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トーイの章

俺が決めたりもしねえ

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『役立たずは死ねばいい』

そう考えるなら、今回連れてきた男の子なんて、それこそ、

<死ねばいい役立たず>

だろう。助けてもらっておいて礼も言わず、こうして俺が荷物を降ろしていても手伝いもしない。

『そんな奴を助ける必要なんてあったのか?』

と考える奴は、前世の世界にいただろうな。いや、何より俺自身がまずそう思っていたに違いない。

でも今はもう、そうは思わない。三歳くらいの男の子が突然母親を亡くし、しかもその母親が目の前で死んでいくのを目の当たりにして、すぐに気持ちを切り替えて助けてもらったことに礼を口にして雑事を手伝うなんて、そんな気持ち悪い子供がいるか?

三歳くらいでだぞ? 利口だとか躾ができてるだとか通り越して、気持ち悪いわ。そんな子供。大人の妄想の中にしかいないだろ。

だからこの男の子が礼を口にしないのも俺を手伝おうともしないのも、別にどうでもいい。

何より、今の俺は、家族であるリーネの命の値打ちを、見ず知らずの赤の他人に決めてほしくないと思ってる。

数えで十三。満年齢でおそらく十二くらいの彼女だが、発育が遅れているのかまだ十歳にも満たない程度にしか見えない。こうして発育が遅れているということは、子供が産めない体の可能性だって高いだろう。そして今のこの世界では、子供が産めない女なんてそれこそ生きてる価値もないと思われてるくらいだ。

でもな、そんな理由で、リーネの、<俺の娘>の命の価値を決められてたまるか!! そんな理由でリーネを殺そうとするような奴がいたら、俺がそいつをぶっ殺してやる!!

こっちからは手出ししないが、こっちを害そうとするような奴には容赦はしない。

その程度の気概もなければ生きていけない世界でもある。

ただ、だからこそ俺も、余所の家庭の家族の命の価値を勝手に決めるのはおかしいと思うんだ。

まさに今俺の傍にいる男の子の命のことだ。

自分の家族の命の価値を赤の他人に勝手に決められたくないのなら、自分も赤の他人の家族の命の価値を決めていいわけがないだろうが。その程度のことすら想像できない残念な頭の奴が、<命の価値>なんてものを語る。

それこそ、前世の俺自身のような奴がな。

でも、今はリーネの命の価値を赤の他人になんて決められたくねえ。だから、男の子の命の価値も俺が決めたりもしねえ。それだけの話だ。

俺とリーネとこの男の子のうちの二人しか生き延びられないとなったら、俺は迷わず俺自身とリーネの命を選ぶ。

だけど今は少なくともそこまで追い詰められちゃいねえしよ。

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