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悪役令嬢は危険を知る
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その後も車内の緊迫感をよそに馬車はどんどんと道を進んでいく。
本来向かう方向とは逆へ進むにつれ人通りが少なくなっていった。
「御者はいつもの使用人でしたわ」
「ああ。どんな理由かはわからないが、裏切ったと考えた方がいいだろう」
まぁ、ウェルズ家の使用人は基本的に給金の良さに釣られているだけの人が多いからね。
なんせあの両親の元で働かないといけないんだから。
信頼とか信用とかとは無縁な人も多そう。
それでも、使用人自身の非で解雇された場合はその後の紹介状ももらえないし、たいていの使用人たちは何かしらの不満を持っていても何も言わずに働いている。
一応あんな両親でも暴力に訴えることはしないから、そういう点の心配もない。
どこの家で雇われても、雇用主との信頼関係も築ける満たされた職場というのはなかなか難しい。
それを思えば給金の良さと天秤に掛けるとウェルズ家はそこそこマシな働き口だろう。
それでも、不満を持つ者はいるんだろうけど。
いずれにせよ、どんな理由であろうとも仕える相手の意向を無視してどこかに連れ去っている時点でこの者は罪に問われるだろう。
捕まる前に逃げるつもりかもしれないけど、そう簡単にはいかないはず。
「貴族街から共有街に入った辺りか」
ダグラスの言葉に頷く。
今いる場所は貴族が多く住む場所から平民街へ向かう途中、貴族と平民が混じり合う地域だ。
商業活動が活発で、対貴族向けの店もあれば平民向けの店もある。
もちろん共有街の中でも多少の住み分けはあるが、それほどうるさく言われることもない。
公爵家の馬車であってもこの辺りまで来ることはあるので、周りの者たちは私たちが意に反して連れ去られようとしていることなどわからないだろう。
進み続ける馬車の中では、どうにかしようにも何もできなかった。
「すべては馬車が停まってからだ。さっきも言ったように、お嬢さまは決して馬車からは出ないように」
ダグラスが腰に下げている長剣に手をかける。
専属護衛といえど、毎日平和に暮らしている中では身の危険を感じるような場面はほぼ無いからダグラスがその剣を振るう姿はほとんど見たことがなかった。
緊張感がこれでもかと高まったタイミングで馬車は徐々に減速する。
馬車の窓からちらっと見た限り、場所は共有街の中でも平民エリア寄りの地域だ。
そして人の姿はほとんど見られなかった。
何が目的だろう?
この後のことを考えれば考えるほど不安になりパニックを起こしてしまいそうだから、私はあえて思考を逸らす。
戦力になれない私は少なくともダグラスの邪魔をしてはいけない。
緊張と恐怖に震える拳を握った。
息が短く速くなるから、呼吸をすることを意識する。
「そろそろだ」
そう言うと、ダグラスはドアの取手を掴んだ。
速度を落としていた馬車がとうとうその歩みを止める。
荒事にまったく遭遇したことのない私でもわかる。
馬車の周りには何人かの気配が感じられた。
当然、その相手たちから感じるのは非好意的感情だ。
「怪我をしたら、承知しませんわよ」
震える唇からか細い声が漏れる。
我ながら何て頼りない声。
それでも、いざ目の前に身の危険が迫っていることを感じると体の震えをどうすることもできなかった。
「もちろんですよ、お嬢さま。必ず、問題なく切り抜けて見せます」
ダグラスはいつものように軽い調子で言う。
そして。
馬車が止まった瞬間に飛び出したのだった。
本来向かう方向とは逆へ進むにつれ人通りが少なくなっていった。
「御者はいつもの使用人でしたわ」
「ああ。どんな理由かはわからないが、裏切ったと考えた方がいいだろう」
まぁ、ウェルズ家の使用人は基本的に給金の良さに釣られているだけの人が多いからね。
なんせあの両親の元で働かないといけないんだから。
信頼とか信用とかとは無縁な人も多そう。
それでも、使用人自身の非で解雇された場合はその後の紹介状ももらえないし、たいていの使用人たちは何かしらの不満を持っていても何も言わずに働いている。
一応あんな両親でも暴力に訴えることはしないから、そういう点の心配もない。
どこの家で雇われても、雇用主との信頼関係も築ける満たされた職場というのはなかなか難しい。
それを思えば給金の良さと天秤に掛けるとウェルズ家はそこそこマシな働き口だろう。
それでも、不満を持つ者はいるんだろうけど。
いずれにせよ、どんな理由であろうとも仕える相手の意向を無視してどこかに連れ去っている時点でこの者は罪に問われるだろう。
捕まる前に逃げるつもりかもしれないけど、そう簡単にはいかないはず。
「貴族街から共有街に入った辺りか」
ダグラスの言葉に頷く。
今いる場所は貴族が多く住む場所から平民街へ向かう途中、貴族と平民が混じり合う地域だ。
商業活動が活発で、対貴族向けの店もあれば平民向けの店もある。
もちろん共有街の中でも多少の住み分けはあるが、それほどうるさく言われることもない。
公爵家の馬車であってもこの辺りまで来ることはあるので、周りの者たちは私たちが意に反して連れ去られようとしていることなどわからないだろう。
進み続ける馬車の中では、どうにかしようにも何もできなかった。
「すべては馬車が停まってからだ。さっきも言ったように、お嬢さまは決して馬車からは出ないように」
ダグラスが腰に下げている長剣に手をかける。
専属護衛といえど、毎日平和に暮らしている中では身の危険を感じるような場面はほぼ無いからダグラスがその剣を振るう姿はほとんど見たことがなかった。
緊張感がこれでもかと高まったタイミングで馬車は徐々に減速する。
馬車の窓からちらっと見た限り、場所は共有街の中でも平民エリア寄りの地域だ。
そして人の姿はほとんど見られなかった。
何が目的だろう?
この後のことを考えれば考えるほど不安になりパニックを起こしてしまいそうだから、私はあえて思考を逸らす。
戦力になれない私は少なくともダグラスの邪魔をしてはいけない。
緊張と恐怖に震える拳を握った。
息が短く速くなるから、呼吸をすることを意識する。
「そろそろだ」
そう言うと、ダグラスはドアの取手を掴んだ。
速度を落としていた馬車がとうとうその歩みを止める。
荒事にまったく遭遇したことのない私でもわかる。
馬車の周りには何人かの気配が感じられた。
当然、その相手たちから感じるのは非好意的感情だ。
「怪我をしたら、承知しませんわよ」
震える唇からか細い声が漏れる。
我ながら何て頼りない声。
それでも、いざ目の前に身の危険が迫っていることを感じると体の震えをどうすることもできなかった。
「もちろんですよ、お嬢さま。必ず、問題なく切り抜けて見せます」
ダグラスはいつものように軽い調子で言う。
そして。
馬車が止まった瞬間に飛び出したのだった。
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