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リーネの章

そういうもんだ

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まあとにかく、滝を登るのは明らかに無理だし、山の斜面を登ることにする。

が、こっちも決して楽じゃない。木とかを手掛り足掛かりにできるからどうにか登れるやつだ。足場も、積もった落ち葉とかが、迂闊に体重を掛けると簡単に滑り落ちる。

だから当然、リーネにはもっと大変だろう。いわゆる<やんちゃな男子>ならこんな風にして山ん中を走り回ってたりもするかもしれないが、少なくとも俺がいた村では、子供がそうやって自由に遊べる環境でもなかった。朝から晩までこき使われるからな。

俺だって、前世で学校のレクリエーションで山登りをした時に、好奇心からちょっと斜面を登ろうとした経験があるくらいなんだ。いわゆる<ゆとり教育>なんてのは終わってたが、それでも、

『学校の行事で子供が怪我したら何言われるか分からない』

ってのを気にしてて、とにかく『怪我させないように怪我させないように』って感じだったし。

なんと言うか、向こうもこっちも、別方向で、

<子供がのびのびできない環境>

だな。皮肉な話だ。

なんてことをボヤいてても始まらない。

「俺の脚と腕に足を掛けて、登れ」

リーネじゃ手掛かりになる木にまったく手が届かない場所があったから、俺自身の体を地面に固定して、そこを登らせた。この時も、当然、彼女はためらったが、

「いいから登れ」

と付け足すことでようやく登ってくれた。

ひたすら大人から命令されることでしか動かない。命令されたこと以外をしようとしたら怒鳴られる。って環境でも、自分で考えて動くことができない人間になるんだなって思ったよ。

……って、考えたら、俺が就職した会社もそうだったな。上の人間からひたすら命令ばっかで、命令以外のことをしようとしたら『余計な事すんな!!』って怒鳴られて、そのクセ、

『少しは頭を使え! 自分で考えて仕事を見付けろ! 言われないと動けないとか、本当に今の若い奴は!!』

とか言うんだよな。

……いや、俺も言ってたか。それなりに長く勤めて若い奴らを使う立場になると、自分が言われたことをそのまま若い奴らに言ってた。そして、『そういうもんだ』と思ってた。

それが、別人として生まれ変わった上で前世の記憶を客観的に見られるようになったことで、自分が何をやってたのかが分かるようになった……か。

やれやれ、だな。

リーネに踏まれたところがジンジンと痛む中、そんなことを考えてしまう。

アニメとか漫画じゃ、こういう時、平然としてたりするが、やっぱ、フィクションってことなんだな……

それとも、やせ我慢してるだけか?

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