【受賞&書籍化】転生した悪役令嬢の断罪(本編完結済)

神宮寺 あおい@受賞&書籍化

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悪役令嬢はアーティファクトを手に入れる

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「おう。エレナ嬢、久しぶりだな」

ギルド長室に入ると、いつもと変わらずデュランが挨拶をしてくる。
室内にはリックも同席していた。

「今日はミラはいないのですね」
「ああ。契約の話になるし、買い物を兼ねておつかいに行かせてるよ」

そうか。
少し前までは一人で出かけることすら怖がっていたけれど、出かけられるようになったのね。
あの事件の心の傷がすぐに癒えるとは思っていない。
それでも、少しずつでも立ち直っていっている様子がうかがえて嬉しかった。

「リックもごきげんよう。商会の運営も順調と聞いていますわ。今日は商会の口座からもお金を動かしますので、よろしくお願いしますわね」
「ああ」

デュランの勧めでソファに腰掛けると、さっそく話題はアーティファクトのことになった。

「いくら探しても全然情報が出てこなかったからいい加減諦めかけていたところだったんだが……思わぬところで見つかってな」
「思わぬところ、ですか?」
「先日スラム街で老人が一人亡くなったんだが、そいつの遺品に、あったんだよ」
「あのアーティファクトがですの!?」

え。
あれってかなり高額の希少品なんだけど。
スラム街のご老人が持っているような物ではないよね?

「どうやらその老人は元々はかなりいいところの出だったらしい。スラム街でその老人が世話していた子がいるんだが、その子どもがこちらに話を持ってきた」

「アーティファクトは一見しただけではそれほど価値のあるものとわからないことが多いのですが、その子はよくわかりましたわね?」
「それが何なのかはわかっていなかったが、少なくともガラクタではないと思ったらしい」

ほうほう。
なかなか目利きの良い子ね。

「ところが、だ。ここで問題が発生した」
「問題、ですか?」
「どこからか亡くなったことを聞きつけた老人の身内と名乗る者が現れた。その者はアーティファクトに関しても権利を主張している」
「スラム街にいたのであれば、元の家との繋がりは絶たれているものではないのですか?」

そう。
この王都にはスラム街がある。
元々貧しい者や何か事情があって流れてきた者たちが住む場所。
決して治安は良くないし、平民ですらあまり近寄らないところだ。

「普通であればそうだろう。その老人に関しても、元の家とは亡くなるまではなんの繋がりもなかったようだ」
「それが亡くなった途端あらわれた、ということですわね」
「目的はそのアーティファクトだ。どうやら老人は家を出る時にそれを黙って持って出たらしい」

いやいや、待って。
アーティファクトのある家って相当な高位貴族なのでは?
公爵家である我が家ですら持っていないし、私がデュランとの契約で使ったアーティファクトは王家のもの。

「聞くのも恐ろしいですけれど、その家というのはどちらの?」
「レンブラント家だ」

レンブラント家といえば……王妃の実家じゃないの!
え……なに、じゃああのアーティファクトは元々王妃の実家にあったってこと?
ああ!
だからか。
ゲームの中でライアンがあれを持っていたのは。

「すでにアーティファクトはこちらで預かってはいるが、さすがに知らぬ存ぜぬで通すことができない」
「でもそのアーティファクトがレンブラント家の物だったという証拠はありませんよね?」
「その証拠はなかったが、亡くなった老人がレンブラント家の者だったということはわかっている。アーティファクトと共に家紋の彫られた指輪を持っていたからな」

となると、老人の持ち物は基本的にレンブラント家の物ということになる。
一緒に暮らしていた子がいたということだから、少なくともその子にも多少なりとも権利があるはずだけど、相手が高位貴族であればそんなことは無かったことにされるだろうな。

「結局のところ落とし所がある程度の金銭ということになった」
「ということは、デュランはあの家と交渉したということかしら?」

あの、いろいろ噂のあるレンブラント家と?
高価なアーティファクトを持ち出せるくらいの立場にいた者を平気でスラム街に追いやるあの家と?

ブルブル。
恐ろしい。

「まぁ、それがエレナ嬢からの依頼だったしな。情報ギルドとして仕事を請け負ったからには全力を尽くすに決まっているだろう」

やだ。
デュランさんが男前です。

「わかりましたわ。ではあらかじめお伺いしていた金額の内商会からの分は小切手を切りますわね。残りの分は分割で持参しますわ」

商会の分は自分の口座だから小切手を切れるけど、家から割り振られた予算から出す分は目的も支払い先も知られるわけにはいかない。

「わかった。では契約だけは今済ませておこう」

アーティファクトの所有者はレンブラント家から一旦デュランに移し、その後デュランから私に移す予定だ。
それでも、表向きはデュランのままにする。
そうしなければ私の身に危険がおよびかねない。
情報ギルド長のデュランであれば相手も簡単に害せないだろうから、といった理由でそう決めたわけだけど……。

「あなたに危険を押しつけるようなことになってしまわないかしら?」

正直、それだけが心配だ。

「俺もだてにこの仕事をやってるわけじゃないからな。こちらが危なくならないように、そこはちょーっと脅しておいた」

ニヤッと笑う顔が悪い顔になってますよ、デュランさん。
自分の身をちゃんと守れると言い切れるのはさすがだよね。

ああでも、ミラは大丈夫かな。
あとその老人と一緒にいたという子は?

守るものが多い人はその分弱みが増える。
デュランが私の分も危険を引き受けてくれるというのであれば、私は私のできることをしよう。

「では、ミラは私が預かりますわ」
「ミラを?」
「ええ。ミラに何かあってはいけませんもの。使用人としてになってしまいますが」
「そうだな。この件が片づいて危険がないとわかるまではその方がいいか……」

平民街の中でもあまり治安が良くないこの地域にいるよりは、公爵邸内にいた方がまだ安全だろう。

「あと、その老人と一緒にいたという子はどんな子ですか?」
「スラム街育ちの割にはかなり賢いな。目端が利くし。もしかすると亡くなったという老人がいろいろ教えて育てていたのかもしれない」

ふむ。
とりあえずゲームの登場人物ではないと思うけど……。
少なくとも攻略対象者ではないはずだし。
でもなぜか気になるのよね。
いずれにせよその子も老人とレンブラント家の関係、そしてアーティファクトの存在を知ってしまっている分、危険かもしれないよね。

「わかりましたわ。ではミラと一緒にその子も私が預かりましょう」
「しかし、素性は知れないぞ?」
「問題ありませんわ。万が一危ないと思いましたら容赦なく切り捨てますので」

そこは甘い顔はしない。
でもその子にもチャンスはあってもいいはずだから。
様子を見る限り、デュランもその子を気にしてるみたいだし。

「わかった。ではそれで頼む」

デュランの言葉をきりに、まずはアーティファクトの手続きをする。
私としてはかなり高額な買い物だからサインをする手が震えていたけど、そのことは内緒だ。

「そういえば、一つ調べていただきたいことがありますの」

契約が一段落ついたところで、私はおもむろに話を切り出す。

「今度は何だ?」
「私の新しい専属護衛になったレオについてですわ」
「なんだ、護衛が増えたのか?」
「ええ。ダグラスだけでは大変だろうということで。でもレオの身上書を私は見せてもらえなかったんですの。それがちょっと気になりまして」
「なるほど。エレナ嬢にとって公爵邸の中は必ずしも安心できる場所ではないだろうからなぁ」

デュラン、ちゃっかりうちの内情も調べていそうね。

「そういう訳で、よろしくお願いしますわね」

そう言って私は一通りの目的を済ませたのだった。
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