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第43話 第二の王命
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「さて、それじゃあ愛しのルースちゃんにでも会いに行きますか」
ジャックは自嘲気味にピクシーの表現を借りてそう呟くと、家の扉を開けた。
「よっ! ジャック。もう出発? でも、残念。それ中止ね」
声の主はピクシーであった。ピクシーは自分の予言を早速ここで実現させたのだった。
「王様が呼んでるよ。王宮に出頭しろってさ」
ピクシーは何故ジャックが呼び出されたのか、その理由を知っているようだった。
ジャックはそのままピクシーに連れられて王宮へ赴いた。
以前と異なり、今回は王様直々のお召しである。当然ジャックの様な平民にとっては一生に一度も無いような機会である。ジャックは王族を前にした時の作法など、自分とは無縁とばかりに学んでこなかったことを今更ながらに後悔していた。
警備の兵に守られた大きな扉をいくつも通り抜けた先には、ジャックがこれまで見たどんな建物より豪華で巨大な広間があった。これが謁見の間というものなのだろう。そこで先ほど教えられたばかりの姿勢を作って王が来るのを待つ……
……十数分ほど経過した頃だろうか? お付きの従者がゾロゾロと入ってくる。
更にその十分後にいよいよ王のお出ましである。
「そちがジャックか?」
王がジャックに下問する。
「はっ!」
頭を下げたままジャックは簡潔に返事をする。
「そちの持ってきた剣だが、あれが勇者の剣であるというのは本当か?」
王の言葉には明らかに疑いの気持ちが表れている。
「その通りでございます」
長々とした説明は許されない。ジャックは疑われていると知りながらも簡潔に肯定する以外の選択肢を持たなかった。
「その剣は魔法の力で複数の魔物を瞬時に薙ぎ払ったと聞いたが?」
王の怪訝そうな声は更に力強くなる。
確かに人伝で聞いたら疑うのも仕方の無いような話ではある。しかし、ならばこそ王命を下してでも探したかったはずではないのだろうか? ジャックは王が何を言いたいのか訝しんでいた。
「左様にございます」
疑問に思いつつ、ジャックはまた手短に肯定の意志を伝えた。
「城内の誰が振るってもそのようなことは起こらないのだが、それでもそちはその主張を変えんという事で良いのだな?」
王は怒りと失望を半々の比率で混ぜたような大きなため息交じりで、最後の問いをジャックにぶつけた。
ここまで聞いてジャックはようやく何故自分が呼び出されたのかを理解した。
恐らくフィンドル村で見せた剣の力が再現できなかったのだ。確かにジャックも実戦で三度ほどその力を発現させたが、その後それを確認してはいなかった。
「王様、ジャックに剣を振らせれば話が早いかと存じます」
そう言って横から割って入ったのはピクシーであった。
流石に普段仕事で直接話をしているだけあって、王に意見するのに遠慮は無いようだ。
「剣を持ってまいれ!」
王は侍従にそう命じると、剣はすぐに運ばれてきた。
「ほい、ジャック。気合入れて振らないと首が飛ぶよー」
本気とも冗談ともつかない話を真顔で囁くピクシーを余所目に、ジャックは剣を取った。
謁見の間の一角には、普段は剣戟の練習に使う人型の打ち込み台が五つ並べられた。
それに向かって剣を振れという事らしい。
……ジャックは緊張していた。
確かにフィンドル村では剣の未知の力を引き出すことが出来た。あれは紛れもなく現実だったと断言も出来る。
しかし、あれが今ここで再現できるかといえばそれは別の問題だ。
再現できなかったらピクシーが言うように本当に首が飛ぶかもしれない……そう考えると剣を握る手に汗が滲む。
「では参ります!」
ジャックは何が剣の力を引き出すのか分からない。しかし、分からないなりにフィンドル村で振るった時と同じ気持ちを心の中で再現して剣を振った。
ジャックは結果を見るのが怖くて目をつぶっていた。
剣を振るった直後は静寂が、そしてその数秒後にはざわめきが謁見の間を支配する。ジャックが恐る恐る目を開けると、打ち込み台は五台とも両断されていた。
「なるほど。これは見事なものじゃな」
先ほどまでとは打って変わって、王の言葉には驚きと畏敬の念が込められている。
「ではジャックよ。改めて命ずる。その剣を携えてオスラに赴き、北部を荒らしている魔物達を駆逐せよ!」
ジャックにとっては二度目となる「王命」が今度は直接下ったのである。
当然ジャックの返答に選択肢は用意されていない。
「承知しました」
これがジャックが口にできる唯一の言葉であった。
「王様。ボクもついて行って良いよね? お目付け役として!」
ピクシーはどさくさにまぎれ、ちゃっかり自分の要求を通していた。
ジャックは自嘲気味にピクシーの表現を借りてそう呟くと、家の扉を開けた。
「よっ! ジャック。もう出発? でも、残念。それ中止ね」
声の主はピクシーであった。ピクシーは自分の予言を早速ここで実現させたのだった。
「王様が呼んでるよ。王宮に出頭しろってさ」
ピクシーは何故ジャックが呼び出されたのか、その理由を知っているようだった。
ジャックはそのままピクシーに連れられて王宮へ赴いた。
以前と異なり、今回は王様直々のお召しである。当然ジャックの様な平民にとっては一生に一度も無いような機会である。ジャックは王族を前にした時の作法など、自分とは無縁とばかりに学んでこなかったことを今更ながらに後悔していた。
警備の兵に守られた大きな扉をいくつも通り抜けた先には、ジャックがこれまで見たどんな建物より豪華で巨大な広間があった。これが謁見の間というものなのだろう。そこで先ほど教えられたばかりの姿勢を作って王が来るのを待つ……
……十数分ほど経過した頃だろうか? お付きの従者がゾロゾロと入ってくる。
更にその十分後にいよいよ王のお出ましである。
「そちがジャックか?」
王がジャックに下問する。
「はっ!」
頭を下げたままジャックは簡潔に返事をする。
「そちの持ってきた剣だが、あれが勇者の剣であるというのは本当か?」
王の言葉には明らかに疑いの気持ちが表れている。
「その通りでございます」
長々とした説明は許されない。ジャックは疑われていると知りながらも簡潔に肯定する以外の選択肢を持たなかった。
「その剣は魔法の力で複数の魔物を瞬時に薙ぎ払ったと聞いたが?」
王の怪訝そうな声は更に力強くなる。
確かに人伝で聞いたら疑うのも仕方の無いような話ではある。しかし、ならばこそ王命を下してでも探したかったはずではないのだろうか? ジャックは王が何を言いたいのか訝しんでいた。
「左様にございます」
疑問に思いつつ、ジャックはまた手短に肯定の意志を伝えた。
「城内の誰が振るってもそのようなことは起こらないのだが、それでもそちはその主張を変えんという事で良いのだな?」
王は怒りと失望を半々の比率で混ぜたような大きなため息交じりで、最後の問いをジャックにぶつけた。
ここまで聞いてジャックはようやく何故自分が呼び出されたのかを理解した。
恐らくフィンドル村で見せた剣の力が再現できなかったのだ。確かにジャックも実戦で三度ほどその力を発現させたが、その後それを確認してはいなかった。
「王様、ジャックに剣を振らせれば話が早いかと存じます」
そう言って横から割って入ったのはピクシーであった。
流石に普段仕事で直接話をしているだけあって、王に意見するのに遠慮は無いようだ。
「剣を持ってまいれ!」
王は侍従にそう命じると、剣はすぐに運ばれてきた。
「ほい、ジャック。気合入れて振らないと首が飛ぶよー」
本気とも冗談ともつかない話を真顔で囁くピクシーを余所目に、ジャックは剣を取った。
謁見の間の一角には、普段は剣戟の練習に使う人型の打ち込み台が五つ並べられた。
それに向かって剣を振れという事らしい。
……ジャックは緊張していた。
確かにフィンドル村では剣の未知の力を引き出すことが出来た。あれは紛れもなく現実だったと断言も出来る。
しかし、あれが今ここで再現できるかといえばそれは別の問題だ。
再現できなかったらピクシーが言うように本当に首が飛ぶかもしれない……そう考えると剣を握る手に汗が滲む。
「では参ります!」
ジャックは何が剣の力を引き出すのか分からない。しかし、分からないなりにフィンドル村で振るった時と同じ気持ちを心の中で再現して剣を振った。
ジャックは結果を見るのが怖くて目をつぶっていた。
剣を振るった直後は静寂が、そしてその数秒後にはざわめきが謁見の間を支配する。ジャックが恐る恐る目を開けると、打ち込み台は五台とも両断されていた。
「なるほど。これは見事なものじゃな」
先ほどまでとは打って変わって、王の言葉には驚きと畏敬の念が込められている。
「ではジャックよ。改めて命ずる。その剣を携えてオスラに赴き、北部を荒らしている魔物達を駆逐せよ!」
ジャックにとっては二度目となる「王命」が今度は直接下ったのである。
当然ジャックの返答に選択肢は用意されていない。
「承知しました」
これがジャックが口にできる唯一の言葉であった。
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