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悪役令嬢は事実を告げる
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「二つ目の月の二の舞になりたくなくば身の程をわきまえよ」
私が告げた言葉に、兄を除く三人が一瞬怪訝そうな顔をした。
「そして今日の襲撃犯はこう言いました」
一旦言葉を切って私は三人を見回す。
「警告する。余計なことに首を突っ込むな。月は隠れた。それだけが事実だ」
レンブラント家からの手紙と今日の犯人が言った共通の言葉。
『月』が誰を指すのか。
「警告に関しては俺も聞きました。……エレナ様、最初の言葉はどこから?」
ダグラスの眼差しが揺れていた。
察しが良いのは生きていく上で有用ではあるけれど、苦しみを増すこともある。
ある意味鈍く生きる方が楽だったりするのに。
セリフにすればたった二行くらいの内容で、ダグラスはすぐに気づいたのだろう。
「最初の言葉は私の両親宛にレンブラント家から送られてきた手紙に書かれていた言葉ですわ」
「レンブラント家…!」
思わず、といった感じでロキが言葉を漏らした。
ダグラスはと見やれば、軽く目を見開き片手で口を覆っている。
いつだって冷静沈着な彼にしては珍しい仕草だった。
「私は側妃殿下を害したのはレンブラント家、そして王妃殿下だと考えています」
あえて抑揚を抑えて事実のみを告げる。
「月はグラント国において妃殿下を指す言葉。二つ目の月となれば側妃殿下のことでしょう」
この先の言葉はある意味自分の家の恥を晒すようなものではあるが、私は続けた。
「どのような経緯があったのかはわかりませんが、側妃殿下の事件に関して両親が何かしらのやり取りをレンブラント家と交わしたのだと思っています。その結果警告を受けたのではないかと」
ダグラスがこの事実をどう受け止めたのか、見るのが怖い。
私はルドに視線を定めたまま言った。
「だからダグラスに伝える前にもう一度事件のことを調べようと思いましたの。今思えば愚かな判断だったと思いますわ」
そのせいで今日の襲撃は起こったのだろうから。
「なぜ、なぜすぐに相談してくれなかったのですか?」
ダグラスの掠れた声が聞こえた。
そこに込められた思いは何だろう。
怒り?憤り?
「証拠がなかったからですわ。確定していないことでダグラスの気持ちをかき乱したくなかったのです」
視線を下げるとダグラスの握りしめた拳が見えた。
ダグラスの気持ちを考えて言わなかったというのは本音だ。
でも本当にそれだけだったのかな。
私は自分の心の中を覗き込む。
「レンブラント家と王妃殿下が害したのが果たして側妃殿下だけだったのか、もしくは当時の侯爵家当主の事件もだったのか、私はそこにも疑問を持ちました」
自分のことなのに自分の気持ちがわからない。
迷子になったような心もとなさを感じながら、私は続けた。
「調べても何も出てこないかもしれない。それでも、ダグラスに話すのはある程度事実がはっきりしてからにしようと思っておりましたの」
「ところが思った以上に相手の反応が早かったということです」
私の説明に兄が言葉を付け足す。
「リアム殿は今エレナ嬢が言った内容を知っていたのか?」
「ええ。我が家の醜聞にも関わりますし、ことがことなだけにいい加減なことは言えませんからまずは事実確認をと思っていました」
ルドの質問に兄が答えた。
公爵家の次期当主としてはその判断で間違ってはいない。
「……!」
緊張感の高まった状況で、不意に肩を掴まれた。
「俺は!」
ダグラスのどことなく思いつめた瞳と目が合う。
「俺は、あなたを危険な目にあわせたくない」
え?
