104 / 398
トーイの章
死者を悼む
しおりを挟む
体を洗ってやった男の子に、すでに見付けてあった布を掛けてリーネに任せ、俺は、男の子が埋もれていた家の瓦礫をさらにどけて、鍋二つと何着かの服とを引っ張り出してきた。
それを、古びた荷車に積み込んでいく。それからようやく、
「リーネ、その子を連れてきてやってくれ……」
沈んだ表情で男の子と一緒に待っていた彼女に声を掛けて、男の子の母親の近くまで行き、
「母親が、迷わず天国に行けるように祈ってやれ……」
そう声を掛けて、三人で祈った。
こんな世界にも、<天国>という意味の単語はあった。前世で聞いた<天国>っていう意味の単語とは少々違っていたが、まあ、方言とかそういう感じなんだろう。
そして祈りを終えて、
「さっきは怒鳴って済まなかったな……でも、仕方ないんだ……今はな……」
俺は、男の子の方は見ないまま。母親の体に布を掛けて、その上でまた、祈った。
こうやって死者を悼むことも、たぶん、合理的な意味はないと思う。だが、同時に、悼むことで自分の中で区切りが付けられることもあるというのは、学んだ。
そのくせ、日用品を得るために<火事場泥棒>をしているんだからとんでもない欺瞞だと言えばその通りだと俺も思う。言い訳のしようもない。
だが、これ自体がこの世界の<常識>なんだ。自分達が住んでるのとは別の村が戦場になったと聞けば、それこそ村人総出で火事場泥棒に向かうなんてことも珍しくもない。俺も、それに付き合わされたこともある。
<平和で便利な世界>
とは、根本的に違うんだよ。
ただ今回は、この辺りの集落の連中が避難民として集まってた集落が襲われたようで、俺達以外には誰もいなかった。
そして。
『結局、殺しそびれたな……』
俺の両親の死体も、見付けてしまった……
愛情なんて欠片も感じねえ、憎いだけの両親だったが、こうやって死んじまったら、なんか虚しさしか感じないな。こんな死に方をするために生まれてきたのか? こいつらは……
墓を作るでもなくそのまま放置だが、一応は、祈りだけは捧げてやった。そんな俺の真似をして、リーネも祈りを捧げてくれた。
『これでも、家族の誰にも看取ってもらえなかった前世の俺に比べれば、マシかもしれねえからよ』
口には出さないが、心の中でそう告げて、その場を後にする。
そして、さらに、
「……」
リーネが見詰めていた先に、中年の男女の死体。
「もしかして、叔父さんと叔母さんか……?」
「……うん……」
「そうか……」
まさか、リーネの村の連中も合流してたのかよ。だったら、もし、こんなことになってなければ、リーネが知ってた料理のレシピが、伝わってたかもしれねえのにな……
それを、古びた荷車に積み込んでいく。それからようやく、
「リーネ、その子を連れてきてやってくれ……」
沈んだ表情で男の子と一緒に待っていた彼女に声を掛けて、男の子の母親の近くまで行き、
「母親が、迷わず天国に行けるように祈ってやれ……」
そう声を掛けて、三人で祈った。
こんな世界にも、<天国>という意味の単語はあった。前世で聞いた<天国>っていう意味の単語とは少々違っていたが、まあ、方言とかそういう感じなんだろう。
そして祈りを終えて、
「さっきは怒鳴って済まなかったな……でも、仕方ないんだ……今はな……」
俺は、男の子の方は見ないまま。母親の体に布を掛けて、その上でまた、祈った。
こうやって死者を悼むことも、たぶん、合理的な意味はないと思う。だが、同時に、悼むことで自分の中で区切りが付けられることもあるというのは、学んだ。
そのくせ、日用品を得るために<火事場泥棒>をしているんだからとんでもない欺瞞だと言えばその通りだと俺も思う。言い訳のしようもない。
だが、これ自体がこの世界の<常識>なんだ。自分達が住んでるのとは別の村が戦場になったと聞けば、それこそ村人総出で火事場泥棒に向かうなんてことも珍しくもない。俺も、それに付き合わされたこともある。
<平和で便利な世界>
とは、根本的に違うんだよ。
ただ今回は、この辺りの集落の連中が避難民として集まってた集落が襲われたようで、俺達以外には誰もいなかった。
そして。
『結局、殺しそびれたな……』
俺の両親の死体も、見付けてしまった……
愛情なんて欠片も感じねえ、憎いだけの両親だったが、こうやって死んじまったら、なんか虚しさしか感じないな。こんな死に方をするために生まれてきたのか? こいつらは……
墓を作るでもなくそのまま放置だが、一応は、祈りだけは捧げてやった。そんな俺の真似をして、リーネも祈りを捧げてくれた。
『これでも、家族の誰にも看取ってもらえなかった前世の俺に比べれば、マシかもしれねえからよ』
口には出さないが、心の中でそう告げて、その場を後にする。
そして、さらに、
「……」
リーネが見詰めていた先に、中年の男女の死体。
「もしかして、叔父さんと叔母さんか……?」
「……うん……」
「そうか……」
まさか、リーネの村の連中も合流してたのかよ。だったら、もし、こんなことになってなければ、リーネが知ってた料理のレシピが、伝わってたかもしれねえのにな……
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。
10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。
その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。
それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー?
【作者よりみなさまへ】
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる