28 / 137
イベフ
しおりを挟む
上手くイメージできないことで、ティコナに逢って一緒に街に来た時の様に、リセイは疲労を感じていた。やはり無意識のうちに疲れを受け入れてしまっていたからだ。
他の兵士達は慣れているのでどんどん先に進むが、リセイはまったく付いていけない。
「遅いぞ! 何をやっている!」
騎士でありながら先陣を切って藪の中を進むライラに叱責されて、
「は…はい! すいません……!」
とは応えるものの、もう体が言うことをきかない。
『なんか、僕の<能力>って戦うことに特化してるのかなあ……』
ここまで有り得ないことが実現してきたことで<能力>が授けられていることについてはもう疑っていないものの、肝心の能力の正体がいまだに掴みきれなくてリセイは戸惑っていた。
膝に力が入らず、足がもつれてその場に倒れ込む。
「お前、変な奴だなあ。腕は立つのに体力はこれとか」
馬車の中で話しかけてきた、<トランの従兄>が戻ってきて起こしてくれた。
「すいません…なんか、上手くできなくて……」
リセイは本当に申し訳なさそうにそう応えた。
その様子に、手を抜いてるわけでもサボってるわけでもないのが感じられて、誰も怒る気になれなかった。
ライラも、憮然とした表情ではあるものの、実は怒っているわけではなかった。どういう表情をしていいのか分からなくてそうなってしまっているだけである。
だが、その時、
「うわっ!?」
と誰かが声を上げた。
「!?」
そのただならぬ声色に、全員が身構える。特にライラとレイはすでに剣まで構え、完全に臨戦態勢だ。
単に躓いたとかそういう類の声でなかったことも分かっている。明らかに危険を察知した時の人間の声だ。
が、リセイを除く全員が目にしたのは、声を上げた兵士の目の前の枝から垂れ下がる細長い影。
「イベフ…?」
誰かが呟くように言って、
「なんだイベフかよ。脅かすな」
一気に緊張が緩んだ。
「……?」
疲れ切ってやっと顔を上げて視線を向けたリセイは、兵士が手にした木の枝に絡みつく生き物の姿を見た。
『ヘビ……?』
リセイがそう思ったように、イベフはヘビによく似た生き物だった。実を言うと、退化して今では痕跡しか残っていないが、手足を持つ、ヘビよりトカゲに近い生き物ではあるものの、実質的にはヘビと変わらないだろう。
このイベフが、マルムの森の食物連鎖の頂点だった。大きいものになると一メートルを優に超え、ウサギくらいの大きさの動物くらいなら飲み込んでしまうものの毒はなく、人間のような大きな生き物には襲い掛からないので基本的に危険はない。ただ、さすがに踏みつけたりすると、イベフの方も自らを守ろうと攻撃はしてくるけれど。
他の兵士達は慣れているのでどんどん先に進むが、リセイはまったく付いていけない。
「遅いぞ! 何をやっている!」
騎士でありながら先陣を切って藪の中を進むライラに叱責されて、
「は…はい! すいません……!」
とは応えるものの、もう体が言うことをきかない。
『なんか、僕の<能力>って戦うことに特化してるのかなあ……』
ここまで有り得ないことが実現してきたことで<能力>が授けられていることについてはもう疑っていないものの、肝心の能力の正体がいまだに掴みきれなくてリセイは戸惑っていた。
膝に力が入らず、足がもつれてその場に倒れ込む。
「お前、変な奴だなあ。腕は立つのに体力はこれとか」
馬車の中で話しかけてきた、<トランの従兄>が戻ってきて起こしてくれた。
「すいません…なんか、上手くできなくて……」
リセイは本当に申し訳なさそうにそう応えた。
その様子に、手を抜いてるわけでもサボってるわけでもないのが感じられて、誰も怒る気になれなかった。
ライラも、憮然とした表情ではあるものの、実は怒っているわけではなかった。どういう表情をしていいのか分からなくてそうなってしまっているだけである。
だが、その時、
「うわっ!?」
と誰かが声を上げた。
「!?」
そのただならぬ声色に、全員が身構える。特にライラとレイはすでに剣まで構え、完全に臨戦態勢だ。
単に躓いたとかそういう類の声でなかったことも分かっている。明らかに危険を察知した時の人間の声だ。
が、リセイを除く全員が目にしたのは、声を上げた兵士の目の前の枝から垂れ下がる細長い影。
「イベフ…?」
誰かが呟くように言って、
「なんだイベフかよ。脅かすな」
一気に緊張が緩んだ。
「……?」
疲れ切ってやっと顔を上げて視線を向けたリセイは、兵士が手にした木の枝に絡みつく生き物の姿を見た。
『ヘビ……?』
リセイがそう思ったように、イベフはヘビによく似た生き物だった。実を言うと、退化して今では痕跡しか残っていないが、手足を持つ、ヘビよりトカゲに近い生き物ではあるものの、実質的にはヘビと変わらないだろう。
このイベフが、マルムの森の食物連鎖の頂点だった。大きいものになると一メートルを優に超え、ウサギくらいの大きさの動物くらいなら飲み込んでしまうものの毒はなく、人間のような大きな生き物には襲い掛からないので基本的に危険はない。ただ、さすがに踏みつけたりすると、イベフの方も自らを守ろうと攻撃はしてくるけれど。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
異世界でスローライフを満喫
美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます!
【※毎日18時更新中】
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です!
※カクヨム様にも投稿しております
※イラストはAIアートイラストを使用
無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物
ゆうぎり
ファンタジー
私リディアーヌの不幸は双子の姉として生まれてしまった事だろう。
妹のマリアーヌは王太子の婚約者。
我が公爵家は妹を中心に回る。
何をするにも妹優先。
勿論淑女教育も勉強も魔術もだ。
そして、面倒事は全て私に回ってくる。
勉強も魔術も課題の提出は全て代わりに私が片付けた。
両親に訴えても、将来公爵家を継ぎ妹を支える立場だと聞き入れて貰えない。
気がつけば私は勉強に関してだけは、王太子妃教育も次期公爵家教育も修了していた。
そう勉強だけは……
魔術の実技に関しては無能扱い。
この魔術に頼っている国では私は何をしても無能扱いだった。
だから突然罪を着せられ国を追放された時には喜んで従った。
さあ、どこに行こうか。
※ゆるゆる設定です。
※2021.9.9 HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~
乃神レンガ
ファンタジー
謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。
二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。
更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。
それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。
異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。
しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。
国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。
果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。
現在毎日更新中。
※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
神様お願い!~神様のトバッチリで異世界に転生したので心穏やかにスローライフを送りたい~
きのこのこ
ファンタジー
旧題:神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる