前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十

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家族の章

実際には信じちゃいけない奴ほど

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そうだ。実際には信じちゃいけない奴ほど『自分を信じろ』と言う。それを言う奴で実際に信じられる奴なんざ、漫画やアニメやドラマの中にしかいねえ。信じるに値しないからこそ『信じろ』と強弁して相手に考える隙を与えないようにしやがるんだ。

でも同時に、<信じられない相手><信じられるかどうか分からない相手>だからといって蔑んで嘲って見下していいわけじゃねえ。特に、

『自分とは考えが違う』

ってだけの相手はな。自分とは考えが違うから信用も信頼もできねえ。だが『考えが違う』からといって蔑んで嘲って見下してってすりゃあ、余計に拗れるだけだ。自分が蔑まれて嘲られて見下されていい気がするか?って考えりゃ分かんだろ。

阿久津安斗仁王あんとにおと女房とは、考えが合わなかった。根本的に合ってなかった。妥協で結婚しただけで、本質的には合わねえ相手だったんだよ。それでも、お互いに相手を敬って気遣うことができてりゃ決定的に拗れることもなかっただろう。なのに阿久津安斗仁王あんとにおは、女房を蔑み嘲り見下してた。

<俺が養ってやらなきゃなにもできねえ無能なバカ女>

ってな。有能とは言えなかったのは事実かもしれねえが、だからって実際にゆかりを育てたのは女房だ。阿久津安斗仁王あんとにおは何もしちゃいねえ。おむつの一つも替えちゃいなかったし、ミルクだってやっちゃいねえ。ゆかりは女房が育てたんだ。それができる時点でホントに無能ってわけじゃなかったはずだ。

『子育ての方が楽だ、簡単だ』

ってえんなら、なんで阿久津安斗仁王あんとにおはそれをやろうとしなかった? おむつの替え方を知ってたか? ミルクの作り方を知ったか? 風呂の入れ方を知ってたか? 離乳食の作り方を知ってたか? 楽で簡単なら分かるはずだろ? でもあいつは何も知らなかった。おむつの替え方もミルクの作り方も風呂の入れ方も離乳食の作り方も。何も知らねえでなんで『楽だ、簡単だ』って言えんだよ。知らねえでなんで比較できんだよ。

そんな奴だった。そのクセ、女房を蔑んで嘲って見下してたんだからな。そんな奴が好かれるわけねえだろ。自分はそんな奴、好きになれんのかよ? なれねえだろうが。

まあ、好きになる必要はねえにしても、取り敢えず社交辞令で相手する程度なら我慢もできる相手でいる必要はあったよな。でもそれすらできない相手だったから、女房は我慢の限界を超えちまった。

女房にばかり一方的に我慢を強いた結果だ。自分が招いた結果だ。

そうなっちまうともう、顔を見るのも嫌になる。人間関係としては破綻しちまった。

取り敢えずそうならないようにするのが大事だよな。

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