7 / 398
リーネの章
無理な話
しおりを挟む
水を飲んで一休みすると、リーネの表情も少し穏やかになった気がする。
するとまた、
『そう言えば、前世では娘の顔をこんな風に見たことなかったな……』
そんなことを考えてしまう。
そうだ。娘のことは、一切、女房に任せきりで、俺は仕事だけに打ち込んだ。だから俺は、娘の首がすわったことも、お座りできたことも、ハイハイを始めたことも、立ったことも、歩けた時も、何一つ見てこなかった。気が付いたらいつの間にか大きくなっていってたんだ。
『マジか……』
改めてそれに気付かされて、愕然とした。今までは考えないようにしてきたが、まるで余所の子のように、娘のことを何も知らない。
小さかった頃の写真を見ると、笑うくらい小さかった頃の俺にそっくりだったから、俺の子であることを疑ったりはしなかったものの、それすら、後で写真を見て気付いたくらいだからな。
そりゃ、娘にしたって『自分の父親だ』なんて実感はなかっただろう。まともに顔も合わせない、言葉も交わさない、じゃあな。
だから俺は、リーネの様子を見ることにした。彼女の様子を見ながら、彼女に合わせて移動することにした。
すると、子供なんだから当然なんだが、体に比べて頭が大きくて、いかにもバランスが悪く、体の動きがふらふらしてて危なっかしい。力がない所為もあるんだろう。とにかく頼りない。
なのに、大人の俺に合わさせようとするのは、本当に合理的なのか……?
そんなことを思ってしまう。別に、誰かを待たせているわけでも、誰かに追われているわけでもない。急ぐ必要もないんだ。なのに急がせる必要がどこにある?
『そうだな……ゆっくり歩く方が俺も楽だし……』
と考えて、リーネの様子を確かめるついでに周囲の様子も確認しながら移動すると、いろいろなものが目に入ってきた。
斜面を少し上ったところに、赤い実が成っている。野イチゴだ。こうして気持ちを落ち着かせて見なければ気付かなかっただろう。
「ちょっと待ってろ」
俺はリーネにそう声を掛けて、斜面を登った。
ああ、若い体って本当にいいな。こういうことが苦も無くこなせる。まあ、普段から両親に山菜や野草や木の実を採りに行かされてたから慣れてるってのもあるんだろうが、それでも、八十の老いぼれの体とは比べるのもバカらしいくらいに自由に動く。
そうだな。子供として生まれてくるのも、歳をとって体が衰えるのも、別に本人が望んだことじゃない。俺だって、一生、この二十歳の体でいられるならそうしたかった。だが、それは無理な話だ。
するとまた、
『そう言えば、前世では娘の顔をこんな風に見たことなかったな……』
そんなことを考えてしまう。
そうだ。娘のことは、一切、女房に任せきりで、俺は仕事だけに打ち込んだ。だから俺は、娘の首がすわったことも、お座りできたことも、ハイハイを始めたことも、立ったことも、歩けた時も、何一つ見てこなかった。気が付いたらいつの間にか大きくなっていってたんだ。
『マジか……』
改めてそれに気付かされて、愕然とした。今までは考えないようにしてきたが、まるで余所の子のように、娘のことを何も知らない。
小さかった頃の写真を見ると、笑うくらい小さかった頃の俺にそっくりだったから、俺の子であることを疑ったりはしなかったものの、それすら、後で写真を見て気付いたくらいだからな。
そりゃ、娘にしたって『自分の父親だ』なんて実感はなかっただろう。まともに顔も合わせない、言葉も交わさない、じゃあな。
だから俺は、リーネの様子を見ることにした。彼女の様子を見ながら、彼女に合わせて移動することにした。
すると、子供なんだから当然なんだが、体に比べて頭が大きくて、いかにもバランスが悪く、体の動きがふらふらしてて危なっかしい。力がない所為もあるんだろう。とにかく頼りない。
なのに、大人の俺に合わさせようとするのは、本当に合理的なのか……?
そんなことを思ってしまう。別に、誰かを待たせているわけでも、誰かに追われているわけでもない。急ぐ必要もないんだ。なのに急がせる必要がどこにある?
『そうだな……ゆっくり歩く方が俺も楽だし……』
と考えて、リーネの様子を確かめるついでに周囲の様子も確認しながら移動すると、いろいろなものが目に入ってきた。
斜面を少し上ったところに、赤い実が成っている。野イチゴだ。こうして気持ちを落ち着かせて見なければ気付かなかっただろう。
「ちょっと待ってろ」
俺はリーネにそう声を掛けて、斜面を登った。
ああ、若い体って本当にいいな。こういうことが苦も無くこなせる。まあ、普段から両親に山菜や野草や木の実を採りに行かされてたから慣れてるってのもあるんだろうが、それでも、八十の老いぼれの体とは比べるのもバカらしいくらいに自由に動く。
そうだな。子供として生まれてくるのも、歳をとって体が衰えるのも、別に本人が望んだことじゃない。俺だって、一生、この二十歳の体でいられるならそうしたかった。だが、それは無理な話だ。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
コグマと大虎 ~捨てられたおっさんと拾われた女子高生~
京衛武百十
現代文学
古隈明紀(こぐまあきのり)は、四十歳を迎えたある日、妻と娘に捨てられた。元々好きで結婚したわけでもなくただ体裁を繕うためのそれだったことにより妻や娘に対して愛情が抱けず、それに耐えられなくなった妻に三下り半を突き付けられたのだ。
財産分与。慰謝料なし。養育費は月五万円(半分は妻が負担)という条件の一切を呑んで離婚を承諾。独り身となった。ただし、実は会社役員をしていた妻の方が収入が多かったこともあり、実際はコグマに有利な条件だったのだが。妻としても、自分達を愛してもいない夫との暮らしが耐えられなかっただけで、彼に対しては特段の恨みもなかったのである。
こうして、形の上では家族に捨てられることになったコグマはその後、<パパ活>をしていた女子高生、大戸羅美(おおとらみ)を、家に泊めることになる。コグマ自身にはそのつもりはなかったのだが、待ち合わせていた相手にすっぽかされた羅美が強引に上がり込んだのだ。
それをきっかけに、捨てられたおっさんと拾われた(拾わせた)女子高生の奇妙な共同生活が始まったのだった。
筆者より。
中年男が女子高生を拾って罪に問われずに済むのはどういうシチュエーションかを考えるために書いてみます。
なお、あらかじめ明かしておきますが、最後にコグマと大虎はそれぞれ自分の人生を歩むことになります。
コグマは結婚に失敗して心底懲りてるので<そんな関係>にもなりません。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)
京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。
だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。
と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。
しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。
地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。
筆者より。
なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。
なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる