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レイラ

バッテリー残量

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かように、レイラにとっては、<魔王との戦い>は、とにかくバッテリーの残量との戦いだった。

魔王を取す前にバッテリーが完全に尽きれば彼女の負けだ。しかし、計算上は、十分に可能なはずだった。帰還さえ考えなければ。エギナに、

『絶対に帰ってこい』

と厳命を受けたことにより、彼女は非常に緻密な電力の管理を強いられた。しかも、電力を節約するだけでなく、万が一にも魔王の<倒壊>に巻き込まれて自身が破損してはいけないので、非常に綱渡りの状態が続いている。

『〇.三パーセントのプラス』

『〇.二パーセントのマイナス』

と、予測された消耗との差異は、刻々と変化する。<ルデニオンへの帰還>に必要な最低条件は、

『電力消耗によるシャットダウンが生じるレベルに、誤差も含めてプラス三パーセント』

というものだった。それ以下では、ルデニオンに辿り着く前に十中八九シャットダウンしてしまう。魔王は倒せても、エギナの命令は果たせない。それではダメなのだ。

さりとて、ここで確実に魔王を倒さなければ、それこそ何をしているのか分からない。

まさにギリギリのせめぎあいだった。

けれど、レイラは決して焦ることもなく淡々と作業をこなす。魔王の体組織や器官を次々と引き裂きながら骨格へと辿り着き、破壊する。

『現在、予定の八十二パーセントを消化。バッテリー残量、十七パーセント』

情報を確認しつつ、次の骨格を破壊した。すると、魔王の体の中で、「メリメリメリ」と、なんとも言えない音がする。骨格が破壊されたことで他の部分に許容範囲を超えた応力が掛かり、きしみ始めているのだろう。

もしかすると、このまま放置していてもやがて倒壊するかもしれない。しかしそれはあくまで、自力で回復することのない建築物での話。<生物>としての機能を持つ魔王は、<自然治癒力>を持つのも確認されている。現に、破壊された骨格を修復するために猛然と免疫機能が働いていた。

そちらは回復まで数日を要するだろうから十分に間に合うが、逆を言えば、時間を与えてしまっては駄目なのだ。

ゆえにレイラは、ためらわない。容赦しない。淡々と、ただ淡々と、破壊を続ける。魔王の骨格が自身の体を支えきれなくなるまで。

そして、

『バッテリー残量、十五パーセント。非常に少なくなっています。充電してください』

レイラが起動して数十年。一度も見たことのない警告が表示された。彼女が運用されていた世界では、無充電で一ヶ月程度動作できるのが目安とされている。しかも各家庭に高性能な発電装置が普及しているので、ここまでバッテリー残量が減るまで放置することなど、普通はないのだ。

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