76 / 137
身元引受人
しおりを挟む
ライラの向かいに座ろうとした時、リセイは視界の隅に、見覚えのある何かを捉えた。だから意識がそちらに向いてしまった。
瞬間、さっと動く影。
でも、今のリセイにはその一瞬で十分だった。
「ティコナ…!? ファミューレさん…?」
思わず声を上げる。
すると、普通に座ってたらリセイからは完全に死角になって見えないはずの衝立の陰で、ティコナとファミューレが、
『しまったぁ…!』
という表情をしていた。
上手く身を隠してやり過ごせたはずが……
しかし、名前まで呼ばれてしまったらもう誤魔化しきれない。
「は、はぁい♡ 偶然だね、リセイ」
おずおずと歩み出ながら、小さく手を振りながら、ティコナは引きつった笑顔で声を掛けた。けれど、その後ろから、
「ティコナさん、もう今さらです。正直に話しましょう」
ファミューレが諦め顔で言う。
「ぐ……っ!」
ティコナは言葉を詰まらせるものの、確かにどう取り繕っても何ともならないことは彼女にも分かった。
「そ…そうですね……仕方ない……」
何とか自分を抑えながら、呼吸を整え、改めてライラに向き直ってティコナは口を開く。
「隊長さんですね。失礼をお詫びします。その上で改めて申し上げます。ご一緒させていただいていいでしょうか? リセイの家族として、一度ちゃんとご挨拶したいと思ってたんです」
と申し出た。
彼女の真剣な眼差しに、ライラも、
「あ…ああ、そうだな。せっかくの機会だ。私としても、隊員のご家族とは親交を図りたい」
そう応える。
本音では、
『リセイと二人きりになれると思ったんだが……』
などと思いつつ。
それでも、
『まあ、それはまたいずれ機会があるだろうし……』
なんとか自分を納得させる。この辺りはさすがに責任ある立場にいる者としての矜持だろう。
だがそこに、
「なんですかあなたは!? 騎士様に対して失礼じゃないですか……っ!?」
強い調子の声。
「!?」
ティコナとファミューレが振り向いた先には、明らかに怒りを含んだ眼差しで睨みつけてくる女性が五人。その内の三人は、昨日、<エディレフ亭>に押しかけて強引に今日の約束を取り付けた女性だった。
『増えてる!?』
人数に一瞬怯んだティコナだったものの、女性達に向き直って、
「私は、リセイの家族として隊長さんに直接お話がしたかっただけです。家族にはその権利があるはずです!」
言い返した。
けれど、女性の方も引き下がらない。
「家族? あなたは彼の家族じゃなくて、ただの<居候先の娘>ですよね? 下がっててください…!」
しかしティコナも、
「私の両親は、リセイの<身元引受人>です。身元引受人は、その人の管理監督について、家族と同じ権利を持つことができると決まってるはずですよ!」
やはり一歩も引かなかった。
この世界では、<社会保障>という面ではまだ弱さもあるものの、その分、個人同士の<相互扶助>という部分では、法によって明確に定められているのだった。
瞬間、さっと動く影。
でも、今のリセイにはその一瞬で十分だった。
「ティコナ…!? ファミューレさん…?」
思わず声を上げる。
すると、普通に座ってたらリセイからは完全に死角になって見えないはずの衝立の陰で、ティコナとファミューレが、
『しまったぁ…!』
という表情をしていた。
上手く身を隠してやり過ごせたはずが……
しかし、名前まで呼ばれてしまったらもう誤魔化しきれない。
「は、はぁい♡ 偶然だね、リセイ」
おずおずと歩み出ながら、小さく手を振りながら、ティコナは引きつった笑顔で声を掛けた。けれど、その後ろから、
「ティコナさん、もう今さらです。正直に話しましょう」
ファミューレが諦め顔で言う。
「ぐ……っ!」
ティコナは言葉を詰まらせるものの、確かにどう取り繕っても何ともならないことは彼女にも分かった。
「そ…そうですね……仕方ない……」
何とか自分を抑えながら、呼吸を整え、改めてライラに向き直ってティコナは口を開く。
「隊長さんですね。失礼をお詫びします。その上で改めて申し上げます。ご一緒させていただいていいでしょうか? リセイの家族として、一度ちゃんとご挨拶したいと思ってたんです」
と申し出た。
彼女の真剣な眼差しに、ライラも、
「あ…ああ、そうだな。せっかくの機会だ。私としても、隊員のご家族とは親交を図りたい」
そう応える。
本音では、
『リセイと二人きりになれると思ったんだが……』
などと思いつつ。
それでも、
『まあ、それはまたいずれ機会があるだろうし……』
なんとか自分を納得させる。この辺りはさすがに責任ある立場にいる者としての矜持だろう。
だがそこに、
「なんですかあなたは!? 騎士様に対して失礼じゃないですか……っ!?」
強い調子の声。
「!?」
ティコナとファミューレが振り向いた先には、明らかに怒りを含んだ眼差しで睨みつけてくる女性が五人。その内の三人は、昨日、<エディレフ亭>に押しかけて強引に今日の約束を取り付けた女性だった。
『増えてる!?』
人数に一瞬怯んだティコナだったものの、女性達に向き直って、
