【受賞&書籍化】転生した悪役令嬢の断罪(本編完結済)

ヒロインの焦燥 Sideエマ

どうして思う通りにならないのか。
あたしはヒロインのはずなのに。

『王都だより』を握り潰し、ゴミ箱に投げつけようとして思い留まるとあたしはもう一度紙面を広げた。

先日依頼した通り、記事には高位貴族であるエレナ・ウェルズが下位貴族のエマ・ウェインを虐げているという内容が書かれている。
それは依頼通りだった。

問題はその隣の記事だ。

エレナ・ウェルズが教会と孤児院を慰問したという記事。
そして、学園の舞踏会においてエマが身につけたドレスや宝飾品に関する記事が絵つきで掲載されている。

片や高位貴族に虐げられる令嬢でありながら、片や贅を尽くし婚約者のいる王太子色のドレスやアクセサリーをまとったという記事。

両極端な内容を読み手がどう受け取るかは明白だった。

少なくとも、貴族はエマに対して非常識でマナーのなっていない令嬢というレッテルを貼っただろう。
そして平民は、虐げられるのは可哀想だがそれだけ贅沢できるなら自分たちとは違う、つまりエレナよりもエマが良い、とは特に思わなかったに違いない。

これでは平民の間からエレナよりもエマが王太子妃にふさわしいという声は起こらないだろう。

「役立たず！」

あたしはそう言うと、憎々しげに紙面を引き裂いた。

このままではまずいとヒシヒシと感じる。
ライアン以外の攻略対象者とは上手くいかなかった。
会うことすらできなかった対象者もいる。

攻略をライアンに絞ってはいるものの、ライアンとの仲も想像していたよりも進んでいない。

だってゲームの中だったら今頃ライアンはあたしに夢中のはずなのに。

今だっていつも一緒にいてくれるし、エレナよりも優先してくれているとは思う。
それでも、恋愛的熱量が低いのだ。
何をおいてもエマを優先する、エマの言うことなら何でも聞く、そういったゲーム内で見られた行動が今のライアンからはあまり感じられなかった。

それでも、ここまできたからにはライアンルートのトゥルーエンドを目指すしかない。

その先でダグラスルートが解放されるんだから。

どうしよう。
どうするのが今一番効果的？

まずはライアンの心をもっとしっかりと掴んで、少しずつでもエレナの悪評を広めていかないと。

ライアンはエレナに対して劣等感を抱いている。
自分よりも優秀で、王や王妃からの覚えめでたい公爵令嬢。
ライアンのエレナに対して抱える仄暗い感情はゲーム内でも語られていたし、今のライアンを見ていても感じることだ。
その劣等感をさらに煽って、ライアンの中のエレナに対する悪感情をもっと大きくするのがいいかもしれない。

それにはライアンを孤立させないと。
ハーレムエンドを目指すのであれば必要だったライアンの友人たち、オーウェンやベイリーも邪魔だ。
下手な助言でもされたら厄介だし、エマの言葉だけを聞くように仕向ける必要がある。

あたしはいつものノートを引き出しから取り出すと、ゲーム内でライアンの心に響いた言葉を思い出せる限り書き出した。

絶対にハッピーエンドを迎えるんだから。
ライアンとダグラスを攻略してみせる。

再度自分の中でそう誓うと、あたしは書き込んでいたノートを閉じた。