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リーネの章
円滑な人間関係を
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剣先スコップの先の部分と柄をしっかりと結合させて、後は持ち手の部分を整えれば、完成だ。
「ペレスですね?」
庭の片隅に彼女が自分で作った竈で、ウサギ肉を使って料理をしてくれていたリーネが、できた料理をが入った鍋を持って戻ってきて、俺が最後の仕上げをしている剣先スコップを見てそう言った。
そうか。彼女が住んでたところでも<ペレス>と言うんだな。
本当に、言葉自体は方言程度にしか違わないことを実感する。それなのに、
「おお、いい匂いだな!」
彼女が手にしてた鍋から漂ってくる匂いに、テンションが上がってしまった。
「ウサギ肉と野草のスープです。お口に合えばいいんですが……」
匂いだけで美味いことを確信。なんでこの調理法が伝わらなかったんだ? 言葉は伝わってるのに。
文句を言っても始まらないのは分かってるものの、そう思わずにはいられない。
皿も何もないので、鍋から直接、匙ですくって食べる。
「美味い! マジで美味い!」
「よかったぁ♡」
俺の反応に、リーネが眩しい笑顔を見せる。ただ、今世に生まれてからはまともな料理を食べていないというだけで、実を言うと、前世の女房の料理の方がたぶん美味いと思う。材料も調味料も調理法も全然違うから、むしろ不味く作る方がおかしいんだとは思うが、それでも、リーネが作るこれよりも美味かったのは事実だろう。なのに前世の俺は、女房が料理を作ってくれても『美味い』ともなんとも言わなかった。それで『当たり前』だと思ってた。
いや、材料も調味料も調理法も格段に進歩してるんだから美味く作れて当然なんだろうよ。当然なんだろうが、それだけの手間を掛けてくれてたのは事実なんだから、そのことに対して労う気持ちがないというのもおかしいはずなんだ。なのに前世の俺は、女房が亭主に美味いものを食わせるのは当たり前だと思ってて、その程度のことに感謝する必要なんかないと、本気で思ってたんだ。
なんでだ? なんでそんな風に思ってた?
考えてみれば、前世の俺の父親もそういう人間だったな。父親が母親に対して労いを見せてるところを見た覚えがない。だから俺は、『そういうものだ』と思ってた。それを疑うこともなかった。
今世でもそうだったが、今世の父親も母親を労うなんてことをしてなかったが、百年分の人生経験を振り返ってみれば、自分の記憶の中だけでもそれが円滑な人間関係を損ねるのが分かってしまう。
それに気付いてしまった以上、
「ありがとう。美味いよ、リーネ」
素直にそう言わずにはいられなかったのだった。
「ペレスですね?」
庭の片隅に彼女が自分で作った竈で、ウサギ肉を使って料理をしてくれていたリーネが、できた料理をが入った鍋を持って戻ってきて、俺が最後の仕上げをしている剣先スコップを見てそう言った。
そうか。彼女が住んでたところでも<ペレス>と言うんだな。
本当に、言葉自体は方言程度にしか違わないことを実感する。それなのに、
「おお、いい匂いだな!」
彼女が手にしてた鍋から漂ってくる匂いに、テンションが上がってしまった。
「ウサギ肉と野草のスープです。お口に合えばいいんですが……」
匂いだけで美味いことを確信。なんでこの調理法が伝わらなかったんだ? 言葉は伝わってるのに。
文句を言っても始まらないのは分かってるものの、そう思わずにはいられない。
皿も何もないので、鍋から直接、匙ですくって食べる。
「美味い! マジで美味い!」
「よかったぁ♡」
俺の反応に、リーネが眩しい笑顔を見せる。ただ、今世に生まれてからはまともな料理を食べていないというだけで、実を言うと、前世の女房の料理の方がたぶん美味いと思う。材料も調味料も調理法も全然違うから、むしろ不味く作る方がおかしいんだとは思うが、それでも、リーネが作るこれよりも美味かったのは事実だろう。なのに前世の俺は、女房が料理を作ってくれても『美味い』ともなんとも言わなかった。それで『当たり前』だと思ってた。
いや、材料も調味料も調理法も格段に進歩してるんだから美味く作れて当然なんだろうよ。当然なんだろうが、それだけの手間を掛けてくれてたのは事実なんだから、そのことに対して労う気持ちがないというのもおかしいはずなんだ。なのに前世の俺は、女房が亭主に美味いものを食わせるのは当たり前だと思ってて、その程度のことに感謝する必要なんかないと、本気で思ってたんだ。
なんでだ? なんでそんな風に思ってた?
考えてみれば、前世の俺の父親もそういう人間だったな。父親が母親に対して労いを見せてるところを見た覚えがない。だから俺は、『そういうものだ』と思ってた。それを疑うこともなかった。
今世でもそうだったが、今世の父親も母親を労うなんてことをしてなかったが、百年分の人生経験を振り返ってみれば、自分の記憶の中だけでもそれが円滑な人間関係を損ねるのが分かってしまう。
それに気付いてしまった以上、
「ありがとう。美味いよ、リーネ」
素直にそう言わずにはいられなかったのだった。
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