上 下
17 / 137

試合

しおりを挟む
「……」

兵士から受け取った、どうやら鉄の芯が入っててそれで実剣に近い重さにしてるらしい稽古用の剣を掲げたり軽く振ってみたリセイは、どうにもしっくりこないことに思わず首をかしげてしまった。

それから、

「僕、これ要らないです」

と告げて、剣を兵士に向けて差し出した。

瞬間、向き合っていたライラの表情が険しくなる。

「女相手に武器など使うまでもないというのか?」

剣の切っ先のような鋭い言葉が彼女の口から発せられ、

「あ、いえ、そうじゃなくて、僕にはこれは上手く使いこなせないから、逆に駄目かなと思って。失礼だったとしたらごめんなさい」

リセイは慌ててそう返した。

しかし、ややうろたえながらも、リセイの様子からは確かに嘘を言っている気配はなかった。

するとルブセンは、

「お前が剣を使わないのは勝手だが、だからといってライラが剣を手離すことはないぞ。それでもよいのだな?」

表情を変えることなく告げた。しかしこれには、

「え……!?」

ライラの方が戸惑った姿を見せた。

『いくらなんでもそれは無茶では?』

口には出さないものの、ルブセンに向けられた目が明らかにそう言っている。彼女としては、リセイが剣を使わないというのなら自分もと思っていた。

そんな彼女に、ルブセンは、

「本人がそれでいいと言っているのだ。ならばどのような結果になろうともそれは当人が背負うべきことだ。違うか?」

淡々と言い放つ。

そう言われてはライラも従う他なく、

「分かりました」

と短く応えて、剣を構え直した。

彼女もただの伊達や酔狂で騎士になったわけじゃない。自分に剣士としての適性があることに気付き、それを活かして国のために役に立つ人間になりたかったから、寸暇を惜しんで自らを鍛え上げてきた。その結果が<騎士>という立場に結び付いただけだ。

だからこそ、しつこく異議を唱えるでもなく、命令とあればそれを実行するだけである。

その様子を見て、リセイは、

『やっぱりアニメとかとは違うんだな。アニメとかだとここでこのライラって人がすごく困ったりするんだろうけど……』

そんな風に考えてしまう。さらには、すっかり気を取り直してキリッとした目で自分を睨みつける彼女を、

『綺麗だ……』

などと思ってしまった。

正直、一般的な男が好む<可愛げ>というものはまったく感じられないものの、リセイと正対するライラには、自らの信念を芯にして地面に根を下ろす確固たる存在感があった。それがリセイには<綺麗>と感じられてしまったのだろう。

男性とか女性とかという性別とはベクトルの違う美しさとでも言うべきか。

その一方で、こんな状況でそんなことを考えている自分に、リセイ自身、

『不思議だな。どうしてこんなに落ち着いているんだろう……』

とも思ってしまったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚
ファンタジー
旧題:型録通販から始まる、追放された侯爵令嬢のスローライフ 第15回ファンタジー小説大賞【ユニーク異世界ライフ賞】受賞作です。 8月下旬に第一巻が発売されます。 300年前に世界を救った勇者達がいた。 その勇者達の血筋は、三百年経った今も受け継がれている。 勇者の血筋の一つ『アーレスト侯爵家』に生まれたクリスティン・アーレストは、ある日突然、家を追い出されてしまう。 「はぁ……あの継母の差し金ですよね……どうしましょうか」 侯爵家を放逐された時に、父から譲り受けた一つの指輪。 それは、クリスティンの中に眠っていた力を目覚めさせた。 「これは……型録通販? 勇者の力?」 クリスティンは、異世界からさまざまなアイテムをお取り寄せできる『型録通販』スキルを駆使して、大商人への道を歩み始める。 一方同じ頃、新たに召喚された勇者は、窮地に陥っていた。 「米が食いたい」 「チョコレート食べたい」 「スマホのバッテリーが切れそう」 「銃(チャカ)の弾が足りない」 果たして勇者達は、クリスティンと出会うことができるのか? ・毎週水曜日と土曜日の更新ですが、それ以外にも不定期に更新しますのでご了承ください。  

廃忘勇者はユーティリティ?〜個性派ヒロイン4人を添えて〜

イヲイ
ファンタジー
かつて、世界を救った勇者『サトリ』。 彼は世界を救ってからどんどんと魔力が衰え始めていた。本来はあり得ない魔力量減少を解決する方法は誰も知らず、彼はいくつもの約束を交わした少女『マサリ』と共にあるかもわからない宝玉を見つけて魔力の減少を止めようとしていた。 一度世界を救い終えた元勇者は、或いは人間的に生きようとした青年は、今度は仲間と共にもう一度世界を旅する—— 少し苦くて、少し甘い。そんな世界を彼らは歩く。 変わった仲間を増やしながら。 どう頑張っても捨てられない信条で、大勢の人を救いながら。

神様お願い!~神様のトバッチリで異世界に転生したので心穏やかにスローライフを送りたい~

きのこのこ
ファンタジー
旧題:神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜 突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...