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悪役令嬢は報告を聞く
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ロキがレンブラント家の領地に発ってから一週間。
滞りなく仕事を終えて帰ってきたとの連絡がルドからダグラス経由で届いた。
何事も対策は早い方がいい。
そう思った私はさっそく翌日に共有街の詰所までやってきた。
もちろん、兄とダグラス、レオも一緒だ。
詰所の所長室には以前と同様にルドとロキだけでなくデュランも集まっている。
「まずは領地を調べた結果からご報告します」
そう言ってロキは一枚の紙を見せてきた。
報告書といえるほどのものではないが、調べた項目とその結果が箇条書きで記されている。
「最重要確認事項であった薬草の栽培に関してですが、レオ殿が言っていた通り侯爵家のカントリーハウスの敷地内で今も栽培されていました」
そう言ってロキは私の貸した記録のアーティファクトを取り出す。
「入口側からは見えない位置、さらには限られた人以外が入れない場所に当たりをつけて探ってみたのですが、裏庭の一角が利用されていました。栽培に関わる人数は最小限にして、おそらく口外しないように何かしらの制約をかけていると思われます」
このアーティファクトは記録したものを立体映像ホログラムのように映し出す物だ。
一つの映像に対して一つ魔石を必要とする。
グラント国にはすでに発掘できる魔石は無く、それもあって国内で使用していた魔道具は廃れたという。
それでも近隣諸国ではまだ魔石が出るところもあり、希少な魔石やアーティファクトは高額で取引されることが常だ。
考えてみればレンブラント家は他国とのやりとりが活発な家。
仕事上でもつき合いがあるようだし、親族の中で他国に嫁いだ者もいる。
そう考えるとアーティファクトや魔石が手に入りやすい環境ともいえた。
「王都に比べれば警備が厳重ではないかもしれませんが、侯爵家のカントリーハウスによく忍び込めましたね」
兄が感心したように言うのに対してロキはそんなことはできて当たり前という感じだ。
「まぁそこは企業秘密ということで。ああいう屋敷は入るのは難しいですが、入ってしまえば案外動けるものですよ」
もしかするとロキは諜報活動が得意なタイプかもしれない。
王家の影にはそれぞれ得意とする分野があるという。
隠密での護衛とか、敵の情報を探る諜報活動とか。
そういったことも見越してルドはロキを指名したのだろうか。
私がそんなことをつらつらと考えているうちにロキがアーティファクトのセットを終えた。
「まずは見ていただいた方がわかりやすいかと」
記録のアーティファクトが映し出したのはカントリーハウスの裏庭に広がる薬草畑だった。
作業しているのは中年と思しき男性が一人。
黙々と土や葉の状態を確認し、水やりをしている。
しばらくするとその男性はどこかへ向かったのか姿を消した。
その後音のない映像が畑の方に近づいて行く。
おそらくロキが無言で畑まで移動しているのだろう。
畑のすぐ側までくるとそこで栽培されているのがどんな薬草かわかるようにしっかりとその姿形を映像に残し、さらには周囲をぐるりと映し出した。
邸宅の屋根の上にレンブラント家の家紋が描かれた旗が見える。
なるほど。
これなら薬草が栽培されているのがレンブラント家の敷地内だという証拠になるわね。
そう思ったところで映像が終わった。
「薬草栽培に関わっているのは今映っていた男ともう一人老齢の男がいました。おそらく親子ではないかと」
ロキの報告には淀みがない。
一番最初にダグラスに陽気に話しかけてきた姿はどちらかというと脳筋のイメージだったが、思った以上に優秀だ。
それとも表で見せている姿は仮の姿のようなものなのだろうか。
なんとも失礼なことを考えながら私は続く報告に耳を傾けた。
ロキが調べてきてくれたのは薬草の件ともう一つ。
長年レンブラント家に雇用されていた使用人についてだった。
「つまり、周囲からは年老いても追い出すことなく雇用してくれる慈悲深い家だと思わせておいて、その実口止めを兼ねて見張っていたということか?」
ルドがロキの報告を簡潔にまとめる。
レンブラント家はあの二つの事件を起こした時に関わった使用人をカントリーハウスに住まわせ、その身柄、さらには家族までを監視下において長年雇用し続けてきたということだ。
雇用といえば聞こえはいいが、監禁に近いのかもしれない。
さらには家族を人質に取っていたともいえる。
「実は本当につい最近その中の一人が雇用解除されたらしく、話を聞くことができました。事件からかなり時間が経ったこともあってか管理する側も少し緩くなってきているのでしょう。本来であれば死ぬまでカントリーハウスから出られないところ、せめて人生の最後は家族の元でという希望を聞いた形で雇用解除されていました」
そう言うとロキが別の魔石を記録のアーティファクトにセットした。
映し出されたのは小ぢんまりとした家の中の一室。
ベッドに年老いた老人が横たわっている。
彼が語った話を要約するとこうだ。
彼は事件の当時レンブラント家に雇われたばかりの御者だった。
ある日特別手当をつけるからと言われて指示された場所で傭兵のような男たちを乗せてからとある場所に向かった。
すると、男たちは身分の高そうな男性を襲い殺害してしまった。
後になってそれが側妃殿下の父親である侯爵家当主と知った頃には時すでに遅く、以降はずっとレンブラント家のカントリーハウスで飼い殺しのようにされていた、と。
それでも長年反抗することなく大人しくしていたところ、同じ使用人の娘と恋に落ち、なんとか許しをもらい家族となった。
老い先短い状況となった今、せめて最期は家族と共にいたいと訴えて雇用を解除、つまり監視下から逃れることができたのだと。
事件の時に雇ったばかりの者を御者にしたのは場合によっては始末してしまえばいいと考えたからだろう。
それを思うと生き延びられたのは幸運ではあるが、その後の人生を考えれば幸せに過ごせたとは言い切れない。
理不尽に人生を搾取されたともいえる。
「以上になります」
そう言って、ロキは報告を終えた。
滞りなく仕事を終えて帰ってきたとの連絡がルドからダグラス経由で届いた。
何事も対策は早い方がいい。
そう思った私はさっそく翌日に共有街の詰所までやってきた。
もちろん、兄とダグラス、レオも一緒だ。
詰所の所長室には以前と同様にルドとロキだけでなくデュランも集まっている。
「まずは領地を調べた結果からご報告します」
そう言ってロキは一枚の紙を見せてきた。
報告書といえるほどのものではないが、調べた項目とその結果が箇条書きで記されている。
「最重要確認事項であった薬草の栽培に関してですが、レオ殿が言っていた通り侯爵家のカントリーハウスの敷地内で今も栽培されていました」
そう言ってロキは私の貸した記録のアーティファクトを取り出す。
「入口側からは見えない位置、さらには限られた人以外が入れない場所に当たりをつけて探ってみたのですが、裏庭の一角が利用されていました。栽培に関わる人数は最小限にして、おそらく口外しないように何かしらの制約をかけていると思われます」
このアーティファクトは記録したものを立体映像ホログラムのように映し出す物だ。
一つの映像に対して一つ魔石を必要とする。
グラント国にはすでに発掘できる魔石は無く、それもあって国内で使用していた魔道具は廃れたという。
それでも近隣諸国ではまだ魔石が出るところもあり、希少な魔石やアーティファクトは高額で取引されることが常だ。
考えてみればレンブラント家は他国とのやりとりが活発な家。
仕事上でもつき合いがあるようだし、親族の中で他国に嫁いだ者もいる。
そう考えるとアーティファクトや魔石が手に入りやすい環境ともいえた。
「王都に比べれば警備が厳重ではないかもしれませんが、侯爵家のカントリーハウスによく忍び込めましたね」
兄が感心したように言うのに対してロキはそんなことはできて当たり前という感じだ。
「まぁそこは企業秘密ということで。ああいう屋敷は入るのは難しいですが、入ってしまえば案外動けるものですよ」
