117 / 204
悪役令嬢は襲撃を受ける
しおりを挟む
ダグラスが馬車から飛び出してすぐに私は扉の鍵をかけた。
外側から開けられて人質にでも取られたら目も当てられないからだ。
窓越しにパッと見た先、ダグラスは一人の男と斬り合っている。
相手の男は黒い騎士服のような格好をしていた。
顔には上半分に装飾のない黒のマスカレードマスクをつけている。
口元は見えるけれどそれだけで相手を特定することは難しいだろう。
斬り合いながらも身を翻し、ダグラスは返す剣で別の相手を薙ぎ払った。
二人?
いや、三人だろうか。
馬車の中からは襲撃犯が何人なのかがはっきりとわからない。
それでも、多勢に無勢だというのはわかる。
どうしよう?
助けを求めたくても誰もいない。
ましてやここは共有街の中でも平民エリア寄りの地域。
巡回する警邏も基本的には貴族街寄りを重点的に守っているから、騒ぎに気づいて駆けつけてくれるという期待も持てなかった。
平民の中にも腕の立つ者はいるだろうが、どう見ても貴族の馬車とわかる相手に対して助力しようとは思わないだろう。
下手に助けて何か難癖をつけられたら困ると思うだろうし、そもそも平民は自らの身は自分で守るものだと教えられている。
貴族のように護衛が雇えない分、危険に巻き込まれるのも自身の責任と考えるからだ。
どうしようどうしよう……。
考えれば考えるほど、私の中に焦りがつのる。
ダグラスの太刀筋は流れるような滑らかさだ。
少なくとも現時点では怪我もしていないし、三人を相手にしていても怯む様子は見られない。
冷静に相手の剣を捌き、自らの剣を繰る。
強い。
素人目に見てもダグラスが強いことはわかった。
とはいえ、このままでは事態は膠着したまま。
相手の目的もわからないままでは交渉の余地もないじゃない。
焦る私をよそに剣と剣がぶつかる音だけが辺りに響く。
このまま永遠に決着がつかないのではないかと思った瞬間、ダグラスの体が馬車の側面にぶつかった。
ガタン!!
音と共に馬車が揺れる。
「……ヒャ!」
意図せずして私の口から小さな悲鳴が漏れた。
窓の向こう側でダグラスが一人の相手と鍔迫り合いになっている。
そう思ったのもつかの間、二人はすぐさま互いの身を離した。
離れた瞬間に馬車の窓に何かかビシャッとかかる。
血、だった。
赤い血が窓ガラスから滴り落ちている。
「………!!」
私は両手で口元を覆うと悲鳴を呑み込んだ。
指先がブルブルと震え、血から目が離せない。
誰の、血?
自分の荒い息遣いだけが聞こえる。
頭がガンガンとして視界が狭まる気がした。
「警告する!」
そんな私の頭を殴るかのような声が、突如として辺りに響き渡る。
無理やり血から視線を引き剥がして窓越しに見やると、ダグラスと対面している犯人の姿が見えた。
剣を斜めに下ろしこちらを真っ直ぐに見ているその視線は間違いなく私に向けられたものだろう。
「警告する。余計なことに首を突っ込むな。月は隠れた。それだけが事実だ」
低く響く声が牽制する。
そしてその声をきっかけに、男たちはあっという間に身を翻した。
それは一瞬の出来事だった。
警告。
月。
事実。
その言葉が頭の中をぐるぐる回る。
混乱した頭を抱えたまま、それでも私は急いで扉の鍵を開けた。
外側から開けられて人質にでも取られたら目も当てられないからだ。
窓越しにパッと見た先、ダグラスは一人の男と斬り合っている。
相手の男は黒い騎士服のような格好をしていた。
顔には上半分に装飾のない黒のマスカレードマスクをつけている。
口元は見えるけれどそれだけで相手を特定することは難しいだろう。
斬り合いながらも身を翻し、ダグラスは返す剣で別の相手を薙ぎ払った。
二人?
いや、三人だろうか。
馬車の中からは襲撃犯が何人なのかがはっきりとわからない。
それでも、多勢に無勢だというのはわかる。
どうしよう?
助けを求めたくても誰もいない。
ましてやここは共有街の中でも平民エリア寄りの地域。
巡回する警邏も基本的には貴族街寄りを重点的に守っているから、騒ぎに気づいて駆けつけてくれるという期待も持てなかった。
平民の中にも腕の立つ者はいるだろうが、どう見ても貴族の馬車とわかる相手に対して助力しようとは思わないだろう。
下手に助けて何か難癖をつけられたら困ると思うだろうし、そもそも平民は自らの身は自分で守るものだと教えられている。
貴族のように護衛が雇えない分、危険に巻き込まれるのも自身の責任と考えるからだ。
どうしようどうしよう……。
考えれば考えるほど、私の中に焦りがつのる。
ダグラスの太刀筋は流れるような滑らかさだ。
少なくとも現時点では怪我もしていないし、三人を相手にしていても怯む様子は見られない。
冷静に相手の剣を捌き、自らの剣を繰る。
強い。
素人目に見てもダグラスが強いことはわかった。
とはいえ、このままでは事態は膠着したまま。
相手の目的もわからないままでは交渉の余地もないじゃない。
焦る私をよそに剣と剣がぶつかる音だけが辺りに響く。
このまま永遠に決着がつかないのではないかと思った瞬間、ダグラスの体が馬車の側面にぶつかった。
ガタン!!
音と共に馬車が揺れる。
「……ヒャ!」
意図せずして私の口から小さな悲鳴が漏れた。
窓の向こう側でダグラスが一人の相手と鍔迫り合いになっている。
そう思ったのもつかの間、二人はすぐさま互いの身を離した。
離れた瞬間に馬車の窓に何かかビシャッとかかる。
血、だった。
赤い血が窓ガラスから滴り落ちている。
「………!!」
私は両手で口元を覆うと悲鳴を呑み込んだ。
指先がブルブルと震え、血から目が離せない。
誰の、血?
自分の荒い息遣いだけが聞こえる。
頭がガンガンとして視界が狭まる気がした。
「警告する!」
そんな私の頭を殴るかのような声が、突如として辺りに響き渡る。
無理やり血から視線を引き剥がして窓越しに見やると、ダグラスと対面している犯人の姿が見えた。
剣を斜めに下ろしこちらを真っ直ぐに見ているその視線は間違いなく私に向けられたものだろう。
「警告する。余計なことに首を突っ込むな。月は隠れた。それだけが事実だ」
低く響く声が牽制する。
そしてその声をきっかけに、男たちはあっという間に身を翻した。
それは一瞬の出来事だった。
警告。
月。
事実。
その言葉が頭の中をぐるぐる回る。
混乱した頭を抱えたまま、それでも私は急いで扉の鍵を開けた。
704
お気に入りに追加
2,273
あなたにおすすめの小説

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

〈完結〉【コミカライズ・取り下げ予定】思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約
ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」
「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」
「もう少し、肉感的な方が好きだな」
あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。
でも、だめだったのです。
だって、あなたはお姉様が好きだから。
私は、お姉様にはなれません。
想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。
それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる