前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
175 / 398
暮らしの章

<稼ぎ>がなけりゃ

しおりを挟む
俺が受け取った野菜のカゴを荷車の上で傾けて野菜を移し替えようとしてると、

「ああ、いや、カゴごと持ってってくれたらいい。その代わり、そこの調理ナイフも一本、貰えないか? 今あるヤツがもう古くて」

と若い男が言ってきたから、

「ああ、もちろん。古いナイフをもらえたら助かる」

野菜の詰まったカゴを置き、包丁(調理ナイフ)を手渡しながら言う。すると、

「あんた、うちにもナイフをおくれ!」

声を掛けられて振り向いたら、いかにも恰幅のいい<オバサン>が、持ち手の部分からすると明らかにアンバランスな小さな刃のナイフを持って立っていた。

俺が若い男とやり取りしてるのを見て、ナイフとかを売りに来たんだと察したんだろう。

「はいはい、どうぞ」

古いナイフを受け取りつつ、俺は新しい調理ナイフを手渡した。もちろん、持ち手を相手に向けてな。

「あたしが旦那と一緒んなったときに用意したナイフなんだけどさ、さすがにもう使い難くてね」

「それはそれは。大事に使われたんですね。このナイフもさぞかし本望でしょう」

切れ味が悪くなったら自分で研いで、研いで、研いで、二十年三十年と使ってきたんだろうな。正直、これじゃ渡したナイフと釣り合わねえが、それについては、

「これも持ってっておくれ! 今度は鍋も持ってきてくれると嬉しいね」

足元に置いてあった袋に入った根菜を渡してくれた。

「まいどあり。じゃあ今度持ってきますよ」

「頼んだよ!」

言いながらオバサンは急ぎ足で、向かいの家に入っていった。料理中だったんだろうな。

で、改めて若い男の方を見ると、こちらは先の方がポッキリと欠けた包丁だった。なるほどこれは使い勝手も悪いだろう。

「まいどあり」



こうして思った以上の売り上げがあったことで、俺はそれ以上は長居することなく、村を後にした。あんまり一度に野菜とかをもらっても、腐らせちまうからな。

で、家に戻ると、

「おかえりなさい、トニーさん!」

「……」

リーネとトーイが俺を出迎えてくれた。それがまたホッとする。こんな風に笑顔で、トーイはそこまでじゃないが…出迎えてくれたら、気分いいよな。

そして、<稼ぎ>としての野菜を荷車から下ろすと、

「すごい! 今夜はごちそうですね!」

「わあ……!」

今度はトーイも驚いたような表情をして、感心してくれた。もしかしたら俺のやってることが<仕事>なんだとようやく実感してくれたのかもしれない。<稼ぎ>がなけりゃ、それは<趣味>と同じだもんな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

カードで戦うダンジョン配信者、社長令嬢と出会う。〜どんなダンジョンでもクリアする天才配信者の無双ストーリー〜

ニゲル
ファンタジー
ダンジョン配信×変身ヒーロー×学園ラブコメで送る物語! 低身長であることにコンプレックスを抱える少年寄元生人はヒーローに憧れていた。 ダンジョン配信というコンテンツで活躍しながら人気を得て、みんなのヒーローになるべく日々配信をする。 そんな中でダンジョンオブザーバー、通称DOという正義の組織に所属してダンジョンから現れる異形の怪物サタンを倒すことを任せられる。 そこで社長令嬢である峰山寧々と出会い、共に学園に通いたくさんの時間を共にしていくこととなる。 数多の欲望が渦巻きその中でヒーローなるべく、主人公生人の戦いは幕を開け始める……!!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ
恋愛
毒親に愛されなくても、幸せになります! 「わたしの家はね、兄上を中心に回っているんだ。ああ、いや。正確に言うと、兄上を中心にしたい母が回している、という感じかな?」 虚弱な兄上と健康なわたし。 明確になにが、誰が悪かったからこうなったというワケでもないと思うけど……様々な要因が積み重なって行った結果、気付けば我が家でのわたしの優先順位というのは、そこそこ低かった。 そんなある日、家族で出掛けたピクニックで忘れられたわたしは置き去りにされてしまう。 そして留学という体で隣国の親戚に預けられたわたしに、なんやかんや紆余曲折あって、勘違いされていた大切な女の子と幸せになるまでの話。 『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』の婚約者サイドの話。彼の家庭環境の問題で、『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』よりもシリアス多め。一応そっちを読んでなくても大丈夫にする予定です。 設定はふわっと。 ※兄弟格差、毒親など、人に拠っては地雷有り。 ※ほのぼのは6話目から。シリアスはちょっと……という方は、6話目から読むのもあり。 ※勘違いとラブコメは後からやって来る。 ※タイトルは変更するかもしれません。 表紙はキャラメーカーで作成。

処理中です...