前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十

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家族の章

自分で稼いだ金

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前回<納品>した分の代金をエリクから受け取り、俺はそれを手にトーイとカーシャを連れて家に戻った。その途中、水場で、鍛冶屋としての商品を納品した際に受け取った現金の一部を、

「ほら。これがトーイの賃金だ」

と言って渡した。

「あ……うん……!」

トーイも最初は驚いた風だったが、金が入った袋を受け取ると、それをぎゅっと握りしめた。

<自分で稼いだ金>

だからな。

リーネとイワンは写本で、着々と<自分の金>を蓄えていた。けれど、勉強の一環だった写本をやめてしまったトーイには、それがなかった。トーイも分かってはいたはずだが、もしかしたら『自分だけが稼いでない』っていう焦りもあったのかもしれない。それがこれで解消される。

「……」

どこか自慢げな様子のトーイを見て、俺は、

『そうだな……働きには対価が必要だよな』

改めてそれを実感する。こうして、

『働いて対価を得る』

というのを学んでもらおう。カーシャはさすがにまだ早いものの、なに、そう遠くないうちに彼女も<仕事>ができるようになるさ。今でも十分、役立ってくれてる。

『働かざる者食うべからず』

なんて言葉もあったが、働くこと自体が楽しくてやりがいがあってってすりゃ、別に尻を叩かなくても仕事はするだろ。楽しくもねえやりがいもねえ仕事を嫌々やってるんなら、やる気も失せるだろうけどよ。

俺も、鍛冶の仕事は嫌いじゃねえ。鉄を一心不乱に叩いてる時は、何とも言えない高揚感もある。しかも、自分でも納得の仕上がりのものができれば、顔がにやけたりもする。

トーイにもいずれそうなってほしいと思う。

だから俺は、<楽しめる仕事>をトーイに紹介したい。



家に帰るとトーイは、自分用のかめにもらった金を入れ、しばらくそれを眺めてた。

「よかったね。トーイ」

リーネが声を掛けると、

「……」

黙ったままだったが大きく頷いた。

そしてリーネも、イワンも、同じように自分用の瓶に金を入れる。この辺りじゃあ、現金より現物の方がまだまだ価値があるから、実は金を盗む泥棒は滅多に出ない。麓の村でもそんな奴はいない。まあ、村の人間が泥棒なんかすれば全員顔見知りだからすぐにバレるし、下手すりゃリンチを受けて殺される。泥棒なんかするメリットがねえんだよ。事件が起こる時はだいたい<恨みつらみ>が原因だな。

となりゃ、恨みを買わないことが一番の<安全対策>だ。それに勝る防犯はねえんだよ。

なのに、子供を虐げて恨みを買う。

まったく、情けない話だぜ。

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