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トーイの章

神様お願いです…

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「すまねえ、トーイ……俺の所為だ。だから今は俺を恨め。恨んでそれで自分の気持ちを支えたらいい……」

熱が出たことで赤い顔をしてベッドに横たわるトーイに、俺はそう囁きかけた。もう、そうとしか言いようがない。傷そのものは命に係わるほどのものじゃないかもしれないが、熱が高い。解熱剤もない状態じゃ、この熱で命を落とす可能性だって十分にある。食欲もないようで、スープを与えたが二口しか飲んでくれなかった。

「神様お願いです…トーイを助けて……!」

リーネが傍らでそう祈る。俺自身は、<神>なんてロクでもないものに祈りたいとは思わないものの、それでも祈りたくなる気持ちはあった。

自分にできることなんて、こうやって傍に寄り添うしかないからな。

なのに、前世では、ゆかりに対してこうやって寄り添ってやった覚えがない。風邪を引いたりして熱を出したことは何度かあったはずだが、いつも女房に丸投げだった。

あの頃はまだ女房は専業主婦だったこともあって、女房がするべきことだと俺は思ってた。

だが、女房が専業主婦とか、俺は外で仕事しているとか、そんなこと関係ないだろ? 自分の子供が熱を出して寝込んでるんだぞ? それが何で心配にならない? 傍で様子を見ていてやりたいと思えない? 愛していたら心配じゃないのか? 自分は<愛>って言葉を盾にして女房にあれこれやらせたってのに、娘に対しては何もしてやらなかったって、なんだそりゃ?

『愛してるならこれくらいできるだろ?』

とか、女房やリサに言ったよな? だったら熱を出したゆかりの世話をするくらい、俺にだってできたはずだよな?

『愛している』なら。

それをしなかった。やろうとも考えなかった。ということは、もう、

『自分の子供を愛してなかった』

っていう何よりの証拠じゃねえか。ああもう、バカすぎる……! バカすぎて呆れるしかできねえ……!

でも今は、こうしてトーイの傍に寄り添っていてやりてえ。仕事も大事だが、それはあくまで、リーネやトーイと一緒に生きていくためには仕事が必要だからってだけだ。仕事のためにリーネやトーイがいるんじゃねえ。二人のために仕事をするんだ。その順序を間違えるな……!

そんなことも考えつつ、

「リーネもそろそろ寝ろ」

俺と一緒にトーイに寄り添っていたリーネに声を掛ける。

「でも……私も……!」

と言う彼女に、

「俺が寝てる時にリーネにはトーイの様子を見ててもらわなきゃいけないから、今は寝てもらわなきゃ困るんだ。分かってくれ……!」

と告げたのだった。

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