上 下
186 / 398
暮らしの章

避難場所くらいには

しおりを挟む
そうして外が暗くなり始めた頃、俺も、新しい部屋の床を半分ほど張って、そこで今日のところは終わりにしておいた。地面に、風呂を作るために穴を掘った時に大量に出てきた石の残りを敷いて、そこに横木を渡して、さらにその上から板を打ち付けていくって形でな。なるべくがたつかないように石の向きを調節したり軽く地面を掘って石を埋めて高さを合わせたりしたことで、少々時間が掛かってしまったが。

でも、そのおかげで、取り敢えずさらに部屋っぽくはなったな。

後は椅子でも置いとけば、俺が鍛冶の仕事をしてる間の避難場所くらいにはなるだろう。

まだ少し雨漏りはしてるが。

で、鍛冶屋としての作業場がある<母屋>に戻ると、

「お疲れ様です♡」

リーネが笑顔で迎えてくれて、テーブルの上には、パンと具だくさんの肉スープが並べられていた。

『ああ、これがあたたかい家庭ってやつだよな……』

改めてそう思う。前世の俺にはほとんど縁がなかったものだ。女房も最初の内は、リサもやっぱり最初の内は、一応は用意もしてくれてたが、そこに笑顔があったのは本当に最初だけだったよ。

俺がいちいち食事にケチをつけたりしてたから、すぐに笑顔も消え失せ、しまいにはそれこそレトルトのおかずを温めただけみたいな食事になってたな。

しかも俺はそれにさえ文句をつけてて。

今、リーネが頑張って作ってくれたものにケチをつけたいと思うか? 別に完璧でなくても十分に美味いしリーネが俺のために作ってこれたもんだぞ? 感謝こそすれケチをつける理由なんてないだろ。

本当は、女房の時やリサの時もそうだったはずなんだよな。最初は俺のためにちゃんと作ってくれてた。決して食えないようなひどいものじゃなかった。なのに俺は感謝もせず労いもせず、味が濃いだの薄いだのいちいちケチをつけるばっかりで……そうするのが当たり前だと思ってた。

自分以外の誰かが自分のためにしてくれることに、何一つ『当たり前』なんてものはないはずなのにな。

俺だって、仕事して金稼ぐことを『当たり前だろ!』とか偉そうに言われたらムカついてたじゃねえか。それと同じだってなんで分からない?

はあ~、もう、凹むぜ……

だが、過去を悔やんでるだけじゃなんにも始まらん。過去には戻れないんだ。前世の人生そのものをやり直すことはできない。俺が経験したのは<タイムリープ>じゃない。完全な別人に生まれ変わる<転生>だ。

だからこそ、今の人生を悔いなく生きなきゃな。

「リーネ、トーイ。本当にありがとう……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...