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トーイの章
自分が大事
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俺は、戦争の気配を感じ、急いで家に戻った。もしかするとこっちにまで来る可能性もある。わざわざこんな家一軒までどうこうしには来ないだろうが、軍隊が山を越えるためにこの前を通る可能性もあると考えたんだ。
加えて、軍隊はこなくても、麓の集落の連中が避難民として逃げてきて、やっぱりこの前を通る可能性もある。むしろその方が有り得るか。
だから俺は、いざとなったらリーネと共に裏の森へと身を潜めるつもりだった。もしかしたら家のものを略奪されたりするかもしれないとも思いつつ、そんなものを守るために命を懸ける必要もない。事が済んだらまた調達すればいいんだ。
それどころか、この時、俺には、
『むしろチャンスかもしれないな……』
という思いもあった。集落の人間達が襲われている光景も思い浮かべつつ、これは、この世界じゃ当たり前の出来事の一つだ。戦争そのものが、『生きるため』じゃなく、自国民の不満を余所に向けさせたり、それこそただの鬱憤晴らしという形で起こることもある世界なんだ。
前世の世界だって、昔はそうだったはずだ。それが『なるべくそういうのは避けよう』って考えるようになっただけのはずなんだ。しかもそう考えるようになったのも、
『使う兵器の威力が大きくなりすぎて、とんでもない被害が自分達の側にも出るかもしれないから』
という、はっきり言って『自分が大事』ってだけの理由だろうしな。
で、今、こうやって戦争が当たり前の世界に生きてる以上は、俺だって、綺麗事だけでやっていくつもりは毛頭ない。自分から誰かを傷付けるつもりはないが、戦争そのものを利用するくらいは考えるさ。
そうだ。<火事場泥棒>くらいはな。
でもまあ、危険を冒してまでするつもりはないけどな。あくまで『安全に利用できるものが手に入るなら利用させてもらう』ってだけだ。
そんな俺の考えを非難するような奴も前の世界には多いだろう。けどな、そんなのは<平和で便利な世界>だから言ってられることなんだよ。
とは言え、俺も、さっきも言った通り誰かを直接傷付けるつもりはない。命のやり取りになったら容赦はしないつもりだが、こっちから仕掛けるつもりはないんだ。そんなことにリーネを巻き込みたくないからな。
「リーネ、戦争だ…! 麓の集落が戦場になってる……!」
家に戻った俺は、浴槽に汲んできた水を入れてすぐリーネにそう告げた。
「え……っ!?」
俺の言葉に彼女が息を詰まらせてみるみる青ざめていくのが分かる。
「そんな……」
と悲し気に漏らしたりもしたが、
「とにかく、こっちにとばっちりが来ないように祈りつ、身の安全だけは守ろう」
という俺の言葉には、
「…はい……!」
力強く応えてくれたのだった。
加えて、軍隊はこなくても、麓の集落の連中が避難民として逃げてきて、やっぱりこの前を通る可能性もある。むしろその方が有り得るか。
だから俺は、いざとなったらリーネと共に裏の森へと身を潜めるつもりだった。もしかしたら家のものを略奪されたりするかもしれないとも思いつつ、そんなものを守るために命を懸ける必要もない。事が済んだらまた調達すればいいんだ。
それどころか、この時、俺には、
『むしろチャンスかもしれないな……』
という思いもあった。集落の人間達が襲われている光景も思い浮かべつつ、これは、この世界じゃ当たり前の出来事の一つだ。戦争そのものが、『生きるため』じゃなく、自国民の不満を余所に向けさせたり、それこそただの鬱憤晴らしという形で起こることもある世界なんだ。
前世の世界だって、昔はそうだったはずだ。それが『なるべくそういうのは避けよう』って考えるようになっただけのはずなんだ。しかもそう考えるようになったのも、
『使う兵器の威力が大きくなりすぎて、とんでもない被害が自分達の側にも出るかもしれないから』
という、はっきり言って『自分が大事』ってだけの理由だろうしな。
で、今、こうやって戦争が当たり前の世界に生きてる以上は、俺だって、綺麗事だけでやっていくつもりは毛頭ない。自分から誰かを傷付けるつもりはないが、戦争そのものを利用するくらいは考えるさ。
そうだ。<火事場泥棒>くらいはな。
でもまあ、危険を冒してまでするつもりはないけどな。あくまで『安全に利用できるものが手に入るなら利用させてもらう』ってだけだ。
そんな俺の考えを非難するような奴も前の世界には多いだろう。けどな、そんなのは<平和で便利な世界>だから言ってられることなんだよ。
とは言え、俺も、さっきも言った通り誰かを直接傷付けるつもりはない。命のやり取りになったら容赦はしないつもりだが、こっちから仕掛けるつもりはないんだ。そんなことにリーネを巻き込みたくないからな。
「リーネ、戦争だ…! 麓の集落が戦場になってる……!」
家に戻った俺は、浴槽に汲んできた水を入れてすぐリーネにそう告げた。
「え……っ!?」
俺の言葉に彼女が息を詰まらせてみるみる青ざめていくのが分かる。
「そんな……」
と悲し気に漏らしたりもしたが、
「とにかく、こっちにとばっちりが来ないように祈りつ、身の安全だけは守ろう」
という俺の言葉には、
「…はい……!」
力強く応えてくれたのだった。
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