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黒い塊
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ティコナとファミューレがそうやって言葉を交わしていたちょうどその頃、リセイと第二隊の面々は馬車でマルムの森に着き、
「降車!」
副長のレイの掛け声と共に馬車を降りて整列した。もちろんリセイも他の隊員に負けない俊敏な動きで位置に着き、敬礼する。
それを見届けたライラが僅かに嬉しそうに微笑みながらも、
「よし! 我々もこうしてようやく再び役目を果たせるようになった! アムギフ撃破に慢心することなく、各自、己の職責を全うすることを心掛けよ!」
毅然と声を発し、
「はっ!!」
リセイも腹から声を出して応えた。
『それにしても一緒に食事って、何の話だろう…?』
とは頭によぎらせつつも、哨戒任務のために森に入っていく。
すると、アムギフに遭遇した時とは、完全に別人の動きだった。
『まったく疲れないや……!』
森に入ってほんの数十メートルも進まないうちに遅れ始めたのが嘘のように、グイグイと藪をかき分け前に進める。むしろ、他の隊員を置き去りにして先に進めそうになるのを抑える必要さえあった。
その突破力に、先を進むレイもライラも舌を巻く。
「ホントに同じ人間か? って思いますよね」
「ああ、まったくだ……」
ライラはそう言いながらも、
「それでも、戦力として役に立つなら我らとしてもこの上ない僥倖だ。実にいい拾い物をした!」
とも嬉しそうに呟いた。
その口ぶりは、あくまで騎士として、軍を指揮する者としての発言であったものの、この時の彼女の表情は、明らかに別の感情を窺わせるものでもあった。
どこかニヤケているのだ。まるで<自慢話>でもしているかのように。
それがレイにはバレバレだったものの、彼はむしろ嬉しそうに目を細めていた。
ライラが順調にリセイに対する想いを育てていることが察せられて。
けれど、その時、
「……!?」
リセイの表情が険しくなる。それに数瞬遅れて、ライラとレイにも緊張が奔り、
「全員停止! 周囲を警戒せよ!!」
と声を上げた。何とも言えない獣臭が漂ってきたのである。アムギフのそれにも似た、決して油断してはいけない類のもの。
『くそっ! またかよ!』
『なんで俺達ばっかり……!』
隊員達の中にはそんな風に思う者もいたが、それは口に出さず、剣を構えて周囲を警戒する。
すると、
「!?」
リセイの体が弾かれるようにして動いた。その場にいた誰も反応できない動きだった。
「リセイ!?」
ライラが声を上げた時には、リセイは木の幹を駆け上がり樹上にいた<黒い塊>を捉え、ぐんっ!と体を逸らして自らの体重で<それ>を引きずり下ろす。
と、隊員達の目の前で、リセイと<黒い塊>の位置が入れ替わり、それが地面へと叩きつけられたのだった。
「降車!」
副長のレイの掛け声と共に馬車を降りて整列した。もちろんリセイも他の隊員に負けない俊敏な動きで位置に着き、敬礼する。
それを見届けたライラが僅かに嬉しそうに微笑みながらも、
「よし! 我々もこうしてようやく再び役目を果たせるようになった! アムギフ撃破に慢心することなく、各自、己の職責を全うすることを心掛けよ!」
毅然と声を発し、
「はっ!!」
リセイも腹から声を出して応えた。
『それにしても一緒に食事って、何の話だろう…?』
とは頭によぎらせつつも、哨戒任務のために森に入っていく。
すると、アムギフに遭遇した時とは、完全に別人の動きだった。
『まったく疲れないや……!』
森に入ってほんの数十メートルも進まないうちに遅れ始めたのが嘘のように、グイグイと藪をかき分け前に進める。むしろ、他の隊員を置き去りにして先に進めそうになるのを抑える必要さえあった。
その突破力に、先を進むレイもライラも舌を巻く。
「ホントに同じ人間か? って思いますよね」
「ああ、まったくだ……」
ライラはそう言いながらも、
「それでも、戦力として役に立つなら我らとしてもこの上ない僥倖だ。実にいい拾い物をした!」
とも嬉しそうに呟いた。
その口ぶりは、あくまで騎士として、軍を指揮する者としての発言であったものの、この時の彼女の表情は、明らかに別の感情を窺わせるものでもあった。
どこかニヤケているのだ。まるで<自慢話>でもしているかのように。
それがレイにはバレバレだったものの、彼はむしろ嬉しそうに目を細めていた。
ライラが順調にリセイに対する想いを育てていることが察せられて。
けれど、その時、
「……!?」
リセイの表情が険しくなる。それに数瞬遅れて、ライラとレイにも緊張が奔り、
「全員停止! 周囲を警戒せよ!!」
と声を上げた。何とも言えない獣臭が漂ってきたのである。アムギフのそれにも似た、決して油断してはいけない類のもの。
『くそっ! またかよ!』
『なんで俺達ばっかり……!』
隊員達の中にはそんな風に思う者もいたが、それは口に出さず、剣を構えて周囲を警戒する。
すると、
「!?」
リセイの体が弾かれるようにして動いた。その場にいた誰も反応できない動きだった。
「リセイ!?」
ライラが声を上げた時には、リセイは木の幹を駆け上がり樹上にいた<黒い塊>を捉え、ぐんっ!と体を逸らして自らの体重で<それ>を引きずり下ろす。
と、隊員達の目の前で、リセイと<黒い塊>の位置が入れ替わり、それが地面へと叩きつけられたのだった。
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