120 / 204
悪役令嬢は所内に招かれる
しおりを挟む
ダグラスは閉じた扉の向こうで少し話をしていたが、しばらくすると扉をノックしてきた。
「お嬢さま、開けてもいいですか?」
「よろしくてよ」
扉が少し開くと、伏せたままの視線の先に大判のストールが見える。
「詰所の備品ですので品質はいまいちですが、これで顔を隠せば移動できるかと」
なるほど。
保護された女性とかに配られたりする物なのだろう。
泣き腫らした顔を晒すくらいならこのストールを頭から被って隠した方がいい。
本当、これだけの気遣いをどこで覚えてきたのやら。
「ありがとう。お借りするわ」
そう言って私はストールを被ると、ダグラスの手を借りて馬車を降りた。
このまま馬車は詰所の人が綺麗にしてくれるらしい。
血の汚れを家の使用人でもない人に掃除させるのは気が引けるが、彼らはあまり気にした様子がなかった。
もしかして慣れていたりするのだろうか。
詰所に持ち込まれるトラブルなら血を見ることも珍しくないのかもしれない。
ダグラスと先ほどの男の人に連れられて、私は詰所内に入る。
共有街にある詰所に貴族令嬢というのはやはり不似合いなのだろう。
身なりで平民ではないとわかるため顔を隠していても興味津々の視線を感じた。
それに気づいたのか、すぐにダグラスと男の人の間に挟まれる形となり体格の良い両側の二人のお陰で視線を感じずにすんだ。
「ようダグラス。彼女を連れてきたんだって?」
入り口に入ってすぐに低い声が揶揄うような言葉をかけてくる。
「ルド。そうじゃないとわかってるでしょう」
「まぁまぁ。ここにお前が女性を伴ってくるなんて珍しいからな。他の連中も気になってるんじゃないか?」
「好きで連れて来た訳じゃないですよ。事件に巻き込まれたのでその報告に」
ルドと呼ばれた男はダグラスよりも縦にも横にも大きかった。
上背があり全体的にがっしりとした体格だ。
髪の毛も目も焦茶色で特別目立った色ではないが、瞳の奥に宿る意志の強そうな光が印象的だった。
「なるほどな。じゃあその事件についての詳細は所長室で聞かせてもらおうか」
そう言うと、ルドは私たちを所内の奥まった場所にある部屋へと通す。
「そうそう、そこの男はロキと言う。この後の話にも参加するだろうからよろしくな」
ルドは私に対して軽い感じでロキという男を紹介した。
え?
それだけ?
ダグラスとの関係や、この詰所内でどういう立場の人とか、そういった紹介は全然なし?
驚いたけど、どうやらここではそれも普通のようだ。
ちなみにロキもルドに負けず劣らず背が高い。
体格的にはルドよりも細身だが、鍛えられた筋肉がついていることは見るだけでわかった。
茶色い髪に少し黄みがかった瞳はこの国ではよく見る色合いだ。
所長室内は機能的に整えられていた。
見た目脳筋に見えるルドは、それでいて実務能力も高そうだ。
余計な物が置かれていないスッキリと片づけられたデスクがそれを物語っている。
室内には所長の机の前にテーブルとソファが置いてあった。
誰かお客さんが来たらここで対応するのだろう。
「悪いがお茶なんぞは出せない。まぁ出せたとしても公爵令嬢の口には合わないだろうけどな」
その言葉で、ルドがすでに私が誰なのかを知っていることがわかった。
「名乗らずに失礼しましたわ。エレナ・ウェルズと申します」
「よく分かりましたね」
私の挨拶に続いてダグラスが言う。
「お前が連れて来た時点でだいたい予想はついた。それに、紋章は外してあるがあの馬車は公爵家のものだろう」
馬車は家によってデザインが違う。
ルドは公爵家の馬車だから知っていたのだろうか。
それとも主要な貴族家の馬車のデザインをすべて覚えているのか。
まさかね。
伯爵家以上だけでもかなりの数の家があるわけだし。
「で?事件に巻き込まれたって?」
「ええ、そうです」
「詳しい話を聞こう」
いったいダグラスとルドはどういった関係なんだろう?
ただの知り合いと言うには親しそうだし。
ダグラスは丁寧に話してはいるが、少し砕けた感じもする。
そしてロキと紹介された彼との関係もわからない。
少なからずお互い気心が知れた間柄だというのはわかったけれど。
そうやって私が三人を観察している間もダグラスの説明は続いていく。
まずは簡潔に事件のあらましを伝え、その上で自身の見解も加える。
その見解は、私の背筋に冷たいものが走る内容だった。
「お嬢さま、開けてもいいですか?」
「よろしくてよ」
扉が少し開くと、伏せたままの視線の先に大判のストールが見える。
「詰所の備品ですので品質はいまいちですが、これで顔を隠せば移動できるかと」
なるほど。
保護された女性とかに配られたりする物なのだろう。
泣き腫らした顔を晒すくらいならこのストールを頭から被って隠した方がいい。
本当、これだけの気遣いをどこで覚えてきたのやら。
「ありがとう。お借りするわ」
そう言って私はストールを被ると、ダグラスの手を借りて馬車を降りた。
このまま馬車は詰所の人が綺麗にしてくれるらしい。
血の汚れを家の使用人でもない人に掃除させるのは気が引けるが、彼らはあまり気にした様子がなかった。
もしかして慣れていたりするのだろうか。
詰所に持ち込まれるトラブルなら血を見ることも珍しくないのかもしれない。
ダグラスと先ほどの男の人に連れられて、私は詰所内に入る。
共有街にある詰所に貴族令嬢というのはやはり不似合いなのだろう。
身なりで平民ではないとわかるため顔を隠していても興味津々の視線を感じた。
それに気づいたのか、すぐにダグラスと男の人の間に挟まれる形となり体格の良い両側の二人のお陰で視線を感じずにすんだ。
「ようダグラス。彼女を連れてきたんだって?」
入り口に入ってすぐに低い声が揶揄うような言葉をかけてくる。
「ルド。そうじゃないとわかってるでしょう」
「まぁまぁ。ここにお前が女性を伴ってくるなんて珍しいからな。他の連中も気になってるんじゃないか?」
「好きで連れて来た訳じゃないですよ。事件に巻き込まれたのでその報告に」
ルドと呼ばれた男はダグラスよりも縦にも横にも大きかった。
上背があり全体的にがっしりとした体格だ。
髪の毛も目も焦茶色で特別目立った色ではないが、瞳の奥に宿る意志の強そうな光が印象的だった。
「なるほどな。じゃあその事件についての詳細は所長室で聞かせてもらおうか」
そう言うと、ルドは私たちを所内の奥まった場所にある部屋へと通す。
「そうそう、そこの男はロキと言う。この後の話にも参加するだろうからよろしくな」
ルドは私に対して軽い感じでロキという男を紹介した。
え?
それだけ?
ダグラスとの関係や、この詰所内でどういう立場の人とか、そういった紹介は全然なし?
驚いたけど、どうやらここではそれも普通のようだ。
ちなみにロキもルドに負けず劣らず背が高い。
体格的にはルドよりも細身だが、鍛えられた筋肉がついていることは見るだけでわかった。
茶色い髪に少し黄みがかった瞳はこの国ではよく見る色合いだ。
所長室内は機能的に整えられていた。
見た目脳筋に見えるルドは、それでいて実務能力も高そうだ。
余計な物が置かれていないスッキリと片づけられたデスクがそれを物語っている。
室内には所長の机の前にテーブルとソファが置いてあった。
誰かお客さんが来たらここで対応するのだろう。
「悪いがお茶なんぞは出せない。まぁ出せたとしても公爵令嬢の口には合わないだろうけどな」
その言葉で、ルドがすでに私が誰なのかを知っていることがわかった。
「名乗らずに失礼しましたわ。エレナ・ウェルズと申します」
「よく分かりましたね」
私の挨拶に続いてダグラスが言う。
「お前が連れて来た時点でだいたい予想はついた。それに、紋章は外してあるがあの馬車は公爵家のものだろう」
馬車は家によってデザインが違う。
ルドは公爵家の馬車だから知っていたのだろうか。
それとも主要な貴族家の馬車のデザインをすべて覚えているのか。
まさかね。
伯爵家以上だけでもかなりの数の家があるわけだし。
「で?事件に巻き込まれたって?」
「ええ、そうです」
「詳しい話を聞こう」
いったいダグラスとルドはどういった関係なんだろう?
ただの知り合いと言うには親しそうだし。
ダグラスは丁寧に話してはいるが、少し砕けた感じもする。
そしてロキと紹介された彼との関係もわからない。
少なからずお互い気心が知れた間柄だというのはわかったけれど。
そうやって私が三人を観察している間もダグラスの説明は続いていく。
まずは簡潔に事件のあらましを伝え、その上で自身の見解も加える。
その見解は、私の背筋に冷たいものが走る内容だった。
657
お気に入りに追加
2,273
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

妻の死で思い知らされました。
あとさん♪
恋愛
外交先で妻の突然の訃報を聞いたジュリアン・カレイジャス公爵。
急ぎ帰国した彼が目にしたのは、淡々と葬儀の支度をし弔問客たちの対応をする子どもらの姿だった。
「おまえたちは母親の死を悲しいとは思わないのか⁈」
ジュリアンは知らなかった。
愛妻クリスティアナと子どもたちがどのように生活していたのか。
多忙のジュリアンは気がついていなかったし、見ようともしなかったのだ……。
そしてクリスティアナの本心は——。
※全十二話。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください
※時代考証とか野暮は言わないお約束
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第三弾。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる