宿角玲那の生涯

京衛武百十

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伊藤玲那編

仕事

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京子けいこが一緒についてきたのは、まさにそれだった。男が小さな少女を連れていても父と娘と思われるだけだろうが、それに加えて京子けいこも一緒に来ることで完全に親子連れのようにしか見えないということを狙ってのことだった。また、玲那が逃げたり抵抗したりするのを防ぐという意味もある。自分の言うことなら服従することを分かっているからだ。

その狙い通り、玲那は一切逆らうような素振りさえ見せず男の部屋へと連れてこられた。

部屋に入るなり男は京子けいこに十万円を渡し、京子けいこはそれを数えた。それを見て、まだ十歳になっていない玲那でさえ、自分が売られたんだと察してしまった。だけどそれでも、何かの間違いだと思いたかった。売られたのは自分じゃないと思いたかった。

けれど、幼い少女のそんなささやかな願いさえ、聞き届けてはもらえなかった。

「ほら、さっさと脱ぎな。時間がもったいないだろ」

数え終えた十万円をバッグに入れながら、京子けいこが玲那に命じる。人としての情の欠片もないその言葉に小さな体がビクンと跳ねた。青褪めた顔で縋るように母親を見詰める娘に、母親はどこまでも冷酷だった。

「もたもたすんな。これはお前の仕事なんだよ。『働かざるもの食うべからず』と言ってね、なんにもできないお前は自分の体で稼ぐんだ。それが社会ってもんなんだよ」

ぬけぬけとよく言うものである。親としての義務すらロクに果たしていないでどの口が言うのかという話だが、この時の玲那にはまだそれに反抗するだけの力はなかった。

胸の奥の深いところでドロドロとした何かが渦巻いてはいたものの、それはとても小さく、玲那自身でさえ気付くことができない程度のものでしかなかったのだ。ガタガタと手が震え、足にも力が入らない。それでも彼女はなんとかワンピースを脱いだ。同じ年頃の少年とさほど変わらないのに、何故かやはり少女のそれだと分かる体が露わになり、男はごくりと唾を呑んだ。

「さっさとしな!」

下着に手を掛けたところで動きが止まってしまった自分の娘に、母親の叱責が飛ぶ。再びビクッと玲那の体が跳ねて、ついに彼女は諦めたかのように自ら下着を下した。

「おぉ~!」

一糸纏わぬ姿となった少女に、男の感嘆が投げかけられる。

「いい! これはいいよ! うん、最高だ!」

一体何が最高なのかさっぱり分からないが、男は顔を真っ赤に紅潮させて興奮していた。呼吸も荒く、涎さえ垂らしそうにも見えた。

「じゃあ、いいかな?」

男が改めて京子けいこに確認を取ると、「どうぞ」と半ば軽蔑したかのような素っ気ない返事が返ってきた。しかし男はそれさえ気にせず、玲那に近付く。体をすくめ怯える彼女の脇に両手を差し込み、男は軽々とその小さな体を抱え上げた。

「うはっ! 軽い、小さい! 中学生とか高校生じゃこうはいかないな~!!」

何を感心しているのか、男はとにかくしきりに感心し、掲げた少女の体を、下腹部を中心に舐めまわすように見る。

興奮した男の様子と高さに恐怖を感じた少女が両足をすり合わせると、男の目の前で幼いスリットがいかにも柔らかそうに変形する。その様子にも男の興奮はさらに高まった。

「これだよ! このぷにぷにしたワレメ! 中学生以上だとこれが無くなってしまうんだ~!!」

訳が分からない。そんな男の姿に、

『うるせぇよ、この変態。さっさとやることやって終わらせな!』

と、京子けいこも内心毒吐いていた。

それが聞こえた訳でもないだろうが、男は玲那を抱えたままベッドへと移動して、彼女をそこに横たわらせた。

玲那は泣いていた。あまりの恐怖と不安に固く目を瞑り、ポロポロと涙をこぼしていた。しかしそれすら男にとっては劣情を駆り立てる演出にしかならなかったようだ。はーっ、はーっ、と荒い息を吐いて、もどかしそうに自分も服を脱ぎすてていく。たるんだ醜悪な体が視界に入り、京子けいこは軽く吐き気をもよおしながら目を背けた。

顔を背けたまま手近な椅子を引き寄せて腰を下ろす母親の脇で、来週ようやく十歳になる娘が下衆な男の欲望の餌食になろうとしていた。

『いやだ! いや! たすけてお母さん!』

勇気を振り絞って目を開けて母に助けを求めようとしたがそれは声にならず、涙で歪んだ視界の中の母は自分のことを見ようとさえせず、少女の心は、真っ黒い泥のような闇に飲み込まれていく。

『お母さん、お母さん、お母さん、お母さん……!』

玲那は何度もそう呼んだつもりだったが、それは実際には言葉にならなかった。喉に詰まったかのように、声として出てはいかなかった。そんな彼女の口を、男の口が覆う。その瞬間、はっきりと甦る記憶。悪い夢だと思い込んでいたあれが現実だったのだと改めて思い知らされ、ぬらぬらと蠢く男の舌に口の中を犯されながら、彼女の心は完全に泥のような闇のような何かに呑まれ、機能を停止した。

それからは、もう、ただの人形だった。何も分からない。何も考えられない。どこか遠くの辺りで気持ちの悪い感触がうねうねと自分の体を這い回っているのをぼんやりと感じながらも、玲那はただ涙を流し続けた。

いつぞやのレイプ犯と同じように彼女の体を舐めまわし、特に股間は男の唾でふやけるほどにぐちゃぐちゃにして、存分に味わった後、いよいよ己の怒張したものをそこに潜り込ませていった。

男のモノはレイプ犯のそれよりやや大きかったが、玲那の幼い膣はその侵入を拒むことができず、限界まで押し広げられて受け入れていた。あの時から半年ほどの期間を置いたからか彼女の膣を守るささやかな膜はある程度再生していたらしく、再び裂けて血を流し、男を喜ばせた。

幼い少女の体内を隅々まで味わおうとでもするかのように、男はゆっくりと、しかし奥の行き止まりまで何度も往復を繰り返した。そしてまず一番奥深いところで精を放ち、その余韻を味わった後、今度は少し動きを早くして、肉の感触と弾力と圧力を楽しんだ。

その間も、玲那はただの人形のようにぐったりとしていた。呼吸も鼓動もあるが、彼女の心はそこにはなかった。男の欲望を受け止めるただの肉人形と化し、男の行為が終わるのをひたすら待ったのだった。

もう何度果てたかも分からないが、男もさすがに疲れを感じ、興奮が収まりつつあった。そして最後の一刺しとばかりに力一杯少女の奥深くまで己を突き入れて、果てた。

「はあーっ、はあーっ! さすがにもう無理かな……」

汗だくで息を切らし、少女を腹の上に乗せてベッドに横になった男が絞り出すようにそう言った。

『やっと終わりかよ…どんだけやるんだこの変態が……』

椅子に座って腕を組んで不機嫌そうにちらりと視線を向けた京子けいこは、やはり口には出さずそう毒吐いていた。時計を見るともう三時間以上経っている。

「じゃあ、これで終わりだよ。シャワー借りるからね」

男の汗と涎と精でぬたぬたになった自分の娘を、まるで汚物でも触れるかのようにいやいや抱き上げて風呂場へ連れて行き、力なく風呂場に座り込んだ彼女をシャワーで流し始めた。だが、ある程度流したところで、

「おい! いつまでぼーっとしてんだよ! 自分で洗え! 甘えんな!!」

と怒鳴りつけながら髪を掴んで顔を上げさせると、ようやく玲那の目に光が戻ってきたのだった。すると彼女は母親に言われた通り、ノロノロとではあるが自分で自分の体を洗い始める。意識してでのことではないようだが、特に股間を丁寧に洗い、痛みが走るのか時々ビクッと小さく跳ねながらも男の精を洗い流していったのであった。

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