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リーネの章

リーネ

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「わたしは、リーネ…です……」

少女はそう名乗った。

俺がいた村が属する国と、今いる隣国とが戦争してるわけじゃなくて、また別の国が戦争を仕掛けてきただけなので<敵国民>ではなくても、少なくとも見ず知らずの男の身を案じてくれる程度には優しい子だというのが分かる。

「ありがとう、リーネ。おかげで助かったよ」

俺は改めてお礼を言った。すると彼女は、リーネは、なんだか嬉しそうに表情が和らいだ。その反応から、彼女も、こうやって当たり前に他人から感謝されるということにあまり慣れてないってことが分かる。この辺りじゃ、大人は子供に感謝の言葉なんか掛けないからな。

『子供は大人のために働くのが当たり前』

っていう社会なんだ。と言うか、

『自分達のために働かせる目的で子供を作る』

と言った方が近いか。要するに<道具>か<奴隷>なんだよ。で、大人に気に入られて成長できると<大人>になって、自分のために働いてくれる子供を作ることができると。

正直、最低な社会だよな。

でもまあ、それ自体、俺が<日本>で生まれ育ったからそう思うんだろうけどな。場所が変われば時代が変われば社会の常識が変わるのは、俺にだって分かる。

ただ、俺自身、それなりに今の社会に合わせて我慢はしてきたものの、横柄で横暴な両親に対しては、少なからず殺意も抱いていたりもした。

実際、子供が親を殺すなんて事件も、俺の村でも何度もあった。幸い俺は、前世の経験があったからか、両親に殺意を抱いたりもしつつ適当に調子を合わせて二十歳になるまで平穏無事にやってきたつもりだが、最初っからこの世界に生まれついた人間でも、やっぱり親を殺したいくらいには不満も抱いているってことだろうな。

だから、そういうのが積もり積もって社会を変える動きになっていくんだろう。そして、<変えられる側>は、<変えようとする側>を、

<社会の破壊者>

として忌み嫌う。いつの時代も繰り返されてきたことなんだろうなって実感したよ。

そう言う俺も、散々、会社で<老害>とか陰口を叩かれてきたしな。

まあ、そんなことはさておき、骨折や内臓の損傷や脳内出血については大丈夫そうだが、さすがに擦り傷や打ち身は酷い。たぶん、ここまで戦火は及ばないとは思うもののこんなところでいつまでものんびりとはしていられない。

「……お前、仲間のところに帰りたいか……?」

「……」

リーネに問い掛けると、彼女は顔を伏せて黙ってしまった。

それだけで俺も察してしまう。

『これは、はぐれたと言うよりも、避難のごたごたのついでに逃げ出したクチだな……』

その手の話も珍しくない。親の扱いに耐えかねて逃げるってのもよくあると聞く。さすがにこの歳ではそうそうないものの、十二~三になれば、盗みくらいはできるようになるしな。

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