212 / 398
暮らしの章
代書屋
しおりを挟む
その<屋台>に、俺は見覚えがあった。以前暮らしてた村でも見かけたものだ。
「やっぱり…!」
思った通りに代書屋だった。代書屋は、屋台を引っ張って表れて、その屋台で代書作業(まあほとんどは代筆だが)を請け負うんだ。しかもその代書屋は、
「エリク!」
俺の見知った代書屋だった。髭面のオッサンで、確か俺よりは五つ年上だったはず。屋台そのものが見覚えあるものだったからまさかと思ったが。
「トニー! お前か!? まさか生きてたのか!?」
俺がエリクと呼んだその代書屋は、俺以上に驚いていた。
「ああ、この通りピンピンしてるぜ!」
と返す俺に、
「悪いな、今は見ての通り仕事中なんだ。お前も仕事なんだろ? 俺は今日はここに泊っていくからな。後で顔を出してくれよ」
とのことだったから、
「ああ、そうさせてもらう」
俺も注文の品を届けに向かうことにして、そちらを先に済ませた。
そうして仕事を終えてエリクの屋台が置かれていた広場に戻ると、屋台の前でキセルを燻らせてる姿が。
「よう! 仕事は終わったか?」
俺の姿に気付いたエリクはキセルを逆さまにしてポンと手に叩きつけて灰を捨て、片付け始めた。前世じゃタバコの灰を落とすのも眉を顰められる行為だったが、この世界じゃまだそういうのは関係ないからな。
「ああ、おかげさまでな。しかしまた会えるとは思ってなかったよ」
懐かしい顔を見られて自分でも分かるくらいテンションが上がってる俺に、エリクも、
「俺の方こそ、最初は幽霊かと思ったぜ! お前の村の連中、どこにもいねえからよ」
と返してくる。それに対して俺は、
「そりゃそうだろうな。たぶん、ほとんど全員死んでる」
と応えた。するとエリクも、
「やっぱりか……隣村で、この村がどうやら大変なことになってるらしいと聞いてしばらく来るのを避けてたんだがそれと関係ある感じか?」
察したように聞いてくる。だから俺は、俺が知る限りのことを話した。
「戦闘を避けようとして俺達の村は全員で避難してな。村の奴の親族がいるってんでここに逃げ込んだんだが、そこでまた内紛があったみたいで、殺し合いになって、ほとんど全員死んだようだ。俺もその騒動の後で様子を見に来たんだが、そん時に、俺の親父が死んでたのも見たよ」
「そっか……そりゃ残念だったな……」
「まあな……でも俺は元の村から逃げる途中ではぐれて、それで山ん中に空き家を見付けてそっちに住み着いたおかげで難を逃れたわけだ」
「悪運の強い奴だ」
「確かに。で、元の村が滅んで、そこに今の村の連中が入ってきて居ついたってことだな」
「なるほどな」
「やっぱり…!」
思った通りに代書屋だった。代書屋は、屋台を引っ張って表れて、その屋台で代書作業(まあほとんどは代筆だが)を請け負うんだ。しかもその代書屋は、
「エリク!」
俺の見知った代書屋だった。髭面のオッサンで、確か俺よりは五つ年上だったはず。屋台そのものが見覚えあるものだったからまさかと思ったが。
「トニー! お前か!? まさか生きてたのか!?」
俺がエリクと呼んだその代書屋は、俺以上に驚いていた。
「ああ、この通りピンピンしてるぜ!」
と返す俺に、
「悪いな、今は見ての通り仕事中なんだ。お前も仕事なんだろ? 俺は今日はここに泊っていくからな。後で顔を出してくれよ」
とのことだったから、
「ああ、そうさせてもらう」
俺も注文の品を届けに向かうことにして、そちらを先に済ませた。
そうして仕事を終えてエリクの屋台が置かれていた広場に戻ると、屋台の前でキセルを燻らせてる姿が。
「よう! 仕事は終わったか?」
俺の姿に気付いたエリクはキセルを逆さまにしてポンと手に叩きつけて灰を捨て、片付け始めた。前世じゃタバコの灰を落とすのも眉を顰められる行為だったが、この世界じゃまだそういうのは関係ないからな。
「ああ、おかげさまでな。しかしまた会えるとは思ってなかったよ」
懐かしい顔を見られて自分でも分かるくらいテンションが上がってる俺に、エリクも、
「俺の方こそ、最初は幽霊かと思ったぜ! お前の村の連中、どこにもいねえからよ」
と返してくる。それに対して俺は、
「そりゃそうだろうな。たぶん、ほとんど全員死んでる」
と応えた。するとエリクも、
「やっぱりか……隣村で、この村がどうやら大変なことになってるらしいと聞いてしばらく来るのを避けてたんだがそれと関係ある感じか?」
察したように聞いてくる。だから俺は、俺が知る限りのことを話した。
「戦闘を避けようとして俺達の村は全員で避難してな。村の奴の親族がいるってんでここに逃げ込んだんだが、そこでまた内紛があったみたいで、殺し合いになって、ほとんど全員死んだようだ。俺もその騒動の後で様子を見に来たんだが、そん時に、俺の親父が死んでたのも見たよ」
「そっか……そりゃ残念だったな……」
「まあな……でも俺は元の村から逃げる途中ではぐれて、それで山ん中に空き家を見付けてそっちに住み着いたおかげで難を逃れたわけだ」
「悪運の強い奴だ」
「確かに。で、元の村が滅んで、そこに今の村の連中が入ってきて居ついたってことだな」
「なるほどな」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました
竹桜
ファンタジー
自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。
転生後の生活は順調そのものだった。
だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。
その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。
これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる