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悪役令嬢は護衛の涙を見る
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とりあえず手当が必要だろうということでレオと共に保健室にやってきた。
「失礼します」
声をかけて入室したが保健の先生は不在だ。
「そういえば先ほど騎士科の方で何人か怪我人が出ていましたので、そちらに呼ばれているのでしょう」
そう言うと保健室の備品を使ってレオが手早く手当をしてくれる。
きっといろいろと聞きたいことがあるのだろうけど、まずは小言がやってきた。
「いったいなぜこんなことを。自ら自分の体に傷をつけるなんて……。このことはご報告させていただきます」
「両親は私が何しようが気にもしないわ。なので報告は不要ですわよ。ああでも、ライアン様の婚約者として使い物にならなくなるような傷は困ると思いますけど……今回の傷はそれほどではないですもの」
私の言葉にレオの眉間に皺がよる。
あらあら。
綺麗な顔が台無しよー。
「それにあれは……」
レオが言い淀んだのは隷属のアーティファクトの件だろう。
なんと言おうか迷っているように感じる。
まぁ、そうよね。
なぜあれがあそこにあったのかとか、なぜ私が血を滴らせていたのかとか、何よりもあの光。
きっとレオの頭の中には疑問が渦巻いていることだろう。
「まず聞きたいのだけれど、今の体調はどうかしら?今までと何か変わったところは?」
「それは……」
レオがハッとしたような顔をした。
そしてすぐに自分の手足を動かし、その後胸、そして首に手を当てる。
「重苦しくない……」
驚きからなのかレオの目が見開かれる。
「重苦しく?」
「ずっとまとわりついていたのに」
何が?と聞きたいところだったけれど、レオの言葉はほとんど独り言だ。
「なぜ?」
そしてレオも気づいたのだろう。
あの状況から考えるに、自分の身に起こったことと私の怪我が無関係ではないということに。
「そうね。まずは何から説明しようかしら」
そう前置きをして、私はすでにレオの生い立ちや現在の状況を知っていること、さらには隷属のアーティファクトの詳細と解放方法について話した。
「なんてことを……」
そう言ってレオはしばらく言葉を失う。
「あなたは自由になったのよ」
「自由……。その引き換えにお嬢さまは何を望むのでしょう?」
レオに望むもの……か。
本当はデュランやダグラスに言った通り、王妃に対してこちらの味方になってもらいたいという打算はある。
でもそれをこの場で言う気にはなれなかった。
ダグラスたちにはああ言ったものの、私としては何の見返りもいらないと思っていたからだ。
そもそもはレオが王妃の手先でなくなるだけでも意味のあることだと思う。
敵かもしれない存在を常に身近に置くと言うのはそれだけでストレスだから。
もちろん、王妃に対してレオがどう思っているかの確認は必要だけどね。
「そうですわね……何もいらないわ」
「……何も?」
ああでも、ずっと誰かに隷属することを強いられていたレオにとっては『何も求められない』方が怖いのかもしれない。
無償の行為なんて信じられないだろう。
「敢えて言うのであれば、私を害さないで欲しいですわね」
戸惑いをその顔に浮かべるレオはいつもよりも幼く見えた。
まるで迷子の子どものようだ。
「命令が無ければお嬢さまを害することはありません」
「レオ、もうあなたに対して命令する人はいませんわ。何をしたいか、どうするのか、決めるのはあなた自身よ」
「私自身が決める……決めることができる……」
その心に渦巻く感情は何だろう。
言葉を噛み締めるように呟いたレオの瞳から、一筋だけ涙がこぼれ落ちた。
「失礼します」
声をかけて入室したが保健の先生は不在だ。
「そういえば先ほど騎士科の方で何人か怪我人が出ていましたので、そちらに呼ばれているのでしょう」
そう言うと保健室の備品を使ってレオが手早く手当をしてくれる。
きっといろいろと聞きたいことがあるのだろうけど、まずは小言がやってきた。
「いったいなぜこんなことを。自ら自分の体に傷をつけるなんて……。このことはご報告させていただきます」
「両親は私が何しようが気にもしないわ。なので報告は不要ですわよ。ああでも、ライアン様の婚約者として使い物にならなくなるような傷は困ると思いますけど……今回の傷はそれほどではないですもの」
私の言葉にレオの眉間に皺がよる。
あらあら。
綺麗な顔が台無しよー。
「それにあれは……」
レオが言い淀んだのは隷属のアーティファクトの件だろう。
なんと言おうか迷っているように感じる。
まぁ、そうよね。
なぜあれがあそこにあったのかとか、なぜ私が血を滴らせていたのかとか、何よりもあの光。
きっとレオの頭の中には疑問が渦巻いていることだろう。
「まず聞きたいのだけれど、今の体調はどうかしら?今までと何か変わったところは?」
「それは……」
レオがハッとしたような顔をした。
そしてすぐに自分の手足を動かし、その後胸、そして首に手を当てる。
「重苦しくない……」
驚きからなのかレオの目が見開かれる。
「重苦しく?」
「ずっとまとわりついていたのに」
何が?と聞きたいところだったけれど、レオの言葉はほとんど独り言だ。
「なぜ?」
そしてレオも気づいたのだろう。
あの状況から考えるに、自分の身に起こったことと私の怪我が無関係ではないということに。
「そうね。まずは何から説明しようかしら」
そう前置きをして、私はすでにレオの生い立ちや現在の状況を知っていること、さらには隷属のアーティファクトの詳細と解放方法について話した。
「なんてことを……」
そう言ってレオはしばらく言葉を失う。
「あなたは自由になったのよ」
「自由……。その引き換えにお嬢さまは何を望むのでしょう?」
レオに望むもの……か。
本当はデュランやダグラスに言った通り、王妃に対してこちらの味方になってもらいたいという打算はある。
でもそれをこの場で言う気にはなれなかった。
ダグラスたちにはああ言ったものの、私としては何の見返りもいらないと思っていたからだ。
そもそもはレオが王妃の手先でなくなるだけでも意味のあることだと思う。
敵かもしれない存在を常に身近に置くと言うのはそれだけでストレスだから。
もちろん、王妃に対してレオがどう思っているかの確認は必要だけどね。
「そうですわね……何もいらないわ」
「……何も?」
ああでも、ずっと誰かに隷属することを強いられていたレオにとっては『何も求められない』方が怖いのかもしれない。
無償の行為なんて信じられないだろう。
「敢えて言うのであれば、私を害さないで欲しいですわね」
戸惑いをその顔に浮かべるレオはいつもよりも幼く見えた。
まるで迷子の子どものようだ。
「命令が無ければお嬢さまを害することはありません」
「レオ、もうあなたに対して命令する人はいませんわ。何をしたいか、どうするのか、決めるのはあなた自身よ」
「私自身が決める……決めることができる……」
その心に渦巻く感情は何だろう。
言葉を噛み締めるように呟いたレオの瞳から、一筋だけ涙がこぼれ落ちた。
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