上 下
185 / 398
暮らしの章

母親代わり

しおりを挟む
雨で他にできることもなかった今日、リーネは、パンを焼き、いつも以上に手の込んだスープを作り、スープを煮込んでるうちに服を繕ったりしてくれてた。トーイも、できることは手伝ってくれる。

野菜を洗ったり、リーネが繕い物をしてる間、スープが煮詰まったりしないように見張っててくれたそうだ。

リーネのためだからそこまでしてくれる。トーイは、リーネのことを信頼してるんだ。たぶん、母親代わりってことだろう。実際、母親みたいに接してるしな。

それが大きくなってきたらどう影響するかは、俺にも分からん。俺としてはリーネの相手にはどこの馬とも知れない奴よりも、俺の下で育ってリーネのことを大切にしてくれるのに育ったトーイと結ばれてほしいと思うんだけどな。血の繋がった姉弟でそれはマズいが、現に血は繋がってないし。

ただ、俺の思うようにトーイが育ってくれるとは限らないのも事実。

でもな。前世のことがあるからこそ、今世では大丈夫だっていう予感はある。前世の俺の失敗をしっかりとわきまえてれば、少なくとも同じにはならないっていうな。

俺自身が、

<俺から見て信頼できない奴>

にならないようにすればいいって分かるんだよ。前世の俺は、俺自身から見てさえ欠片も信頼できない人間だった。どこまでも、

『自分だけが優先されて優遇されるのが当たり前。そういう社会がいい社会』

って思ってたしな。そんな社会は有り得ないことさえ理解できない奴だったんだ。

そんな奴のどこを信頼すればいいんだ? 自分だけが正しくて間違ってるのはいつだって自分以外の奴と思ってるような人間だぞ? そんな奴が信頼されるとか、子供の寝言よりひでえってもんだ。

しかもそういう奴は自分が正しいと思ってるから他人の意見になんざ耳を傾けないし、自分を批判してくる奴はバカだと思ってる。

なあ? 周りにそんな奴いなかったか? そんな奴のこと、信頼したり尊敬できたりしたか? できなかったんならそれが答えだ。そして自分がそうなってしまってないか、自分を客観視できない奴が陥る落とし穴だ。

自分の所為で周囲からの信頼を失ってるのに反省しないから改まることもなく、改まらないから信頼が回復することもない。

なんでその程度のことも分からなかったのか、自分でも本気で情けなくなる。

そんな親を見て育った子供が親と同じようになるのがそんなに不思議か? 親がやってることだからそういうものだと思ってしまうのがそんなに不思議か? 

なら、俺が<他者を敬う姿勢>ってのを実際にやってみせていれば、リーネやトーイが真似てくれるってのが、そんなに有り得ないことか?

自分が嫌な思いをせずにすむやり方を親がやってくれてるってのに、それを真似ないって、当たり前のことなのか?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...