【受賞&書籍化】転生した悪役令嬢の断罪(本編完結済)

神宮寺 あおい@受賞&書籍化

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悪役令嬢は所長に気に入られる

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「襲撃犯は王妃の私衛、つまり王妃付きの影でした」

ダグラスの言葉にルドが目を見開き、体勢がいくぶん前のめりになった。

「それは間違いないのか?」
「ええ。襟元の紋章を見ましたので。装束も以前と変わっていないようですね」
「お前が見間違えることはないだろうが……。あっちはお前のことを知ってて襲ってきたのか?」
「いいえ。俺の存在には気づいていないと思います。奴らの狙いはエレナ様だったので」

ダグラス、ここでは『お嬢さま』ではなく名前呼びなのね。
思わず変なところが気になってしまった。

「なるほど……」

そう呟くとルドは顎を撫でながら何事か考え込む。
そしてふと気づいたように私に説明してくれた。

「影の存在についてはダグラスから聞いているということで良かったか?」
「ええ。聞いていますわ」
「影は基本的に所属先の紋章を襟元につけている。紋章には数字が振ってあって、任務中に何かあれば仲間がその紋章を持ち帰ることで誰が命を落としたのかがわかる仕組みだ」

任務によっては亡骸すら失うということね。
非常時にはそうやって他の誰かが最後を知らせる。
生死がわかるようにというのはせめてもの温情だろうか。

「しかしその仕組みでは他の仲間に紋章を預けて姿を消してしまえば亡くなった者として別の人生を歩めるのでは?もちろん、紋章を託した相手にはわかってしまいますが」

私の疑問にルドは面白いものを見つけたような顔をする。
さっきまではあくまで公爵令嬢に礼儀を尽くす程度の態度だったのが、俄然興味がわいたとわかる視線を感じた。

「エレナ・ウェルズ嬢は王太子殿下の婚約者として申し分ない能力を発揮しているがまるで感情の無い人形のようだと聞いていたが……噂とはやはり当てにならないものだな」

その噂、こんなところまで知られてるの?

「エレナ嬢の言う通り、影を辞めるためにそういった方法を取ることは可能だ。影となった時点で守秘義務の契約を交わすからたとえ逃げられたとしても王家の秘密が漏らされることもない」

とはいえそんなに簡単には抜けられないと思うんだけどね。

「基本的には主人に忠誠を誓う者しか影として任務に着くことはできないから、そんなことは滅多に起こらないがな。で、だ。今こんな話をすると言うことは、これからの話に関係のあることだと思わないか?」
「ルド、エレナ様を試すのは止めてください」

横からダグラスが制止する。

「いや、このお嬢さまは覚悟を決めた目をしている。こちらのことを明かさねば知ってることを教えてはくれないだろう」
「知ってること、ですか?」

ルドが言い切った言葉にダグラスが疑問を差し挟んだ。

「そうだ。エレナ嬢は今回の襲撃に関して思い当たることがある、そう見えるのだがどうだろうか?」

いやだわ。
なんでわかったのよ。

意志の強そうな瞳はすべてを見透かしそうで。
これだから頭の回転の速い人は困るのだ。

「何のことでしょう?」
「……いいだろう。まずはこちらの手の内を見せるから、その後にエレナ嬢は判断すればいい」

ルドが何を言うつもりなのかはわからなかった。
しかしここにきて私も、両親の元に届いた脅迫状や私が側妃の事件を調べていることを伝えて助力を得るべきなのではないかという考えが頭に浮かんできている。

個人で調べられることには限りがある。
しかも今回のように武力でもってして脅されればさらに動きづらくなるだろう。

「エレナ嬢は我々とダグラスがどんな関係なのか気になっているのではないか?」
「そうですわね。ダグラスにこれほど親しくしている方々がいるとは知りませんでしたわ」

もちろん、勤務時間外にダグラスが誰とつき合おうが仕事に影響がなければ問題ないしそのことについて私に知る権利があるわけではない。

そしてほんの少し一緒にいただけでも、彼らがダグラスにとって大事な存在なのは感じられた。

「彼らは、陛下の影だったんですよ」

ルドに言われるくらいならとでもいうように、ため息をつくとダグラスはそう言った。

陛下の……影!?
しかも「だった」って過去形!?

ああ、なるほど。
それでさっきの話に繋がるのね。
紋章を仲間に預けて姿を消すというあの話に。

「察しがいいのは助かるな」

ルドは私の反応がいたくお気に召したらしい。
うっすらと笑いながら満足気に頷いた。

「俺はかつては陛下の影であり、そしてダグラスを連れて城を出た者でもある」

!!
つまり、八歳のダグラスを連れて王城を出た人、ということ!?
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