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試合
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「……」
兵士から受け取った、どうやら鉄の芯が入っててそれで実剣に近い重さにしてるらしい稽古用の剣を掲げたり軽く振ってみたリセイは、どうにもしっくりこないことに思わず首をかしげてしまった。
それから、
「僕、これ要らないです」
と告げて、剣を兵士に向けて差し出した。
瞬間、向き合っていたライラの表情が険しくなる。
「女相手に武器など使うまでもないというのか?」
剣の切っ先のような鋭い言葉が彼女の口から発せられ、
「あ、いえ、そうじゃなくて、僕にはこれは上手く使いこなせないから、逆に駄目かなと思って。失礼だったとしたらごめんなさい」
リセイは慌ててそう返した。
しかし、ややうろたえながらも、リセイの様子からは確かに嘘を言っている気配はなかった。
するとルブセンは、
「お前が剣を使わないのは勝手だが、だからといってライラが剣を手離すことはないぞ。それでもよいのだな?」
表情を変えることなく告げた。しかしこれには、
「え……!?」
ライラの方が戸惑った姿を見せた。
『いくらなんでもそれは無茶では?』
口には出さないものの、ルブセンに向けられた目が明らかにそう言っている。彼女としては、リセイが剣を使わないというのなら自分もと思っていた。
そんな彼女に、ルブセンは、
「本人がそれでいいと言っているのだ。ならばどのような結果になろうともそれは当人が背負うべきことだ。違うか?」
淡々と言い放つ。
そう言われてはライラも従う他なく、
「分かりました」
と短く応えて、剣を構え直した。
彼女もただの伊達や酔狂で騎士になったわけじゃない。自分に剣士としての適性があることに気付き、それを活かして国のために役に立つ人間になりたかったから、寸暇を惜しんで自らを鍛え上げてきた。その結果が<騎士>という立場に結び付いただけだ。
だからこそ、しつこく異議を唱えるでもなく、命令とあればそれを実行するだけである。
その様子を見て、リセイは、
『やっぱりアニメとかとは違うんだな。アニメとかだとここでこのライラって人がすごく困ったりするんだろうけど……』
そんな風に考えてしまう。さらには、すっかり気を取り直してキリッとした目で自分を睨みつける彼女を、
『綺麗だ……』
などと思ってしまった。
正直、一般的な男が好む<可愛げ>というものはまったく感じられないものの、リセイと正対するライラには、自らの信念を芯にして地面に根を下ろす確固たる存在感があった。それがリセイには<綺麗>と感じられてしまったのだろう。
男性とか女性とかという性別とはベクトルの違う美しさとでも言うべきか。
その一方で、こんな状況でそんなことを考えている自分に、リセイ自身、
『不思議だな。どうしてこんなに落ち着いているんだろう……』
とも思ってしまったのだった。
兵士から受け取った、どうやら鉄の芯が入っててそれで実剣に近い重さにしてるらしい稽古用の剣を掲げたり軽く振ってみたリセイは、どうにもしっくりこないことに思わず首をかしげてしまった。
それから、
「僕、これ要らないです」
と告げて、剣を兵士に向けて差し出した。
瞬間、向き合っていたライラの表情が険しくなる。
「女相手に武器など使うまでもないというのか?」
剣の切っ先のような鋭い言葉が彼女の口から発せられ、
「あ、いえ、そうじゃなくて、僕にはこれは上手く使いこなせないから、逆に駄目かなと思って。失礼だったとしたらごめんなさい」
リセイは慌ててそう返した。
しかし、ややうろたえながらも、リセイの様子からは確かに嘘を言っている気配はなかった。
するとルブセンは、
「お前が剣を使わないのは勝手だが、だからといってライラが剣を手離すことはないぞ。それでもよいのだな?」
表情を変えることなく告げた。しかしこれには、
「え……!?」
ライラの方が戸惑った姿を見せた。
『いくらなんでもそれは無茶では?』
口には出さないものの、ルブセンに向けられた目が明らかにそう言っている。彼女としては、リセイが剣を使わないというのなら自分もと思っていた。
そんな彼女に、ルブセンは、
「本人がそれでいいと言っているのだ。ならばどのような結果になろうともそれは当人が背負うべきことだ。違うか?」
淡々と言い放つ。
そう言われてはライラも従う他なく、
「分かりました」
と短く応えて、剣を構え直した。
彼女もただの伊達や酔狂で騎士になったわけじゃない。自分に剣士としての適性があることに気付き、それを活かして国のために役に立つ人間になりたかったから、寸暇を惜しんで自らを鍛え上げてきた。その結果が<騎士>という立場に結び付いただけだ。
だからこそ、しつこく異議を唱えるでもなく、命令とあればそれを実行するだけである。
その様子を見て、リセイは、
『やっぱりアニメとかとは違うんだな。アニメとかだとここでこのライラって人がすごく困ったりするんだろうけど……』
そんな風に考えてしまう。さらには、すっかり気を取り直してキリッとした目で自分を睨みつける彼女を、
『綺麗だ……』
などと思ってしまった。
正直、一般的な男が好む<可愛げ>というものはまったく感じられないものの、リセイと正対するライラには、自らの信念を芯にして地面に根を下ろす確固たる存在感があった。それがリセイには<綺麗>と感じられてしまったのだろう。
男性とか女性とかという性別とはベクトルの違う美しさとでも言うべきか。
その一方で、こんな状況でそんなことを考えている自分に、リセイ自身、
『不思議だな。どうしてこんなに落ち着いているんだろう……』
とも思ってしまったのだった。
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【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
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