前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十

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トーイの章

文明病の一種

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こうして風呂を沸かして、また三人で入る。連日の風呂に俺もすごく気分がいい。あの<悪夢>もこれで少しは和らぐかな。

リーネは頬をほんのりと桜色に染めてうっとりとした様子で浸かり、リーネの膝に抱かれた形で浸かってるトーイも、気分は良さそうだ。こうやってあたたかい湯に浸かってリラックスするという経験はこれまでほとんどなかっただろう。暑い間は濡らした布で体を拭くか、精々、タライに汲んだ水や川とかで水浴びするのが精一杯な上に、寒い時期はそれこそ体を拭くのさえ三日に一度とかになるからな。

いやはや、<潔癖症>の人間にはそれこそ地獄だろ。この世界は。だから<潔癖症>ってもの自体がいわば<文明病の一種>なのかもなと思ってしまう。その辺は俺は専門家じゃないから何とも言えないが、印象としてはそう感じるんだよ。

とは言え、こうやって風呂に浸かるのも、文明様様だけどな。もしかしたらトーイも割と早く打ち解けてくれるかもしれない。こうやってリーネに抱かれて風呂に入ってリラックスできりゃな。

思いがけず連日風呂に入れたが、この先も同じようには行かないだろう。ただ、雨が降ったおかげでタライに水も溜められたし、明日は水汲みしなくても風呂の水を用意できるかもしれない。そうすりゃ明日も風呂だ。

作るのは大変だったが、作ってみりゃこれだもんな。頑張った甲斐があったぜ!



風呂で身も心もさっぱりして、作ったばかりのサンダルを履いて家に戻って服を着ると、夕食の用意だ。下準備は終わってるから、後は少し煮込んで味を調えるだけだった。

それを、リーネが手際よくこなしてくれる。トーイも、食器の用意を手伝ってくれる。もちろん俺も手伝う。

こうして家族でやるってのが楽しいんだよ。気分がいいんだ。前世では決して味わうことのなかった感覚。こんなことが楽しいなんて、想像もしなかった。

だからこそ悔しい。前世の自分の愚かさが。ただ同時に、その失敗があればこそ今はこうしていられるというのもあるんだろうなと思う。だから前世をただ馬鹿にしてるだけというのも違うのかもしれない。なにしろ他ならぬ自分自身だったわけで。

そして三人で夕食の用意をして、一緒に食べる。

「感謝を」

「感謝を」

「かんしゃを……」

俺とリーネの挨拶に、トーイも合わせてくれた。

「偉いぞ、トーイ」

俺は自然と笑顔になってそう言えた。褒めるだけじゃ駄目なのかもしれないが、ちゃんとやれた時には褒めなきゃおかしいと思ったんだ。

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