153 / 204
悪役令嬢はため息をつく
しおりを挟む
「嵐のようでしたわね」
唖然としながらクレアが言う。
「ライアン様ってあんな性格でしたかしら?」
そしてソフィが戸惑ったように続けた。
まぁ、ライアンは昔から思慮が足りずに短気な面があったけど、エマと一緒に行動するようになってからその欠点がさらに助長された感じはある。
相乗効果で悪くなるって……ある意味相性が最悪ってことなんだけど。
「昔から考え方が幼い面はお持ちでしたけど……今は近くでお諌めしたり助言する方がいらっしゃらないみたいですから、そのせいもあるのかもしれませんわ」
「あ……」
クレアがハッと気づいたような表情になる。
そう。
オーウェンもベイリーも、ライアンのそばにいた時はおかしいことはおかしいとちゃんと言っていた。
その点彼らは正しく側近だったし、今後のためにも身分に臆することなく忠告できる人材を学生のうちからつけるというのはライアンへの配慮だったはずだ。
結局ライアンは自分の手でその存在を切り捨ててしまったのだけど。
人と人の関係はお互いに影響し合うものだからより良くなることもあれば悪くなることだってある。
ライアンが悪い方へ変化しているとしたら、エマの影響なのかゲームの強制力なのか。
いずれにせよだからといって許せるものではない。
「さぁさぁ、今のことは忘れて、せっかくなのでドレス選びを楽しみましょう?」
気持ちを切り替えるように言った私の言葉に、辺りに漂っていた後味の悪い雰囲気が掻き消えた。
その後、クレアとソフィの意見も取り入れながらジェシカと私のドレス選びは終了した。
二人は婚約者と色をそろえるという制限があるためか自分のドレスではあまり冒険ができないらしく、それはそれは楽しく私たちのドレスを選んでくれた。
特にジェシカのドレス選びが白熱したのはどんなドレスでも着こなせるからだ。
やっぱり引き締まった体ってドレスを選ばないのね。
ジェシカは鍛えているせいもあるのか出るところは出ているし、体幹がしっかりしているためとても姿勢が良い。
クレアもスタイル抜群だが、彼女は見るからに艶やかでけしからん体型であるのに対して、ジェシカは脱いだらすごいパターンだった。
いやぁ、途中でライアンとエマの乱入があったものの、可愛い女の子たちとのショッピングはとても良い時間でした。
誰にともなくご馳走さまと心の中で呟きつつ、私は馬車に揺られていた。
遠慮するジェシカを先に送り届けての帰りである。
クレアとソフィはそれぞれの家から迎えが来ていたが、ジェシカは自力で帰るというのだからやはり彼女も貴族令嬢としては特殊なのだろう。
「エレナ様が楽しまれたようで何よりです」
不意に目の前に座っているレオがそう言って、私はでもねぇと思い返す。
今回のショッピングで、レオはエレナ様至上主義を遺憾なく発揮していた。
それはもう周りがドン引きするレベルで。
ドレスに合わせる靴を選ぶ時なんて、自らの腿に靴を乗せ恭しく私の前に跪くんだから。
いやいや、その靴なかなかのヒールよ?
ピンヒールとまではいかないけれど、腿の上に置いたら痛いのでは?
それ以上に靴を履くための台はちゃんとあるんだけど!
ただ、それでもレオがちゃんと線引きしているんだなと思ったのは私の足にはほんの少しも触れなかったこと。
淑女の足は家族か婚約者でもなければ見せてはいけないものというのがこの世界の常識ということもあって、レオは私が試し履きする時も台役に徹していた。
いや、それなら普通に台を使えば良くない?って思うんだけどね。
なぜかそれを嬉々としてやっていたんだから、ジェシカだけでなくクレアとソフィも驚くはずだわ。
別れ際なんて未知なる生物を見るような目でレオのことを見ていたような気がしなくもない。
それでいいのか、レオ。
そう思いながらも、なんだか楽しそうな本人を見ていると止める気にもならなかったのだけど。
まぁ、害があるわけではないしいいのかしら?
兄やダグラスに知られたら自覚が足りないって怒られそうだけど。
でも本当、不思議なことにレオからは男女のあれやこれやな感情は感じない。
ただ純粋に私に仕えるのが嬉しいという態度をされるとどうしたらいいか困るんだよね。
以前レオはこう言った。
自分の心と体は繋がっていないのだと。
小さな頃から理不尽な目に遭い続けてきたレオは、心で拒否していることであっても体は別の意志で動かすことができるらしい。
それが自分を守るための術だったんだろうけど、聞いていた私は心が潰れる気持ちになった。
笑顔で『王妃のことは憎悪していますけど、抱くことはできます』って言われた時はどうしようかと思ったよ……。
だから私はできる限りレオがやりたがることはさせてあげたい。
もちろん、私の意思に反することはダメだけど。
麗しい容姿の美丈夫が微笑む様を眺めながら、私はなんともいえないため息をついたのだった。
唖然としながらクレアが言う。
「ライアン様ってあんな性格でしたかしら?」
そしてソフィが戸惑ったように続けた。
まぁ、ライアンは昔から思慮が足りずに短気な面があったけど、エマと一緒に行動するようになってからその欠点がさらに助長された感じはある。
相乗効果で悪くなるって……ある意味相性が最悪ってことなんだけど。
「昔から考え方が幼い面はお持ちでしたけど……今は近くでお諌めしたり助言する方がいらっしゃらないみたいですから、そのせいもあるのかもしれませんわ」
「あ……」
クレアがハッと気づいたような表情になる。
そう。
オーウェンもベイリーも、ライアンのそばにいた時はおかしいことはおかしいとちゃんと言っていた。
その点彼らは正しく側近だったし、今後のためにも身分に臆することなく忠告できる人材を学生のうちからつけるというのはライアンへの配慮だったはずだ。
結局ライアンは自分の手でその存在を切り捨ててしまったのだけど。
人と人の関係はお互いに影響し合うものだからより良くなることもあれば悪くなることだってある。
ライアンが悪い方へ変化しているとしたら、エマの影響なのかゲームの強制力なのか。
いずれにせよだからといって許せるものではない。
「さぁさぁ、今のことは忘れて、せっかくなのでドレス選びを楽しみましょう?」
気持ちを切り替えるように言った私の言葉に、辺りに漂っていた後味の悪い雰囲気が掻き消えた。
その後、クレアとソフィの意見も取り入れながらジェシカと私のドレス選びは終了した。
二人は婚約者と色をそろえるという制限があるためか自分のドレスではあまり冒険ができないらしく、それはそれは楽しく私たちのドレスを選んでくれた。
特にジェシカのドレス選びが白熱したのはどんなドレスでも着こなせるからだ。
やっぱり引き締まった体ってドレスを選ばないのね。
ジェシカは鍛えているせいもあるのか出るところは出ているし、体幹がしっかりしているためとても姿勢が良い。
クレアもスタイル抜群だが、彼女は見るからに艶やかでけしからん体型であるのに対して、ジェシカは脱いだらすごいパターンだった。
いやぁ、途中でライアンとエマの乱入があったものの、可愛い女の子たちとのショッピングはとても良い時間でした。
誰にともなくご馳走さまと心の中で呟きつつ、私は馬車に揺られていた。
遠慮するジェシカを先に送り届けての帰りである。
クレアとソフィはそれぞれの家から迎えが来ていたが、ジェシカは自力で帰るというのだからやはり彼女も貴族令嬢としては特殊なのだろう。
「エレナ様が楽しまれたようで何よりです」
不意に目の前に座っているレオがそう言って、私はでもねぇと思い返す。
今回のショッピングで、レオはエレナ様至上主義を遺憾なく発揮していた。
それはもう周りがドン引きするレベルで。
ドレスに合わせる靴を選ぶ時なんて、自らの腿に靴を乗せ恭しく私の前に跪くんだから。
いやいや、その靴なかなかのヒールよ?
ピンヒールとまではいかないけれど、腿の上に置いたら痛いのでは?
それ以上に靴を履くための台はちゃんとあるんだけど!
ただ、それでもレオがちゃんと線引きしているんだなと思ったのは私の足にはほんの少しも触れなかったこと。
淑女の足は家族か婚約者でもなければ見せてはいけないものというのがこの世界の常識ということもあって、レオは私が試し履きする時も台役に徹していた。
いや、それなら普通に台を使えば良くない?って思うんだけどね。
なぜかそれを嬉々としてやっていたんだから、ジェシカだけでなくクレアとソフィも驚くはずだわ。
別れ際なんて未知なる生物を見るような目でレオのことを見ていたような気がしなくもない。
それでいいのか、レオ。
そう思いながらも、なんだか楽しそうな本人を見ていると止める気にもならなかったのだけど。
まぁ、害があるわけではないしいいのかしら?
兄やダグラスに知られたら自覚が足りないって怒られそうだけど。
でも本当、不思議なことにレオからは男女のあれやこれやな感情は感じない。
ただ純粋に私に仕えるのが嬉しいという態度をされるとどうしたらいいか困るんだよね。
以前レオはこう言った。
自分の心と体は繋がっていないのだと。
小さな頃から理不尽な目に遭い続けてきたレオは、心で拒否していることであっても体は別の意志で動かすことができるらしい。
それが自分を守るための術だったんだろうけど、聞いていた私は心が潰れる気持ちになった。
笑顔で『王妃のことは憎悪していますけど、抱くことはできます』って言われた時はどうしようかと思ったよ……。
だから私はできる限りレオがやりたがることはさせてあげたい。
もちろん、私の意思に反することはダメだけど。
麗しい容姿の美丈夫が微笑む様を眺めながら、私はなんともいえないため息をついたのだった。
704
お気に入りに追加
2,273
あなたにおすすめの小説

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

〈完結〉【コミカライズ・取り下げ予定】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約
ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」
「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」
「もう少し、肉感的な方が好きだな」
あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。
でも、だめだったのです。
だって、あなたはお姉様が好きだから。
私は、お姉様にはなれません。
想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。
それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる