異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語

京衛武百十

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レイラ

埒外の何か

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屋敷に戻ったレイラは、ニューティと共に、シェイナとパティリエカに対して、針仕事や炊事、洗濯といった、今のこの世界で生きるには必要と思われる<技能>の習熟に力を入れた。厳密にはパティリエカにはすでにその種の手ほどきはされているものの、一緒に学ぶ者がいる方がシェイナにとっても励みになるかもしれないという判断で。

シェイナは言う。

「家で、おとうさ…いえ、父や母にやらされてた時には、すごく怖くて嫌だったんですけど、ここで、レイラ様やニューティ様に教えてもらってるのは、楽しくて好きです…!」

と。子供らしい朗らかな笑顔で。

「それは何よりです」

レイラはやはり穏やかに微笑みながら応えた。すると、パティリエカも、

「私も、今までよりずっと楽しくできてます! レイラ様のおかげです!」

まるでシェイナと張り合おうとするかのように身を乗り出しながら言った。そんなパティリエカに対しても、

「ありがとうございます」

と柔和に返す。二人がこうしてたくさんのことを学んでくれれば、それがきっとこの国の安寧にも繋がるだろうと考えて。

もちろん、今はまだ強い階級社会で、賎民には基本的な人権さえ認められてはいないし、それはこの後も数百年の単位で続くだろう。しかしそのこと自体は、この世界に生きる人間達自身が向き合っていくべき課題であり、ロボットであるレイラにそれをどうこうする権限はない。

けれどそれすら、人間達が生き延びればの話。生き延びなくては、ただの幻に過ぎない。だからレイラは、この世界においては非常に危険な<異物>である魔王に対処するのだ。この世界の人間の力では、おそらく対応があまりにも困難なそれを。

この国に来てからレイラが収集した情報の中にあった、いわゆる<伝説>や<伝承>の類には、

<この世に災いをもたらす強大な力>

に関する言い伝えはあるようだ。しかしそれらは、内容から察するに、やはり嵐や落雷、火山の噴火や地震、津波といった甚大な被害を及ぼす自然災害や、特異なタイプの人間の理不尽な振る舞いを暗喩していると思しきものであり、今回の<魔王>のような存在をうかがわせるものではなかった。デモニューマについても、なるほど<怪物>と言われる異形の獣の描写も散見はされる。けれど、やはりどれも<空想の産物>を超えるようなものとは思えなかった。実際にあのデモニューマらが存在したのであれば、もっと具体的な描写になると思われるが、そこまででは決してない。つまり、あの<魔王>や<デモニューマ>の存在は、この世界においても突然現れた<埒外の何か>なのだろう。

それこそ、レイラや静香のように。

とはいえ、レイラはともかく静香はごく普通の人間であり、それほど大きな脅威とはなりえない。レイラは、人間から見ればその強大な力は驚異のようにも見えるとしても、レイラ自身に人間を害する意図はない。しかし、あの<魔王>は、明らかに意図して人間を害そうとする、

<制御を失った自動兵器>

のようなものだ。それを野放しにすることは、レイラにはできないのである。

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