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翼を……!!
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「な…っ!?」
自身に向かって伸ばされた<魔王の腕>に、リセイは再び<大きな手>をイメージした。それで魔王の手を払いのけようとしたのだ。
しかし、魔王の方もそれを察したのか、見えないはずの<大きな手>を数十本の自身の手で受け止めて、残りの手で彼が抱きかかえていた<魔人の少女>の腕を掴み、引き寄せた。
「くっ!!」
一瞬、少女の体を掴んで抗おうとしたものの、けれどそれでは彼女が傷付くかもしれないと思い、敢えて逆らうことなく少女もろとも引き寄せられた。
そんなリセイにも魔王の手は絡みつき、やはりぞあぞあと蠢く無数の腕の中へと引き込まれていく。
「!?」
が、無数の腕の中に巻き込まれたというのに、まるで毛足の長い絨毯にでも触れたかのように、奇妙な心地好ささえあった。
それが逆にリセイを戸惑わせて、反応が遅れる。
しかも、魔王の体にぶつかるかと思ったのにも拘らず、まったく抵抗なくどこまでも落ちていく。
「え…? え……っ!?」
と、今度は突然、視界が開けた。
眼下には、弧を描いた地平線と、広がる大地。
空だった。リセイと魔人の少女は、何の脈絡もなく空中高く放り出されていたのだ。
「な、な、なあああ~っっ!!?」
いきなりのことに混乱しつつも、リセイは頭をフル回転させた。
ごおごおと空気が自分達の体に叩きつけられるのを感じる。
あまりに地面から遠くて実感はないものの、いわゆる<自由落下>中だということも悟る。
パラシュートもなしでスカイダイビングをさせられたのだ。
「くっそぉぉぉぉぉーっ!! なんだよ! なんなんだよぉーっ!!」
あらん限りの声で叫ぶものの、空気が塊のようになって口の中に飛び込んでくるだけで、何の意味もなかった。
だからリセイは考える。考える。
「どうする? どうする? どうすればいい……っ!?」
そして閃く。
「羽根だ! 翼を……!!」
自分の背中に大きな翼があることをイメージすると、瞬間、背中がぐんっ!と強く引っ張られる感覚があった。
大きな空気抵抗ができて、落下速度が落ちる。
しかしその所為で今度は魔人の少女の体が地面の方に向かって引っ張られる感覚があり、危うく落としそうになる。
「く…この……っ!」
それを何とか堪えて少女を抱き直し、再度思考を整えた。
『飛ぶ…! 飛ぶんだ…! 僕は飛べる……!!』
強くそう思うと、一直線に地面に向かって落ちていたのが、横方向への移動に変化していたのが分かった。
滑空しているのだ。
肩甲骨の辺りに大きな負荷が掛かっていることが改めて感じられて、そこから生えた<見えない翼>で自分と少女の体が支えられているのを悟ったのだった。
自身に向かって伸ばされた<魔王の腕>に、リセイは再び<大きな手>をイメージした。それで魔王の手を払いのけようとしたのだ。
しかし、魔王の方もそれを察したのか、見えないはずの<大きな手>を数十本の自身の手で受け止めて、残りの手で彼が抱きかかえていた<魔人の少女>の腕を掴み、引き寄せた。
「くっ!!」
一瞬、少女の体を掴んで抗おうとしたものの、けれどそれでは彼女が傷付くかもしれないと思い、敢えて逆らうことなく少女もろとも引き寄せられた。
そんなリセイにも魔王の手は絡みつき、やはりぞあぞあと蠢く無数の腕の中へと引き込まれていく。
「!?」
が、無数の腕の中に巻き込まれたというのに、まるで毛足の長い絨毯にでも触れたかのように、奇妙な心地好ささえあった。
それが逆にリセイを戸惑わせて、反応が遅れる。
しかも、魔王の体にぶつかるかと思ったのにも拘らず、まったく抵抗なくどこまでも落ちていく。
「え…? え……っ!?」
と、今度は突然、視界が開けた。
眼下には、弧を描いた地平線と、広がる大地。
空だった。リセイと魔人の少女は、何の脈絡もなく空中高く放り出されていたのだ。
「な、な、なあああ~っっ!!?」
いきなりのことに混乱しつつも、リセイは頭をフル回転させた。
ごおごおと空気が自分達の体に叩きつけられるのを感じる。
あまりに地面から遠くて実感はないものの、いわゆる<自由落下>中だということも悟る。
パラシュートもなしでスカイダイビングをさせられたのだ。
「くっそぉぉぉぉぉーっ!! なんだよ! なんなんだよぉーっ!!」
あらん限りの声で叫ぶものの、空気が塊のようになって口の中に飛び込んでくるだけで、何の意味もなかった。
だからリセイは考える。考える。
「どうする? どうする? どうすればいい……っ!?」
そして閃く。
「羽根だ! 翼を……!!」
自分の背中に大きな翼があることをイメージすると、瞬間、背中がぐんっ!と強く引っ張られる感覚があった。
大きな空気抵抗ができて、落下速度が落ちる。
しかしその所為で今度は魔人の少女の体が地面の方に向かって引っ張られる感覚があり、危うく落としそうになる。
「く…この……っ!」
それを何とか堪えて少女を抱き直し、再度思考を整えた。
『飛ぶ…! 飛ぶんだ…! 僕は飛べる……!!』
強くそう思うと、一直線に地面に向かって落ちていたのが、横方向への移動に変化していたのが分かった。
滑空しているのだ。
肩甲骨の辺りに大きな負荷が掛かっていることが改めて感じられて、そこから生えた<見えない翼>で自分と少女の体が支えられているのを悟ったのだった。
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