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トーイの章

てめえの体裁を保ったことに対する必要な対価

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「どうだ。見せてみろ」

俺は手を止めて、トーイの火傷の具合を確認する。が、どこに当たったのかも分からねえくらいだったけどな。

「痛いか?」

俺がなるべく穏やかな感じで問い掛けると、

「……ちょっと痛い……」

トーイが応えてくれた。

「……! そうか。痛かったらちゃんと言えよ。別に怒ったりしねえから」

応えてくれたトーイに、俺はなんだか嬉しくなって笑顔で頭をそっと撫でていた。

そうだ。痛みや苦しみの類は、無理に我慢せず口にしてくれた方がいい。こういう世界じゃそれこそ病気をしたら命にも関わる。怪我だって、早いうちに対処した方がいい。無理に我慢して手に負えなくなってから分かったんじゃ、目も当てられねえ。

『我慢強いことを称賛する』

なんてのは、自分の手間を省きてえ奴の戯言だろ。我慢するほかに対処しようがねえ時にはそうするしかないとしても、苦痛ってのは、

<問題の兆候>

なんだ。それを無視することは美徳じゃねえ。そういうのは<愚昧>ってんだよ。

問題の兆候を捉え、先手先手で対処していくことが本当は必要なんだ。<我慢>ってのは、時に、重要な情報を過小評価し見落とすこともある。問題を的確に評価し、我慢する以外に対処の方法がねえ時には我慢すりゃいいんだ。

今ならそれが分かる。

今回だって、火傷の状態がそれこそ見ても分からない程度で、それでも『ちょっと痛い』なら、それについては我慢してもらうしかねえ。

そういうことだ。

ただし、痛みが続くようなら何か別の問題の可能性もあるからな。それを見落とさないように、

『痛かったらちゃんと言えよ。別に怒ったりしねえから』

と告げておくんだ。必要な対応についてはあらかじめ提示しておく。仕事でも当たり前だろ? そんなこと。なのになんで<育児>ってことになると途端に手ぇ抜きやがんだろな。

あとよ、

『自分の方が大変な思いしてる!』

とか言う奴がいるけどよ。それを口にすること自体は情報提供って意味じゃ必要なんだけどよ。

『自分の子供の面倒を見る』

ってのがそんなに大変なことか? そう思うならなんで子供なんて作った? てめえの体裁のためか? なら、子供の面倒を見るっていう手間を掛けるのは、

<てめえの体裁を保ったことに対する必要な対価>

だ。対価は払え。仕事なら必要な手間を掛けるだろうが。育児も同じだ。

女房に十月十日、胎ん中でてめえの子を育てってもらった上に命張って産んでもらったんだ。その分の対価だと思えば安いもんだろう?

と前世の俺に言ったところで、まあ、納得なんてしねえだろうけどな。

今の俺にはすげえ納得できるんだけどなあ。

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