「ルド、俺は陛下の考えがずっとわからなかった。隠すことが守ることに繋がるのか、それが正しい方法なのか。でもその答えがわかった気がする」
肩を掴んでいた手が、そっと手のひらに移動した。
「たとえどれだけ手を尽くしても、たとえ国で一番高い位にいたとしても、大事な人を守ることは難しい。失うことが怖かったから、大切だったからこそ陛下は母を離宮に隠したのだと」
ダグラスの温かな手が私の手を持ち上げる。
「今後は間違っても一人で危険なことをしないでください」
まるで懇願するかのようにそう言うと、ダグラスは私の手を一瞬だけその額に触れさせた。
私が告げた言葉に、兄を除く三人が一瞬怪訝そうな顔をした。
「そして今日の襲撃犯はこう言いました」
一旦言葉を切って私は三人を見回す。
「警告する。余計なことに首を突っ込むな。月は隠れた。それだけが事実だ」
レンブラント家からの手紙と今日の犯人が言った共通の言葉。
『月』が誰を指すのか。
「警告に関しては俺も聞きました。……エレナ様、最初の言葉はどこから?」
ダグラスの眼差しが揺れていた。
察しが良いのは生きていく上で有用ではあるけれど、苦しみを増すこともある。
ある意味鈍く生きる方が楽だったりするのに。
セリフにすればたった二行くらいの内容で、ダグラスはすぐに気づいたのだろう。
「最初の言葉は私の両親宛にレンブラント家から送られてきた手紙に書かれていた言葉ですわ」
「レンブラント家…!」
思わず、といった感じでロキが言葉を漏らした。
ダグラスはと見やれば、軽く目を見開き片手で口を覆っている。
いつだって冷静沈着な彼にしては珍しい仕草だった。
「私は側妃殿下を害したのはレンブラント家、そして王妃殿下だと考えています」
あえて抑揚を抑えて事実のみを告げる。
「月はグラント国において妃殿下を指す言葉。二つ目の月となれば側妃殿下のことでしょう」
この先の言葉はある意味自分の家の恥を晒すようなものではあるが、私は続けた。
「どのような経緯があったのかはわかりませんが、側妃殿下の事件に関して両親が何かしらのやり取りをレンブラント家と交わしたのだと思っています。その結果警告を受けたのではないかと」
ダグラスがこの事実をどう受け止めたのか、見るのが怖い。
私はルドに視線を定めたまま言った。
「だからダグラスに伝える前にもう一度事件のことを調べようと思いましたの。今思えば愚かな判断だったと思いますわ」
そのせいで今日の襲撃は起こったのだろうから。
「なぜ、なぜすぐに相談してくれなかったのですか?」
ダグラスの掠れた声が聞こえた。
そこに込められた思いは何だろう。
怒り?憤り?
「証拠がなかったからですわ。確定していないことでダグラスの気持ちをかき乱したくなかったのです」
視線を下げるとダグラスの握りしめた拳が見えた。
ダグラスの気持ちを考えて言わなかったというのは本音だ。
でも本当にそれだけだったのかな。
私は自分の心の中を覗き込む。
「レンブラント家と王妃殿下が害したのが果たして側妃殿下だけだったのか、もしくは当時の侯爵家当主の事件もだったのか、私はそこにも疑問を持ちました」
自分のことなのに自分の気持ちがわからない。
迷子になったような心もとなさを感じながら、私は続けた。
「調べても何も出てこないかもしれない。それでも、ダグラスに話すのはある程度事実がはっきりしてからにしようと思っておりましたの」
「ところが思った以上に相手の反応が早かったということです」
私の説明に兄が言葉を付け足す。
「リアム殿は今エレナ嬢が言った内容を知っていたのか?」
「ええ。我が家の醜聞にも関わりますし、ことがことなだけにいい加減なことは言えませんからまずは事実確認をと思っていました」
ルドの質問に兄が答えた。
公爵家の次期当主としてはその判断で間違ってはいない。
「……!」
緊張感の高まった状況で、不意に肩を掴まれた。
「俺は!」
ダグラスのどことなく思いつめた瞳と目が合う。
「俺は、あなたを危険な目にあわせたくない」
え?
「ルド、俺は陛下の考えがずっとわからなかった。隠すことが守ることに繋がるのか、それが正しい方法なのか。でもその答えがわかった気がする」
肩を掴んでいた手が、そっと手のひらに移動した。
「たとえどれだけ手を尽くしても、たとえ国で一番高い位にいたとしても、大事な人を守ることは難しい。失うことが怖かったから、大切だったからこそ陛下は母を離宮に隠したのだと」
ダグラスの温かな手が私の手を持ち上げる。
「今後は間違っても一人で危険なことをしないでください」
まるで懇願するかのようにそう言うと、ダグラスは私の手を一瞬だけその額に触れさせた。
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