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レイラ
並行世界
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キャンプを趣味とし、日本では主に<ヘラクレス>と称されていることが多いギリシア神話の英雄にちなんだ星座の名を<ヘルクレス座>と、日本における正式名称で答えられる彼女が<ヘルクレス座>と<オリオン座>を間違えるとも思えないことから、レイラは確信した。
『<並行世界>なるものが実在すると仮定するならば、この世界と、静香がいた世界と、私がいた世界は、<同じ時間の並行世界>であり、時間を逆行したりしたのではなく、ただスライドしただけと推測されますね』
とは言え、それが分かったからと言ってどうなるというものでもない。ここに来ることになった原因も分からなければ、元の世界に戻る方法も分からない。
もっとも、レイラはすでに廃棄・再資源化が決まってディーラーに引き取られているので、戻ったところで何をするわけでもない。廃棄が決まっていたロボットが紛失したとなれば、遺失届ないし盗難届が出されて、管理責任者だった者が管理責任を問われることになるだけだ。そしてそれを問われたところで、何か重大な罰則があるわけでもないだろう。勤務上の評価は下がるかもしれないが。
だから、何が何でも帰らなければいけない理由もない。
ただ、一方で、静香についてはきっと家族も心配しているだろう。朗らかな彼女の様子を見る限り、家族関係も致命的に劣悪というわけでもなさそうだ。できれば帰れる手立てをと思う。思うものの、その方法がまるで思い当たらないのだ。
すると、カップラーメンを食べ終えた静香がそそくさと片付けを済ませて立ち上がり、
「ごめん、ちょっと<はばかり>に」
と、草むらへと入っていった。
『<はばかり>とは、日本の古い言葉で<トイレ>を表すものですね』
レイラもそう察し、敢えて追うようなことはしなかった。この周囲の検索は済んでおり、加えて現在も各種センサーを使い全周警戒中であり、一キロほど離れたところをデモニューマが数頭、東に向かって移動しているのが探知できたものの向かってくる様子もなく、他に危険なものは特にないことは確認できているからだ。
彼女の姿も、サーモカメラを使えば確認できる。異変があればすぐに分かる。
そうして待つこと五分。静香が帰ってきた。
「ちゃんと後始末はできなかったけど、非常時だししょうがないよね?」
申し訳なさそうに訊いてくる彼女に、
「はい。この周囲で人が何らかの活動をしている形跡はありません。完全な無人であり、野生動物と同じことでしょう。問題はないと考えます」
きっぱりとそう告げて、レイラは出発の準備を終えた。
「それでは、まいりましょう」
「うん」
再びレイラの外套をしっかりとまとった静香が鞍にまたがり、それをベルトで繋ぎ止め、満天の星空の下、シェイラとパティリエカとニューティが待つ<ルデニオン>に向かって、走り出したのだった。
『<並行世界>なるものが実在すると仮定するならば、この世界と、静香がいた世界と、私がいた世界は、<同じ時間の並行世界>であり、時間を逆行したりしたのではなく、ただスライドしただけと推測されますね』
とは言え、それが分かったからと言ってどうなるというものでもない。ここに来ることになった原因も分からなければ、元の世界に戻る方法も分からない。
もっとも、レイラはすでに廃棄・再資源化が決まってディーラーに引き取られているので、戻ったところで何をするわけでもない。廃棄が決まっていたロボットが紛失したとなれば、遺失届ないし盗難届が出されて、管理責任者だった者が管理責任を問われることになるだけだ。そしてそれを問われたところで、何か重大な罰則があるわけでもないだろう。勤務上の評価は下がるかもしれないが。
だから、何が何でも帰らなければいけない理由もない。
ただ、一方で、静香についてはきっと家族も心配しているだろう。朗らかな彼女の様子を見る限り、家族関係も致命的に劣悪というわけでもなさそうだ。できれば帰れる手立てをと思う。思うものの、その方法がまるで思い当たらないのだ。
すると、カップラーメンを食べ終えた静香がそそくさと片付けを済ませて立ち上がり、
「ごめん、ちょっと<はばかり>に」
と、草むらへと入っていった。
『<はばかり>とは、日本の古い言葉で<トイレ>を表すものですね』
レイラもそう察し、敢えて追うようなことはしなかった。この周囲の検索は済んでおり、加えて現在も各種センサーを使い全周警戒中であり、一キロほど離れたところをデモニューマが数頭、東に向かって移動しているのが探知できたものの向かってくる様子もなく、他に危険なものは特にないことは確認できているからだ。
彼女の姿も、サーモカメラを使えば確認できる。異変があればすぐに分かる。
そうして待つこと五分。静香が帰ってきた。
「ちゃんと後始末はできなかったけど、非常時だししょうがないよね?」
申し訳なさそうに訊いてくる彼女に、
「はい。この周囲で人が何らかの活動をしている形跡はありません。完全な無人であり、野生動物と同じことでしょう。問題はないと考えます」
きっぱりとそう告げて、レイラは出発の準備を終えた。
「それでは、まいりましょう」
「うん」
再びレイラの外套をしっかりとまとった静香が鞍にまたがり、それをベルトで繋ぎ止め、満天の星空の下、シェイラとパティリエカとニューティが待つ<ルデニオン>に向かって、走り出したのだった。
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