上 下
1 / 9
プロローグ

突然の転生

しおりを挟む
 ふわふわと空を飛ぶような、けれどなんとなく水の中にいるような息苦しさを感じた。ああ、溺れちゃう。そう思って体を動かし目を開けようとした。
だけど、どう頑張っても自分の手足は動いてくれてるような気配もないし、目もあかない。
 自分が溺れているのかもしれないと思った途端、体が動かないことにとてつもない焦りを感じた。でも、うまく回らない思考では何とかしなくちゃとしか考えられずどんどんと息が苦しくなっていった。ダメだ、もう息できない。そう思ったのを最後に意識が途切れた。




「・・・・・・ん・・・・・・か?」
ん?なんか話しかけられてる?
誰だろう。知らない声。
あれ?息もできてる。なんで?
もしかして、あの記憶は夢だった?
あんなにリアルな感覚だったのに?
色々と疑問だらけだけど、とりあえず起きなきゃ。
 そう思い体を起こす。

「ああ!!よかった!起きれたんですね!いやぁ、焦りましたよぉ。なかなか起きてくれないもんでしたから」

 長い白髪の知らない青年が体を起こすといきなりそう話しかけてきた。突然の事で、自分の置かれている状況がどんなものか全く理解出来ず、思わず眉間に皺をよせながら考え固まっているとその青年が話し始めた。

「いやいや申し訳なかったです!全く予期しない人物の死だったもので対応が遅れてしまい、こちらの世界にきてからもしばらくの間あなたが死亡した時の状況のままになってしまってまして。気づいて慌ててとりあえず死亡した時の苦しい状態から解放したんですが……苦しかったですよね………?」

 と若干青ざめた顔をしながら申し訳なさそうに訊ねてきた。

「まぁ、苦しかったですけどそれは置いといて、死亡したってなんですか?!私死んだんですか?」
と捲し立てるように聞いた

「本当に申し訳なかったですぅ。あれれ、覚えてないですか?長谷川 菜那歌ななかさん、あなたは死亡しました!もう分かってるかもしれないですけど一応言っておくと死因は溺死ですね!子供が橋から川覗き込んでいて、その子供がバランス崩して落ちそうになったのを助けて自分が川に落ちてしまったみたいですね!」
 
「え……?私本当に死んだんですか?何かの冗談じゃなくて?」

「はい!まぁ、あなたは本当はまだ死ぬべきではなかったんですけどね!」


 軽い口調とミスマッチな重たい事実を告げられてしまい私は思考を放棄した。

 「じゃあここは天国かなんかですかね?私生きてる間特にこれといって悪いこととかした記憶ないんですが……」

「惜しい!天国に近いけど天国ではないんですよ!そして、ここは生きてる間に良い行いをした人を転生させるためにあります!
菜那歌さんが助けた子供さんは将来色んな人を助ける予定がある人物でした。その人物を助けたことと、こちらの不備で苦しい思いさせてしまったことに加え元々の善行で大分融通がききます!あなたはどんな世界に転生したいですか??」

「いきなりそんなこと聞かれても……
元の世界に戻ることは出来ないんですよね?」

「そうですねぇ…元の世界に新しい命として転生させることは難しいですねぇ…菜那歌さんが生きている間関係を持った人たちがいますし」

「そう…ですか。
じゃあどこでもいいです。なるべく優しくて温かい家族の元に転生出来るようにしてください。」

「それだけですかぁ?他の方は剣と魔法のファンタジーな世界!とか乙女ゲームでイケメンがいっぱいの世界!とかそういう希望をしますよ?」

「はい。生前は温かい家庭とは無縁でしたから…優しくて温かい家族は憧れだったんです。転生出来るならそんな人達の元に産まれたいです。」

「そうですか……
ですが、それだけだと菜那歌さんの善行などと釣り合いが取れないのでこちら側でいくらか条件を付け足させて貰いますね!それで大丈夫ですか?」

 「はい。私の希望はそれだけなので、そちら側が都合のいいようにしておいて下さい。なんか色々とありがとうございます…えっと、今更ですが名前聞いてなかったですね」

 「あぁ、申し遅れました!私転生者の管理などしてます、クラウスといいます!」

「ありがとうございましたクラウスさん」

 そうお礼を告げると瞼が重くなり急に眠気が襲ってきた。

 「第2の人生…楽しんで下さいね」

 そう最後にクラウスさんが私に呟いたのを聞き取り感謝の言葉を口にしようとしたけど眠気によってそれは出来ず、薄く微笑んで私は意識を手放した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が転生したのは乙女ゲームの世界でどの選択でも死ぬ悪役令嬢でした(泣)

神無月
恋愛
私こと現役JKの藍川普が転生したのは、まさかの10代~60代までがキュンキュンするという伝説の乙女ゲーム『学園プリンス(学プリ)』でした…しかも死亡フラグ立てまくりの悪役令嬢!? こうなったら片っ端から折るしか無いって思っていたのに、王子との婚約をなかったことにするのも失敗するし、残りの9人の他の攻略対象とは友達になっちゃうし、けど悪役令嬢友達は出来ました!バカでちょっぴりチートな可哀想な転生少女をどうか見守って下さい。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

処理中です...