【受賞&書籍化】転生した悪役令嬢の断罪(本編完結済)

神宮寺 あおい@受賞&書籍化

文字の大きさ
上 下
66 / 204

悪役令嬢は指名する

しおりを挟む
「Aクラスの代表が2人とも発表会を欠席するというのはいささか問題があるかと思いますの」
「というと?」

ライアンの促しに私はさらに続ける。

「学年代表をされているライアン様のクラスでもありますし、発表会に誰も出ないというのはあまりよろしくありませんでしょう?」

「私はこの指なので出られませんが、エマ様はバイオリンの弦さえ直せば出られますわ」

私の言葉にエマが驚きの表情でこちらを見る。

「私は替えの弦なんて持っていないわ。弦がなければ弾けないじゃないの!」

エマ、あなたがそう言うだろうことは予想済みよ。

「幸い私は替えの弦を持っておりますので、こちらの弦を使っていただけばいいかと」

そう言って私は替えの弦のセットを見せた。
よほどバイオリンを弾きこんでいたりプロのバイオリニストでなければ、替えを持っていたとしてもたいてい一番細い弦のE線を非常用に持っているくらいだろう。

エマがどの弦を切っても、なんならすべての弦を切っても問題ないように私は全部の弦を持ってきていた。

「保護者のみなさまに会場に入っていただくまでもうあまり時間がありませんわ」
だから急げと言外に込めて言ったところで、音楽担当の教師の声が聞こえた。

「何か問題でもあったのか?」

ナイスタイミング!
ジェシカにほど良いところで音楽教師に講堂まで来るように促すようお願いしておいたけど、さすがに優秀ね。

「先生、不測の事態が起こりまして、エマ様のバイオリンの弦を替えなければならなくなりましたの。エマ様も発表にあたって心の準備がありますでしょうし、弦の交換をお願いできないでしょうか?」
「そうか。バイオリンはどこに?」

弦の交換までやらなければエマは何かと理由をつけて辞退しかねない。
基本的に人の楽器には触らないようにするものだし、他の生徒よりもここは教師にやってもらった方がいいだろう。

そしてこの音楽教師は事なかれ主義で有名な教師。
弦の状態に疑問をもってもおそらく何も言わないに違いない。
面倒ごとに巻き込まれたくないと思っているタイプだから。

「先生、時間が迫っておりますのでよろしくお願いいたします。エマ様はこちらで準備を」
「いや…でも…」

口の中でモゴモゴ言ってるのを無視してエマを発表者の待機場所に連れて行く。
準備と言ってもプログラム通りの順番に並んで前後の生徒を確認するくらいだし、ましてやAクラスは一番初めの発表。
あとは待ち時間の間にバイオリンの調弦を確認する人もいるけれどエマにそれは関係ない。

簡単に言ってしまえば、この場から逃げられないように待機場所まで連れてきたようなものだ。

「それでは、Aクラスの代表としてよろしくお願いいたしますわね」
ほどなくして音楽教師が弦の張り替えを終えたバイオリンを持ってきた。

そして講堂には保護者や観覧者が入場し始める。
私はエマをその場に残し、実行委員が集まっている一角に戻った。

ちらりと振り返ると焦った顔をしたエマが見える。

大勢の観客の前でどんな演奏を披露してくれるのか、楽しみにしているわ、エマ。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです

珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。 令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。

王太子に求婚された公爵令嬢は、嫉妬した義姉の手先に襲われ顔を焼かれる

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『目には目を歯には歯を』 プランケット公爵家の令嬢ユルシュルは王太子から求婚された。公爵だった父を亡くし、王妹だった母がゴーエル男爵を配偶者に迎えて女公爵になった事で、プランケット公爵家の家中はとても混乱していた。家中を纏め公爵家を守るためには、自分の恋心を抑え込んで王太子の求婚を受けるしかなかった。だが求婚された王宮での舞踏会から公爵邸に戻ろうとしたユルシュル、徒党を組んで襲うモノ達が現れた。

【完結】ヒロインであれば何をしても許される……わけがないでしょう

凛 伊緒
恋愛
シルディンス王国・王太子の婚約者である侯爵令嬢のセスアは、伯爵令嬢であるルーシアにとある名で呼ばれていた。 『悪役令嬢』……と。 セスアの婚約者である王太子に擦り寄り、次々と無礼を働くルーシア。 セスアはついに我慢出来なくなり、反撃に出る。 しかし予想外の事態が…? ざまぁ&ハッピーエンドです。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

処理中です...