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リーネの章

<立派な社会人><立派な親>

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翌朝、俺はリーネより早く起きて、薪として置かれていた木の中で手頃なそれを選び出し、自分のナイフで加工した。そうして形を整えたもので昨日作ったナイフの刃を挟み、蔓を巻き付けて整え、改めて<ナイフ>として完成させる。

さらに、<鞘>も作ってそこに納めると、

「おはようございます」

ちょうどリーネが目を覚ました。

「起きたか。ほれ、これからはこいつを使え」

と言って、できたばかりのナイフを差し出す。それは、彼女が持っていたものよりも少し大振りで、使い方次第でたぶんそれまでのよりもずっと役に立つと思う。

「え……あの、いいんですか……?」

戸惑う彼女に、

「ああ、いいんだ。一緒に暮らすんだからあんな頼りないナイフじゃ俺も困る」

そう言って受け取らせる。

「は……はい、ありがとうございます……」

リーネは受け取ったナイフを大事そうに抱き締めてくれた。

さて、これで彼女に俺を殺すことだって十分にできる<武器>を持たせたわけだ。もちろん、それまでのナイフでも使い方次第で人間だって殺せるが、非力なリーネじゃよっぽど上手くやらないと大人は殺せないだろう。

だが、俺が渡したものは、大きさこそ小ぶりでも、刃の厚みや長さや形状は、完全に、

『殺すため』

の仕様だ。もちろん罠などで捕えた獣の息の根を止めて解体するためのものだが、リーネが俺に対して殺意を抱けばいつだって殺せるだろう。

これは、俺の<覚悟>だ。

『リーネにとって<殺してやりたい相手>に自分がならないように』

っていうな。俺の前世の両親も今世の両親も、正直、『殺してやりたい』と思える相手だった。俺が望んでもないのに勝手に生みやがって、それで自分にとって<都合のいい道具>として利用しやがったんだからな。

そしてそれは、前世の娘にとっての俺も同じだった。俺が世間体を整えるための<小道具>として、俺は女房に娘を生ませた。

<立派な社会人>

<立派な親>

という世間体を整えるための……

は…っ! 我ながらクソすぎるぜ。

そんなかつての自分に対する気構えでもある。

『俺は、お前とは同じにならねえ』

それも意味してるんだ。



そんな調子で二日目を迎えたんだが、リーネは、

「……っ!」

俺からもらったナイフを自分の懐に仕舞おうとして、顔を歪めた。昨日の草引きで傷付いた手が痛むんだろう。だから俺は、

「手の傷が治るまで、ゆっくりしてろ。無理する必要はねえ」

と告げた。なのに彼女は、

「でも、水汲みはしないと……」

と言う。嫌々そう言ってるんじゃなくて、自分から『そうしなければ』と思って言ってくれてるのが、表情からも分かった。となれば、

「分かった。だが無理はするなよ。休み休みでいい」

改めて告げたのだった。

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