「私は、リセイの家族として隊長さんに直接お話がしたかっただけです。家族にはその権利があるはずです!」
言い返した。
けれど、女性の方も引き下がらない。
「家族? あなたは彼の家族じゃなくて、ただの<居候先の娘>ですよね? 下がっててください…!」
しかしティコナも、
「私の両親は、リセイの<身元引受人>です。身元引受人は、その人の管理監督について、家族と同じ権利を持つことができると決まってるはずですよ!」
やはり一歩も引かなかった。
この世界では、<社会保障>という面ではまだ弱さもあるものの、その分、個人同士の<相互扶助>という部分では、法によって明確に定められているのだった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
神様お願い!~神様のトバッチリで異世界に転生したので心穏やかにスローライフを送りたい~
きのこのこ
ファンタジー
旧題:神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
世界樹の管理人
浅間遊歩
ファンタジー
北のはずれの小さな村で無難な人生を送るべく準備を重ねていた12歳の少女・ミリアナは、不思議な紳士に仕事の面接を受けるよう誘われる。
行く先は冒険者の街・マホテア。馬車で一週間の長旅だ。
顔見知りの商人・ルーベンや、その息子のデレファンやマグリーと一緒の旅は、見るもの全てが珍しく楽しい。
大きな街での買い物に、美しい聖域や怖いモンスター。人間族とは違う種族との交流や色々な魔法。
そしてマホテアでミリアナを待っていたのは、枯れかけた巨大な世界樹だった…
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
選ばれた天職は✳︎✳︎✳︎です!! 〜剣と魔術の世界で生き残れ!〜
Nishy
ファンタジー
主人公、アイル・トワイライトは絶望していた。この世はランク分けされており10才の誕生日になると天職(ジョブ)が啓示される。アイルが与えられた天職は「✳︎✳︎✳︎」。魔術系統でもなければ剣術系統でもない能力だ。おまけに中身も分からないまま一年が過ぎた。友人達はメキメキと能力を伸ばす中、アイルは村の雑用係として生活を送っていた。優しかった友人達も能力が発露しないアイルを軽く見始め、陰湿ないじめが日に日に強くなっていく。
天職発表から一年と少し過ぎた頃、友人の一人で魔術師であるペンネから森で魔物狩りに行こうと言われる。しかしいざ森に入った瞬間気を失い、目を覚ますと魔物の住処周辺で置き去りにされていた!
村の近くとはいえ森の内部までは知らないアイル。その時茂みの奥から魔物が現れた。能力もなければ身体にも恵まれていないアイルには成す術がない。
「こんなところで死にたくない・・・。」朦朧とする意識の中何者かがアイルの意識の中で語りかける。その声にアイルは・・・
これは剣術と魔術が溢れる世界で能力もわからない少年が英雄になるまでを描いた物語である。
1番じゃない方が幸せですから
cyaru
ファンタジー
何時だって誰かの一番にはなれないルビーはしがない子爵令嬢。
家で両親が可愛がるのは妹のアジメスト。稀有な癒しの力を持つアジメストを両親は可愛がるが自覚は無い様で「姉妹を差別したことや差をつけた事はない」と言い張る。
しかし学問所に行きたいと言ったルビーは行かせてもらえなかったが、アジメストが行きたいと言えば両親は借金をして遠い学問所に寮生としてアジメストを通わせる。
婚約者だって遠い町まで行ってアジメストには伯爵子息との婚約を結んだが、ルビーには「平民なら数が多いから石でも投げて当たった人と結婚すればいい」という始末。
何かあれば「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」と言われ続けてきたルビーは決めた。
「私、王都に出て働く。家族を捨てるわ」
王都に行くために資金をコツコツと貯めるルビー。
ある日、領主であるコハマ侯爵がやってきた。
コハマ侯爵家の養女となって、ルワード公爵家のエクセに娘の代わりに嫁いでほしいというのだ。
断るも何もない。ルビーの両親は「小姑になるルビーがいたらアジメストが結婚をしても障害になる」と快諾してしまった。
王都に向かい、コハマ侯爵家の養女となったルビー。
ルワード家のエクセに嫁いだのだが、初夜に禁句が飛び出した。
「僕には愛する人がいる。君を愛する事はないが書面上の妻であることは認める。邪魔にならない範囲で息を潜めて自由にしてくれていい」
公爵夫人になりたかったわけじゃない。
ただ夫なら妻を1番に考えてくれるんじゃないかと思っただけ。
ルビーは邪魔にならない範囲で自由に過ごす事にした。
10月4日から3日間、続編投稿します
伴ってカテゴリーがファンタジー、短編が長編に変更になります。
★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる