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レイラ
今のあなたであれば
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『力の乗った良い太刀筋です』
レイラがそう告げたように、実際にエギナの剣技は、人間としてはおそらくごく一部の例外的な者でしか到達できない域に達していただろう。ここ、<ベル・ルデニオーラ>でさえ、今の彼女に敵う者は数えるほどしかいないに違いない。
けれど、そんな彼女でも、レイラには遠く及ばない。実際、レイラは、薬物により一切の<タガ>を外したナイフ使いのテロリストと対峙し、ほとんど何もさせないまま数秒で制圧してみせたこともある。
しかも、情報を引き出した上で罪を償わせるために生かしたまま捕らえたことでそれだけの時間を要しただけであり、殺害するだけならそれこそ一秒も必要なかっただろう。
そのナイフ使いの<狂気>に比べれば、エギナのそれはまだまだ人間の範疇にある。『どんな手を使ってでも殺してやる』という種類の殺意ではないのだ。
『正々堂々、真っ向から打ちのめす。それによって相手が命を失ったとしても構わない』
という種類の覚悟なのだから。
とはいえ、あくまで人間が相手なら大変な強さと言っていいだろう。
それを確認した上で、レイラは、
「失礼」
あくまで淡々とした様子でそう口にして、人間にはできない動きでエギナの剣を躱しつつ、彼女の腹部に手を添えて、ぐっと押した。
瞬間、エギナの体が自動車にでも撥ねられたかのように吹っ飛ぶ。
その先の地面が、芝の生えた柔らかいものであることを確認した上でのことだった。しかも、エギナが手にしていた剣も、指でつままれてレイラの手の内にあった。
「な…? は……?」
芝の上を転がったエギナは、自分の身に何が起こったのか理解できていない様子だった。
腹を押されたのは分かったものの、それも皮鎧の上からで、痛みはほとんどない。とにかく柔らかいものに触れたと思ったら、とてつもない弾力で押し返されたのだ。
たぶん、大きなゴムのボールに勢いよく飛びついた経験のある者であればなんとなく想像できるのではないだろうか? とにかくその感じで跳ね返されたのだ。
エギナの突進が大変に強いものだったからこその反動だった。
芝まみれで体を起こしたエギナに、レイラはあくまで穏やかな笑顔で言う。
「エギナ様。腕を上げられましたね。今のあなたであれば、きっと、<ベル・ルデニオーラ>において五本の指に入るでしょう。たゆまぬ研鑽の賜物とお見受けします」
「……はは……これでもまったく届かないのか……お前は本当にとんでもない奴だな……」
頬を桜色に染め、目を潤ませて、エギナはとても嬉しそうにそう口にしたのだった。
レイラがそう告げたように、実際にエギナの剣技は、人間としてはおそらくごく一部の例外的な者でしか到達できない域に達していただろう。ここ、<ベル・ルデニオーラ>でさえ、今の彼女に敵う者は数えるほどしかいないに違いない。
けれど、そんな彼女でも、レイラには遠く及ばない。実際、レイラは、薬物により一切の<タガ>を外したナイフ使いのテロリストと対峙し、ほとんど何もさせないまま数秒で制圧してみせたこともある。
しかも、情報を引き出した上で罪を償わせるために生かしたまま捕らえたことでそれだけの時間を要しただけであり、殺害するだけならそれこそ一秒も必要なかっただろう。
そのナイフ使いの<狂気>に比べれば、エギナのそれはまだまだ人間の範疇にある。『どんな手を使ってでも殺してやる』という種類の殺意ではないのだ。
『正々堂々、真っ向から打ちのめす。それによって相手が命を失ったとしても構わない』
という種類の覚悟なのだから。
とはいえ、あくまで人間が相手なら大変な強さと言っていいだろう。
それを確認した上で、レイラは、
「失礼」
あくまで淡々とした様子でそう口にして、人間にはできない動きでエギナの剣を躱しつつ、彼女の腹部に手を添えて、ぐっと押した。
瞬間、エギナの体が自動車にでも撥ねられたかのように吹っ飛ぶ。
その先の地面が、芝の生えた柔らかいものであることを確認した上でのことだった。しかも、エギナが手にしていた剣も、指でつままれてレイラの手の内にあった。
「な…? は……?」
芝の上を転がったエギナは、自分の身に何が起こったのか理解できていない様子だった。
腹を押されたのは分かったものの、それも皮鎧の上からで、痛みはほとんどない。とにかく柔らかいものに触れたと思ったら、とてつもない弾力で押し返されたのだ。
たぶん、大きなゴムのボールに勢いよく飛びついた経験のある者であればなんとなく想像できるのではないだろうか? とにかくその感じで跳ね返されたのだ。
エギナの突進が大変に強いものだったからこその反動だった。
芝まみれで体を起こしたエギナに、レイラはあくまで穏やかな笑顔で言う。
「エギナ様。腕を上げられましたね。今のあなたであれば、きっと、<ベル・ルデニオーラ>において五本の指に入るでしょう。たゆまぬ研鑽の賜物とお見受けします」
「……はは……これでもまったく届かないのか……お前は本当にとんでもない奴だな……」
頬を桜色に染め、目を潤ませて、エギナはとても嬉しそうにそう口にしたのだった。
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