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プロローグ
わたしがつよくなって
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エギナの母親は、前の妃だった。美しく聡明で誰からも慕われ信頼されていた女性だったが、大病を患ってからは、人々の前に姿を現すこともほとんどなくなっていた。それでもなお、
「この国のために、世継ぎを」
と願い、エギナを生んだ。王は、
「無理はせずともよい」
そう言ったものの妃の意思は固く、王も仕方なく妃の願いを聞き届けた。
しかしその無理が祟ったのか、その後は満足に起き上がることもできなくなったのだそうだ。
だが、そんな妃から生まれたとは到底信じられないほどに、エギナは生きる力に漲っていた。泣き声は城中に響くかというほどに大きく猛々しく、生後七ヶ月で立ち上がり、一歳になる頃には、大人でさえ追いつくのに一苦労なほどの速さで走ることもできるようになっていた。
けれど、エギナが強くなればなるほど、妃の体は弱り、その母親に対して娘は、
「わたしがつよくなっておかあさまをまもる!」
ようやく一歳半になったばかりとは思えないくらいにはっきりとした言葉で励ましていたりもしたという。
けれど、そんな娘の励ましに、
「ありがとう……」
優しく微笑み返してくれた母親は、エギナが二歳になる前にこの世を去った。
その母親を見送る時も、エギナは唇を嚙み締め拳を握り締め、涙を見せることなく雄々しいまでの姿で気丈に振る舞っていた。
それから一年が過ぎ、亡くなった妃への弔意を示す期間が過ぎると、王は次の妃を娶った。一国の王としてやはり世継ぎを残す必要があったからだった。
もっとも、男児そのものはすでに側室の女性が生んでいたが。さりとて側室の女性の身分が王妃に相応しくないとされ、あくまで正式な王妃との間での世継ぎが望まれていたそうだ。
そのような大人達の思惑が幼いエギナの目にはどう映っていたのか……
自分を生んでくれた母親の死や、王と妃の子でありながら男児として生まれなかった彼女への周囲の大人達の言動といったものも影響したのだろうか、エギナはまるで野獣のように乱暴で獰猛な気性に育っていった。
母が異なる兄達も、妹を不憫に思い気遣ってはくれていたものの生来の激しい気性を基にしたのであろう彼女の獰猛さを抑えることは叶わなかった。
ただ、それでいてエギナも、異母兄や父親である王に対しては、そこまで反抗的ではなかったりもした。加えて、彼女の在り方を受け止めようとする相手に対しても、獰猛さは幾分和らぐ傾向にあったとも。特に、王が最も信頼を寄せている家臣の一人である<バルシア卿>に対しては、むしろ王に対するよりも聞き分けがよかったりもした。
さらに、新しい妃と王の間に生まれた妹のことは、大変に可愛がっていたのだった。
「この国のために、世継ぎを」
と願い、エギナを生んだ。王は、
「無理はせずともよい」
そう言ったものの妃の意思は固く、王も仕方なく妃の願いを聞き届けた。
しかしその無理が祟ったのか、その後は満足に起き上がることもできなくなったのだそうだ。
だが、そんな妃から生まれたとは到底信じられないほどに、エギナは生きる力に漲っていた。泣き声は城中に響くかというほどに大きく猛々しく、生後七ヶ月で立ち上がり、一歳になる頃には、大人でさえ追いつくのに一苦労なほどの速さで走ることもできるようになっていた。
けれど、エギナが強くなればなるほど、妃の体は弱り、その母親に対して娘は、
「わたしがつよくなっておかあさまをまもる!」
ようやく一歳半になったばかりとは思えないくらいにはっきりとした言葉で励ましていたりもしたという。
けれど、そんな娘の励ましに、
「ありがとう……」
優しく微笑み返してくれた母親は、エギナが二歳になる前にこの世を去った。
その母親を見送る時も、エギナは唇を嚙み締め拳を握り締め、涙を見せることなく雄々しいまでの姿で気丈に振る舞っていた。
それから一年が過ぎ、亡くなった妃への弔意を示す期間が過ぎると、王は次の妃を娶った。一国の王としてやはり世継ぎを残す必要があったからだった。
もっとも、男児そのものはすでに側室の女性が生んでいたが。さりとて側室の女性の身分が王妃に相応しくないとされ、あくまで正式な王妃との間での世継ぎが望まれていたそうだ。
そのような大人達の思惑が幼いエギナの目にはどう映っていたのか……
自分を生んでくれた母親の死や、王と妃の子でありながら男児として生まれなかった彼女への周囲の大人達の言動といったものも影響したのだろうか、エギナはまるで野獣のように乱暴で獰猛な気性に育っていった。
母が異なる兄達も、妹を不憫に思い気遣ってはくれていたものの生来の激しい気性を基にしたのであろう彼女の獰猛さを抑えることは叶わなかった。
ただ、それでいてエギナも、異母兄や父親である王に対しては、そこまで反抗的ではなかったりもした。加えて、彼女の在り方を受け止めようとする相手に対しても、獰猛さは幾分和らぐ傾向にあったとも。特に、王が最も信頼を寄せている家臣の一人である<バルシア卿>に対しては、むしろ王に対するよりも聞き分けがよかったりもした。
さらに、新しい妃と王の間に生まれた妹のことは、大変に可愛がっていたのだった。
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