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悪役令嬢は手紙を見つける
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件の老人と一緒にいた子どもはルークという名前らしい。
ミラと共にルークを預かるにあたって、私は使用人登録をするための書類を作成した。
ウェルズ家の使用人は二種類の方法で雇われている。
上級使用人の場合は雇用契約を交わし、下級使用人は雇用登録をしていた。
雇用契約は条件などを含めきちんと取り決めをして契約書を交わしているが、雇用登録はそこまで細かく規定していない。
ウェルズ家の使用人であるという証明とおおよその給与額を登録しているだけだ。
それでも身元は保証されるし、登録しておくことで何かあった時にはちゃんと連絡がくる。
また、雇用契約は当主しか行えないが、雇用登録はウェルズ家の者であれば登録が可能だった。
現に兄は自分付きのフットマンを当主である父ではなく自分で雇っている。
雇用登録をするということは、私とミラ、つまり情報ギルドとの繋がりがバレる心配があるものの何かあった時に私が介入する余地ができる。
万が一何かの都合でレンブラント家の横槍が入ってきたとしてもミラとルークの所有権を主張できるということだ。
人に対して所有権って……二人とも物じゃないんだけどね。
それだけ貴族にとって平民の価値というのは軽んじられている。
登録書類には登録者のサインか公爵家の印が必要だった。
私のサインでも問題はないが、印鑑の方がより重みが増す。
ということで、私は父の書斎まで来ていた。
今日両親が出かけていることはあらかじめ調査済みだ。
扉からそっと中を伺い、誰もいないことを再度確認すると、私は扉からスルリと中に入った。
別に身を潜める必要はないのだが使用人に目撃されてそのことを父に報告されるのは避けたい。
いつでも両親の言いなりで、まるで人形のように生きてきたエレナが急に思わぬ行動をし出したら監視の目が厳しくなるだろう。
書斎に入るとまず目に入るのが正面に据えられたマホガニー製の机だ。
存在感があるその机の上に、公爵家の印が収められている専用のケースが置いてある。
私は自分用の鍵でそのケースを開けると印鑑を取り出して二枚の書類に押印した。
目的は達成したから印鑑とケースを元通りに戻し、誰かに見られる前にさっさと退散しようとしたところでレタートレーに入れられた手紙の束が目に入る。
レトロな雰囲気漂う木製のレタートレーの上にある手紙、その封蝋に見覚えがあった。
あれは……。
間違いない、あれはレンブラント家の家紋。
なぜ?
今までウェルズ家とレンブラント家に頻繁な交流があったとは聞いていない。
もちろん、エレナがライアンの婚約者であり、そのライアンの母親がレンブラント家の出身ということを考えればやり取りはあってもおかしくはないけど。
少なくともエレナが知る限り、あれほどの量の手紙をやり取りする関係性はなかったはずだ。
それを見るかどうか、迷ったのは一瞬だった。
私は手紙の束を手に取ると一番上の封筒を引き抜く。
そしてゆっくりと、その手紙を開いたのだった。
ミラと共にルークを預かるにあたって、私は使用人登録をするための書類を作成した。
ウェルズ家の使用人は二種類の方法で雇われている。
上級使用人の場合は雇用契約を交わし、下級使用人は雇用登録をしていた。
雇用契約は条件などを含めきちんと取り決めをして契約書を交わしているが、雇用登録はそこまで細かく規定していない。
ウェルズ家の使用人であるという証明とおおよその給与額を登録しているだけだ。
それでも身元は保証されるし、登録しておくことで何かあった時にはちゃんと連絡がくる。
また、雇用契約は当主しか行えないが、雇用登録はウェルズ家の者であれば登録が可能だった。
現に兄は自分付きのフットマンを当主である父ではなく自分で雇っている。
雇用登録をするということは、私とミラ、つまり情報ギルドとの繋がりがバレる心配があるものの何かあった時に私が介入する余地ができる。
万が一何かの都合でレンブラント家の横槍が入ってきたとしてもミラとルークの所有権を主張できるということだ。
人に対して所有権って……二人とも物じゃないんだけどね。
それだけ貴族にとって平民の価値というのは軽んじられている。
登録書類には登録者のサインか公爵家の印が必要だった。
私のサインでも問題はないが、印鑑の方がより重みが増す。
ということで、私は父の書斎まで来ていた。
今日両親が出かけていることはあらかじめ調査済みだ。
扉からそっと中を伺い、誰もいないことを再度確認すると、私は扉からスルリと中に入った。
別に身を潜める必要はないのだが使用人に目撃されてそのことを父に報告されるのは避けたい。
いつでも両親の言いなりで、まるで人形のように生きてきたエレナが急に思わぬ行動をし出したら監視の目が厳しくなるだろう。
書斎に入るとまず目に入るのが正面に据えられたマホガニー製の机だ。
存在感があるその机の上に、公爵家の印が収められている専用のケースが置いてある。
私は自分用の鍵でそのケースを開けると印鑑を取り出して二枚の書類に押印した。
目的は達成したから印鑑とケースを元通りに戻し、誰かに見られる前にさっさと退散しようとしたところでレタートレーに入れられた手紙の束が目に入る。
レトロな雰囲気漂う木製のレタートレーの上にある手紙、その封蝋に見覚えがあった。
あれは……。
間違いない、あれはレンブラント家の家紋。
なぜ?
今までウェルズ家とレンブラント家に頻繁な交流があったとは聞いていない。
もちろん、エレナがライアンの婚約者であり、そのライアンの母親がレンブラント家の出身ということを考えればやり取りはあってもおかしくはないけど。
少なくともエレナが知る限り、あれほどの量の手紙をやり取りする関係性はなかったはずだ。
それを見るかどうか、迷ったのは一瞬だった。
私は手紙の束を手に取ると一番上の封筒を引き抜く。
そしてゆっくりと、その手紙を開いたのだった。
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