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暮らしの章

トニーさんの子供じゃありませんよね?

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『村で、子供が畑仕事をしてる時に死んだんだ……俺はその子の具合が悪いのに気付いてたのに、助けてやれなかった……それが悔しくてよ……』

俺のその言葉に、リーネは、

「トニーさんは何も悪くありません。だってその子は、トニーさんの子供じゃありませんよね? その子を守れるのはその子の親だったんです。でも、その子の親が守らなかったんなら、それはその子の親の責任です。トニーさんの責任じゃないんです……」

トーイを抱きしめながら言ってくれた。それが答えだった。

そうだ。俺はそういう考えでやってきたはずだ。小賢しい理屈で守れるのは自分自身と自分の家族だけだ。俺の考えは他人にまでは届かない。他人の考え方や生き方を変えられるわけじゃない。俺が見付けた<答>は俺自身だけのもんだ。

確か、歴史に名を遺した偉い坊さんだって言ってたそうじゃねえか。

『我の信仰は、我のみを救った。しかし我が弟子さえ救えなかった』

ってよ。その坊さんは、自分が信じた<仏の教え>ってので一切衆生を救おうとあれこれやって、でもそれは自分の思った通りには行かなくて、自分が一番信頼してた弟子でさえ、自分とは違う解釈で<仏の教え>ってのを理解してて、そのことに絶望してそんなことを言ったらしいな。

ははは……歴史に名前を残すようなお偉い坊さんですらそれだぜ? その坊さんが理解したことを、信徒どころか弟子にさえ完全な形で伝えることはできなかったんだ。自分の考えてることを百パーセント他人に理解させることなんてできはしないっていう何よりの証拠じゃねえか。

ものすごく立派で賢い人格者だった王が治めてた国が、次の代、そのまた次の代には見る影もなく廃れていったってこともあったんじゃなかったか? 歴史を振り返れば<答>はいくらでも転がってる。

手を広げすぎたら必ず零れ落ちるものが出るし、自分と自分以外の人間は<別の存在>なんだ。自分と同じだと考えるから、自分の考えがすべて理解されると考えるから齟齬が出る。自分の考えが伝わってないと感じてフォローができるのはほんの数人までだろ? しかも自分がいなくなってから相手がどう変わっていくかまではどうにかできるわけじゃない。

ましてや、偉い坊さんでもない、賢い王様でもない俺が、他所の家庭まで、他所の家庭の子供まで救えるわけねえじゃねえか。

でも、少なくともリーネは、俺の思い上がりに釘を刺してくれる程度には、俺の考えを理解してくれてた。

それで十分じゃねえか。俺は<賢者>でも<救世主>でもねえんだよ。

俺の目の前にいるリーネとトーイの親ってだけなんだ……!

守るべきは他所の子供じゃない。俺の子供なんだ。

それを忘れるな……!

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