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悪役令嬢は兄の心配を知る
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学園にいたであろう兄は文字通りすっ飛んで来た。
「エレナ!!大丈夫か!?」
所長室の扉を壊さんばかりの勢いで開け放ち兄が言う。
いったい使いの人は兄になんて言ったの!?
あまりの勢いに驚くあまり思わず固まってしまった私は悪くないだろう。
部屋に飛び込んできた兄は私の肩を掴むと、あちこちに視線を走らせ怪我がないかと確かめる。
兄のそんな様子を見てだんだんと落ち着いてきた私は今度は少し面映ゆくなった。
誰かにこんなにも心配されたことがあまりなかったからだ。
ゲームでは攻略対象者と悪役令嬢として敵対するはずだったのに、と不思議な気持ちになる。
今では普通の兄妹のようにお互いを思いやれるような関係に近づけているのではないか、というのは甘い考えだろうか。
「お兄さま、落ち着いてくださいませ。私はなんともありませんわ」
「学園からの帰りに馬車ごと誘拐されたあげく襲われたと聞いたんだが!」
いやまぁ間違ってはいないけど。
しかも共有街の詰所から使いが来たとなれば焦りもするのだろう。
「ダグラスがいてくれたので大丈夫でしたわ」
「そ……そうか」
そう言うと兄はダグラスに向き合い礼を言う。
「ダグラス殿、妹を助けていただき助かった。ありがとう」
「リアム殿、俺の仕事はお嬢さまの護衛なので当たり前のことをしたまでです」
「いや、そうなんだが……」
兄にしてみれは第一王子に助けてもらったという意識が強いのかもしれない。
「なるほど。リアム殿はダグラスの素性を知っているとみえる」
そんな二人のやり取りを見て、ルドは二人の関係性を間違えることなく把握する。
やっぱり侮れないよね。
その観察眼。
「あ、いや、素性とはいったい?」
兄にしてみればルドやロキとは初対面である。
ここで迂闊なことも言えないし、何と言うべきか困るところだろう。
「お兄さま、我が家の雇っていた御者は襲撃犯と共謀しておりましたわ。馬車ごと私たちを共有街の人気のないところまで連れ去ったあげく置いて逃げましたから」
「何だと!?邸内にまで裏切り者がいるということか」
そう。
家の中であっても安全ではない。
「使用人は基本的に両親が雇った者たちだからな……」
兄が個別で雇っているフットマンや私が雇用登録をしたミラとルーク以外は誰が敵となってもおかしくはないのだ。
純粋に金銭に惹かれてとか、はたまた大事な人を人質に取られたとか、理由は様々だったとしても裏切る者はいると思っておかなければならないだろう。
護衛として長い時間身近にいるダグラスを信用できる分まだ気が楽ではあるけれど。
その点レオは今のところ信用できない。
そういえば、デュランに頼んでいたレオの調査は終わったのかしら?
ふと思い浮かんだ疑問に意識が持っていかれて、この場に他の人たちがいることをうっかりと失念した。
「エレナ嬢。まずはお互いの自己紹介が必要だと思うのだが?」
「ええ、そうでしたわね」
ルドに言われてちょっと頬が赤くなる。
思考が何かに囚われると他のことが疎かになるのは私の悪い癖だった。
「ルド様、ロキ様、こちらは私の兄であるリアム・ウェルズですわ」
まずはルドとロキに兄を紹介する。
「お兄さま、こちらはこの詰所の所長のルド様、そして所員のロキ様です」
そして今度は兄にルドとロキを紹介した。
「お兄さまにこちらに来ていただいたのには理由がありますの」
「お前が誘拐されて襲撃されたからではないのか?」
「それだけが理由ならわざわざお呼びしませんわ」
私の返答に、兄が口の中でモゴモゴと「いや、そこは呼ぶべきところだろう?」と言っていたが話が進まないので黙殺する。
「そうですわね、まずはルド様から事情を聞いた方がいいかもしれません」
同じことを再び説明してもらうのは気が引けたが、ここはやはり当事者から話してもらった方が誤解がないはず。
「ルド様。同じ話で申し訳ありませんが、兄に先ほどのお話をもう一度していただけますかしら?」
「エレナ!!大丈夫か!?」
所長室の扉を壊さんばかりの勢いで開け放ち兄が言う。
いったい使いの人は兄になんて言ったの!?
あまりの勢いに驚くあまり思わず固まってしまった私は悪くないだろう。
部屋に飛び込んできた兄は私の肩を掴むと、あちこちに視線を走らせ怪我がないかと確かめる。
兄のそんな様子を見てだんだんと落ち着いてきた私は今度は少し面映ゆくなった。
誰かにこんなにも心配されたことがあまりなかったからだ。
ゲームでは攻略対象者と悪役令嬢として敵対するはずだったのに、と不思議な気持ちになる。
今では普通の兄妹のようにお互いを思いやれるような関係に近づけているのではないか、というのは甘い考えだろうか。
「お兄さま、落ち着いてくださいませ。私はなんともありませんわ」
「学園からの帰りに馬車ごと誘拐されたあげく襲われたと聞いたんだが!」
いやまぁ間違ってはいないけど。
しかも共有街の詰所から使いが来たとなれば焦りもするのだろう。
「ダグラスがいてくれたので大丈夫でしたわ」
「そ……そうか」
そう言うと兄はダグラスに向き合い礼を言う。
「ダグラス殿、妹を助けていただき助かった。ありがとう」
「リアム殿、俺の仕事はお嬢さまの護衛なので当たり前のことをしたまでです」
「いや、そうなんだが……」
兄にしてみれは第一王子に助けてもらったという意識が強いのかもしれない。
「なるほど。リアム殿はダグラスの素性を知っているとみえる」
そんな二人のやり取りを見て、ルドは二人の関係性を間違えることなく把握する。
やっぱり侮れないよね。
その観察眼。
「あ、いや、素性とはいったい?」
兄にしてみればルドやロキとは初対面である。
ここで迂闊なことも言えないし、何と言うべきか困るところだろう。
「お兄さま、我が家の雇っていた御者は襲撃犯と共謀しておりましたわ。馬車ごと私たちを共有街の人気のないところまで連れ去ったあげく置いて逃げましたから」
「何だと!?邸内にまで裏切り者がいるということか」
そう。
家の中であっても安全ではない。
「使用人は基本的に両親が雇った者たちだからな……」
兄が個別で雇っているフットマンや私が雇用登録をしたミラとルーク以外は誰が敵となってもおかしくはないのだ。
純粋に金銭に惹かれてとか、はたまた大事な人を人質に取られたとか、理由は様々だったとしても裏切る者はいると思っておかなければならないだろう。
護衛として長い時間身近にいるダグラスを信用できる分まだ気が楽ではあるけれど。
その点レオは今のところ信用できない。
そういえば、デュランに頼んでいたレオの調査は終わったのかしら?
ふと思い浮かんだ疑問に意識が持っていかれて、この場に他の人たちがいることをうっかりと失念した。
「エレナ嬢。まずはお互いの自己紹介が必要だと思うのだが?」
「ええ、そうでしたわね」
ルドに言われてちょっと頬が赤くなる。
思考が何かに囚われると他のことが疎かになるのは私の悪い癖だった。
「ルド様、ロキ様、こちらは私の兄であるリアム・ウェルズですわ」
まずはルドとロキに兄を紹介する。
「お兄さま、こちらはこの詰所の所長のルド様、そして所員のロキ様です」
そして今度は兄にルドとロキを紹介した。
「お兄さまにこちらに来ていただいたのには理由がありますの」
「お前が誘拐されて襲撃されたからではないのか?」
「それだけが理由ならわざわざお呼びしませんわ」
私の返答に、兄が口の中でモゴモゴと「いや、そこは呼ぶべきところだろう?」と言っていたが話が進まないので黙殺する。
「そうですわね、まずはルド様から事情を聞いた方がいいかもしれません」
同じことを再び説明してもらうのは気が引けたが、ここはやはり当事者から話してもらった方が誤解がないはず。
「ルド様。同じ話で申し訳ありませんが、兄に先ほどのお話をもう一度していただけますかしら?」
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