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トーイの章

風呂の気持ちよさを知ってほしい

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実際、自分でこうやって風呂を用意しようとすると、『風呂に入る』ってのがいかに贅沢なことなのかを実感するよ。

でも、今じゃ、俺自身が風呂に入りたいというのと同時に、リーネに風呂の気持ちよさを知ってほしいという気持ちが大きかった。

滑落して仲間から見捨てられ死んでいてもおかしくなかった俺に声を掛けてくれたリーネ。彼女もきっと怖かっただろうにな。

とは言え、実際には、彼女自身も仲間からはぐれて命の危機にあったという背景があって、それでやむにやまれず大人の俺を頼ろうとしたというのがあるんだろうけどな。

つまり、ただの<親切心>じゃなく、<打算>だったということだ。しかし、生きるっていうのはそれ自体が打算の連続だし、綺麗事だけで生きていけるとか思ってる奴は現実ってもんを知らねえだけだ。

俺自身、何でも俺の思い通りになることこそが正しいと思い込んで、俺の思い通りにならなけりゃそれは<悪>だと思ってた。だから失敗した。後悔しかない人生を送る羽目になった。

しかしこうして<二周目の人生>を送る機会を得たんだ。前世の失敗を活かさなきゃ、それこそ何のために生きてきたのか分かりゃしない。

『リーネの笑顔を守れること』

それが基準になると思う。

俺が<風呂の湯沸し用の鍋>を作ってる間に、果実や木の実を集めてくれてた彼女に、

「ありがとう」

と感謝し、労わる。すると彼女も、

「いえ! 私はこんなことしかできないですから……!」

と、恐縮しながらも笑顔を向けてくれる。

前世の俺は、相手が先にこうやって俺を労わるのが当たり前だと思ってた。俺を労わる気のない奴を労わるとか有り得ないと思ってた。

だが、俺がそう考えてるってことは、他人も同じように考えててもおかしくないということだ。前世の女房や娘は、まさにそれだった。俺が労わることもしなかったから、俺を労わるのをバカバカしいと思ったんだろうな。

女房も娘も、俺を労わろうとしてくれてた時期もあったんだ。なのに俺はそれを当たり前のことだと考えて、その程度のことで女房や娘を労わる必要なんてないと思ってた。そしたら、女房も娘も俺を労わらなくなった。

そうだよな。自分を労わってもくれない相手を労わるとか、無駄の極みに思えるよな。

せっかく女房や娘が俺を労わってくれてたのに俺は女房や娘を労わらなかったことで、労わってくれなくなっただけなんだ。

本当にバカバカしい話だ。自業自得以外のなんだっていうんだ。

だから俺は、リーネを労わる。するとリーネも俺を労わってくれる。俺の真似をすればいいだけだからな。簡単だ。

大人の俺が、手本を見せればいいんだよな。

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