幕を開ける
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思えば私がこの世界に転生していることに気づいてから約一年と三ヶ月。
公爵令嬢としての地位、そして前世と以前のエレナの記憶を頼りにここまできた。
授かったチート能力はどんな言語も頭の中で自動的に翻訳される能力だと思うけれど、事件の真相追求のためには欠かせなかったであろうそれも実生活で活用できる場は少ない。
いずれにせよ私の当初の目的は断罪を回避して生き延びること。
でも今はそれだけでなかった。
そして今日はこの一年ちょっとの間に関わった人やこれからのために大事な転機となる。
「エレナ、準備はいいか?」
「もちろんですわ」
兄の問いかけに私は笑顔で答えた。
私は舞踏会の会場入り口で兄と共に待機している。
学園主催の練習を兼ねた舞踏会とはいえ、今後のことを見越してルールは本当の舞踏会に準じていた。
つまり、入場は下位貴族からということだ。
多くの貴族の子息息女が通うこの学園は言ってみればマンモス校で生徒数が多い。
その生徒たちが一堂に会するというのだから、入場自体にもそれなりの時間がかかる。
公爵家という、王族を除けば一番の高位貴族であるウェルズ家の順番は当然最後の方となり、控室で待機した後にこの場所まで来ていた。
子爵令嬢であるジェシカはだいぶ前に入場しているし、伯爵令嬢であるクレアとソフィは少し前にそれぞれの婚約者にエスコートされて入場済みだ。
「今日のお兄さまはいつにも増して素敵でしてよ」
「エレナ、お前もな」
私と兄の髪色や瞳の色はかなり似ている。
鮮やかな金髪はもちろんのこと、オーキッド色の瞳もだ。
ただ、兄の方が瞳の色が濃い。
今日私が身にまとっているのは濃いプルシャンブルーのドレスだった。
色味が濃いことで暗くならないように、布地と同色のレースを重ねて軽やかさを印象づけている。
そしてアクセサリーはブラックダイヤ。
おそらくエマは可愛らしくも豪華なドレスを着て参加するだろう。
ライアンの色にそろえるならどちらにしろ明るい色合いになる。
だから私はあえて逆を選択した。
こっそりとダグラスの色に近い色をまとっているわけじゃない。
わけじゃないよ!
……と心の中で誰にともなく言い訳したくなるのはなぜだろう……。
ダグラスは黒髪黒眼だからドレスに取り入れるには難しい色だ。
その点アクセサリーなら可能ということもあり、イヤリングとネックレスはブラックダイヤを選んでいる。
実はこの前の夜にダグラスからプレゼントされた物だったりするんだけど。
私はまだライアンの婚約者だから、これって浮気になるのだろうか?
チラッとそんなことが頭の隅を掠めたけれど、そもそも舞踏会に参加するために必要なドレスもアクセサリーも、何も贈らないライアンが悪いのでは?という結論に達する。
幼い頃に婚約を決められてからずっと、婚約者がいる身にも関わらずまともにアクセサリー類をプレゼントされたのは初めてだった。
ライアンは最初から一貫して婚約者の義務を放棄し続けている。
そのくせ浮気をしてさらにこんな場所で婚約破棄を宣言するなんて……。
いや、考えれば考えるほど最低なのでは?
本当、いったいどういう思考回路だったらあんな風になるのか疑問でしかないわ。
そんなことを思いながら私は兄と自分の名前が呼ばれるのを待った。
王族の入場は一番最後になる。
本来であればその時に私はライアンと一緒に入場するはずだが、ライアンはエマを伴ってくるだろう。
今の静かな時間は嵐の前の静けさだ。
ドアが開けば、断罪劇場の幕が上がる。
最後に笑うのは私かそれともエマか。
できる限りの準備はしてきた。
ゲームの強制力になんて負けない。
邪魔をする者は徹底的に排除してみせる。
だから。
エマも王妃も首を洗って待ってるがいい。
「リアム・ウェルズ公爵子息、並びにエレナ・ウェルズ嬢」
入場者を告げる係の声が聞こえた。
「お兄さま、戦闘開始ですわよ」
「物騒だな」
私の言葉に兄がとてもいい笑顔で答える。
どこか吹っ切れたようなその顔は不敵にさえ見えた。
扉の向こう側が明るい。
その眩しい舞台に向かって、私は兄にエスコートされながら一歩を踏み出した。
公爵令嬢としての地位、そして前世と以前のエレナの記憶を頼りにここまできた。
授かったチート能力はどんな言語も頭の中で自動的に翻訳される能力だと思うけれど、事件の真相追求のためには欠かせなかったであろうそれも実生活で活用できる場は少ない。
いずれにせよ私の当初の目的は断罪を回避して生き延びること。
でも今はそれだけでなかった。
そして今日はこの一年ちょっとの間に関わった人やこれからのために大事な転機となる。
「エレナ、準備はいいか?」
「もちろんですわ」
兄の問いかけに私は笑顔で答えた。
私は舞踏会の会場入り口で兄と共に待機している。
学園主催の練習を兼ねた舞踏会とはいえ、今後のことを見越してルールは本当の舞踏会に準じていた。
つまり、入場は下位貴族からということだ。
多くの貴族の子息息女が通うこの学園は言ってみればマンモス校で生徒数が多い。
その生徒たちが一堂に会するというのだから、入場自体にもそれなりの時間がかかる。
公爵家という、王族を除けば一番の高位貴族であるウェルズ家の順番は当然最後の方となり、控室で待機した後にこの場所まで来ていた。
子爵令嬢であるジェシカはだいぶ前に入場しているし、伯爵令嬢であるクレアとソフィは少し前にそれぞれの婚約者にエスコートされて入場済みだ。
「今日のお兄さまはいつにも増して素敵でしてよ」
「エレナ、お前もな」
私と兄の髪色や瞳の色はかなり似ている。
鮮やかな金髪はもちろんのこと、オーキッド色の瞳もだ。
ただ、兄の方が瞳の色が濃い。
今日私が身にまとっているのは濃いプルシャンブルーのドレスだった。
色味が濃いことで暗くならないように、布地と同色のレースを重ねて軽やかさを印象づけている。
そしてアクセサリーはブラックダイヤ。
おそらくエマは可愛らしくも豪華なドレスを着て参加するだろう。
ライアンの色にそろえるならどちらにしろ明るい色合いになる。
だから私はあえて逆を選択した。
こっそりとダグラスの色に近い色をまとっているわけじゃない。
わけじゃないよ!
……と心の中で誰にともなく言い訳したくなるのはなぜだろう……。
ダグラスは黒髪黒眼だからドレスに取り入れるには難しい色だ。
その点アクセサリーなら可能ということもあり、イヤリングとネックレスはブラックダイヤを選んでいる。
実はこの前の夜にダグラスからプレゼントされた物だったりするんだけど。
私はまだライアンの婚約者だから、これって浮気になるのだろうか?
チラッとそんなことが頭の隅を掠めたけれど、そもそも舞踏会に参加するために必要なドレスもアクセサリーも、何も贈らないライアンが悪いのでは?という結論に達する。
幼い頃に婚約を決められてからずっと、婚約者がいる身にも関わらずまともにアクセサリー類をプレゼントされたのは初めてだった。
ライアンは最初から一貫して婚約者の義務を放棄し続けている。
そのくせ浮気をしてさらにこんな場所で婚約破棄を宣言するなんて……。
いや、考えれば考えるほど最低なのでは?
本当、いったいどういう思考回路だったらあんな風になるのか疑問でしかないわ。
そんなことを思いながら私は兄と自分の名前が呼ばれるのを待った。
王族の入場は一番最後になる。
本来であればその時に私はライアンと一緒に入場するはずだが、ライアンはエマを伴ってくるだろう。
今の静かな時間は嵐の前の静けさだ。
ドアが開けば、断罪劇場の幕が上がる。
最後に笑うのは私かそれともエマか。
できる限りの準備はしてきた。
ゲームの強制力になんて負けない。
邪魔をする者は徹底的に排除してみせる。
だから。
エマも王妃も首を洗って待ってるがいい。
「リアム・ウェルズ公爵子息、並びにエレナ・ウェルズ嬢」
入場者を告げる係の声が聞こえた。
「お兄さま、戦闘開始ですわよ」
「物騒だな」
私の言葉に兄がとてもいい笑顔で答える。
どこか吹っ切れたようなその顔は不敵にさえ見えた。
扉の向こう側が明るい。
その眩しい舞台に向かって、私は兄にエスコートされながら一歩を踏み出した。
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