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トーイの章

便利な生活

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ところで、俺がウサギやネズミの皮を樹皮鞣しして作った革だが、うん、麓の村から回収してきた服とかの中に職人が作ったであろう皮手袋があったから、それを使うことにした。だから、たぶん、非常用に回ることになると思う。今あるヤツがダメになって新しいのが手に入らなかったら仕方なく使う感じで。

もちろん、これからも一応、樹皮鞣しの形で作っていこうとは思ってる。せっかくの命を無駄にしたくないしな。とは言え、便利なものがあるとやっぱりそっちを優先するようなあ。とも実感する。

俺も仕方なく今の生活に馴染んじゃいるが、便利な前世の暮らしが恋しい気持ちはある。どんだけ恵まれた暮らしだったか、今になって思い知らされる。

が、ないものはないんだからそれに合わせていくしかないってのも事実だよな。

なにより、

「お洗濯終わりました…!」

「……」

リーネとトーイが洗濯を終えて家に入ってきた時の二人の姿を見ると、

『前世は便利な生活はできてた代わりにこれがなかったんだよな……』

とも思ってしまう。そうだ。俺としては、便利な生活以上にリーネとトーイがいてくれるのが嬉しいんだ。

トーイはまだ俺に対してまったく気を許してないが、リーネの手伝いをしようとしてくれるだけでもうすべてが許せる。この辺りは、やっぱりここの世界に生まれ付いた子供なんだなって思う。母親にだか父親にだかあるいはその両方にだか、すでにこき使われてた可能性はあるな。

それがここの<常識>なんだから別に責めるつもりもないものの、やっぱり、子供から憎まれる人生って嬉しいか?とは思うんだよ。俺は、前世で、別に子供をこき使う必要もないような生活を送っていたにも拘わらず実の娘にゴミを見るような目を向けられる親だったわけで、そんな目を向けてくる娘にムカつく以上に自分が情けないんだよ。そんな目を向けられるような振る舞いをしてた自分を、

<立派な人間>

だと思ってた間抜けぶりが本気で嫌になる。

正直、俺程度の仕事ができる奴なんて世の中にはそれこそいくらでもいただろう。最終的に年一千万を超える収入があったと言っても、上には上がいくらでもいたんだ。なのに俺は自分よりも下の連中を見下してそれで安心してた。自分はそいつらよりは立派な人間だと思って優越感に浸ってた。

それが、最後には家族にも看取ってもらえず施設で一人死んでいったんだぞ? 立派な人間の最後としてそれは好ましいものか? 本当に立派な人間だったらなんで俺のそんな晩節を労わってくれるのがいなかったんだ?

施設の職員をいびり倒すことで憂さを晴らす老後とか、何なんだ?

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