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転生の章

どこで生まれたか?

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マリーチカが俺を『オッサン』と呼ぶのは当然だろう。彼女は五歳の時にうちに来て、自分がこの家の実子じゃないことは理解してる。

対してカーシャは、まだ赤ん坊の時にうちに来て、俺とリーネで育てた。だから俺のことを『татоタート』と呼んでくれてたし、リーネのことは母親だと長らく思ってた。

それもあって、俺を『気持ち悪いオッサン』と罵ったマリーチカに対して憤ってしまったんだろう。

つまり、トーイのことでは俺に対して反発もありながらも、本気で恨んでるとか嫌ってるとかじゃないってことは察せられる。

年頃の娘が父親に反発するなんてのは別に珍しくもない。しかもはっきりと具体的な<理由>があるならなおさらだ。なのにそれでもマリーチカが俺を罵ったことに怒ってくれる程度には父親だと思ってもらえてた点について俺は感謝せずにいられないよ。

それは同時に、カーシャにとってそういう父親でいられたという証拠でもあるからな。俺自身が誇らしい。

リーネの場合は分かりやすく彼女にとっての<命の恩人>でもあったから、俺に対する感情はそういう<ゲタ>を履かせた状態だっただろう。けど、カーシャは違う。カーシャは、イワンから話を聞くまで自分がこの家に来た経緯を知らなかった。イワンが悪気なくそれをカーシャに話したことで彼女は泣いてしまったなあ。

татоタート、わたし、もらわれっ子!?」

ずっと自分がこの家の子だと思ってたのにそれだったことで、ショックを受けたんだ。無理もない。けど俺は、そんなカーシャに、

「なに言ってんだ? カーシャはうちの子だよ。キャベツの精霊が間違って他所にカーシャを渡しちゃったからそれを取り返しただけだ」

と話した。まあ、単なる<子供だまし>だと言えばそのとおりなんだが、カーシャにとってはそれが腑に落ちたみたいで、

「ほんと!?」

「ああ、本当だ」

ってなったらそれで落ち着いてくれたよ。もちろんそんなものはただの<お伽話>だってのは今はもう彼女も理解してる。でも、

『どこで生まれたか?』

は大して重要じゃないってのも事実なんだ。生まれた場所は他所の家でも、カーシャはうちの子で、俺の娘だ。俺の娘として俺とリーネで育てた。その事実は変わらねえ。血が繋がってるかどうかで人間かどうかが決まるわけじゃねえしな。

『俺の下に来た人間を、人間として育てた』

だけだ。それ以外の何が必要だ? その中で納得いかないことがあって俺に反発もするようになった。人間なんだからそりゃそういうことだってあるだろ。

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