もしかするとロキは諜報活動が得意なタイプかもしれない。
王家の影にはそれぞれ得意とする分野があるという。
隠密での護衛とか、敵の情報を探る諜報活動とか。
そういったことも見越してルドはロキを指名したのだろうか。
私がそんなことをつらつらと考えているうちにロキがアーティファクトのセットを終えた。
「まずは見ていただいた方がわかりやすいかと」
記録のアーティファクトが映し出したのはカントリーハウスの裏庭に広がる薬草畑だった。
作業しているのは中年と思しき男性が一人。
黙々と土や葉の状態を確認し、水やりをしている。
しばらくするとその男性はどこかへ向かったのか姿を消した。
その後音のない映像が畑の方に近づいて行く。
おそらくロキが無言で畑まで移動しているのだろう。
畑のすぐ側までくるとそこで栽培されているのがどんな薬草かわかるようにしっかりとその姿形を映像に残し、さらには周囲をぐるりと映し出した。
邸宅の屋根の上にレンブラント家の家紋が描かれた旗が見える。
なるほど。
これなら薬草が栽培されているのがレンブラント家の敷地内だという証拠になるわね。
そう思ったところで映像が終わった。
「薬草栽培に関わっているのは今映っていた男ともう一人老齢の男がいました。おそらく親子ではないかと」
ロキの報告には淀みがない。
一番最初にダグラスに陽気に話しかけてきた姿はどちらかというと脳筋のイメージだったが、思った以上に優秀だ。
それとも表で見せている姿は仮の姿のようなものなのだろうか。
なんとも失礼なことを考えながら私は続く報告に耳を傾けた。
ロキが調べてきてくれたのは薬草の件ともう一つ。
長年レンブラント家に雇用されていた使用人についてだった。
「つまり、周囲からは年老いても追い出すことなく雇用してくれる慈悲深い家だと思わせておいて、その実口止めを兼ねて見張っていたということか?」
ルドがロキの報告を簡潔にまとめる。
レンブラント家はあの二つの事件を起こした時に関わった使用人をカントリーハウスに住まわせ、その身柄、さらには家族までを監視下において長年雇用し続けてきたということだ。
雇用といえば聞こえはいいが、監禁に近いのかもしれない。
さらには家族を人質に取っていたともいえる。
「実は本当につい最近その中の一人が雇用解除されたらしく、話を聞くことができました。事件からかなり時間が経ったこともあってか管理する側も少し緩くなってきているのでしょう。本来であれば死ぬまでカントリーハウスから出られないところ、せめて人生の最後は家族の元でという希望を聞いた形で雇用解除されていました」
そう言うとロキが別の魔石を記録のアーティファクトにセットした。
映し出されたのは小ぢんまりとした家の中の一室。
ベッドに年老いた老人が横たわっている。
彼が語った話を要約するとこうだ。
彼は事件の当時レンブラント家に雇われたばかりの御者だった。
ある日特別手当をつけるからと言われて指示された場所で傭兵のような男たちを乗せてからとある場所に向かった。
すると、男たちは身分の高そうな男性を襲い殺害してしまった。
後になってそれが側妃殿下の父親である侯爵家当主と知った頃には時すでに遅く、以降はずっとレンブラント家のカントリーハウスで飼い殺しのようにされていた、と。
それでも長年反抗することなく大人しくしていたところ、同じ使用人の娘と恋に落ち、なんとか許しをもらい家族となった。
老い先短い状況となった今、せめて最期は家族と共にいたいと訴えて雇用を解除、つまり監視下から逃れることができたのだと。
事件の時に雇ったばかりの者を御者にしたのは場合によっては始末してしまえばいいと考えたからだろう。
それを思うと生き延びられたのは幸運ではあるが、その後の人生を考えれば幸せに過ごせたとは言い切れない。
理不尽に人生を搾取されたともいえる。
「以上になります」
そう言って、ロキは報告を終えた。
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