58 / 108
レイラ
西へ
しおりを挟む
<装備品>と言っても、背嚢の中に入っているのは、ナイフ三本、大型弩砲の投擲体二十、牛に似た草食獣の胃袋を利用して作られた水筒と水、非常食の干し肉七日分、傷薬として使われる薬草、くらいのものである。
ちなみに、ロボットであるレイラには水も食料も本来は必要ないが、さすがにそこまでとなると異様さが増すので、レイラはここまで飲食を行っているフリはしていた。
と言うのも、彼女には<毒見機能>も備わっており、口から水や食品を取り入れることもできるのである。もっとも、当然のこととして生物のようにそれをエネルギー源としては利用できないので、小さなパックに詰めて腹部のハッチから取り出す形にはなっているが。
ここまでは気付かれずにこられたものの、長く人間と一緒に暮らしていればいずれは気付かれるだろう。そういうことも含めて、人間達とは違いすぎるため、理解してもらうのは難しい面も出てくると思われる。
それら諸々については、ことが終わってから考えるとして、
「それでは、行ってまいります」
外套をまとい背嚢を背負ったレイラは、やはり穏やかな笑顔を浮かべて、詰所を後にした。フードを目深にかぶっていることもあり、賤民達の街を通り抜けても、人々からはレイラであることは気付かれなかった。
そうして賤民達の街の側の門を抜けて外に出てしばらく歩いたところで外套を脱ぎ、丁寧に畳んで背嚢に収め、西を見詰め、
『バッテリー残量、九十四パーセント。自己診断、問題なし。オールグリーン。危機対応モード、起動』
と、と、と、と走り始めた。そしてそれはたちまち途轍もない速度となり、知っている人間が意識して見なければもはや<人の姿をした何か>であることすら認識できないような、
<高速移動体>
となっていた。時速にして約百五十キロ。センサー類をフル稼働し、人や馬車と遭遇しても速度を緩めることなくすり抜け、あるいは飛び越え、
「え…?」
「なんだ……?」
つむじ風と共に何かが通り過ぎたようにしか、人間達には感じ取れなかった。
なお、彼女が元々運用されていた人間社会においては、ロボットが『走る』時には車道を通ることが義務付けられており、同時に、<制限速度>以上では走れないようになっている。しかしここには彼女を縛る<法>はない。
『移動距離、二十キロ……前方に街……』
<王都ルデニオン>と同じく粗末な柵の向こうに巨大な城壁という造りの<街>が見えてきたことで、レイラは速度を落とす。
王都ルデニオンのいわば<衛星都市>、<ラデノセシオン>であった。
ちなみに、ロボットであるレイラには水も食料も本来は必要ないが、さすがにそこまでとなると異様さが増すので、レイラはここまで飲食を行っているフリはしていた。
と言うのも、彼女には<毒見機能>も備わっており、口から水や食品を取り入れることもできるのである。もっとも、当然のこととして生物のようにそれをエネルギー源としては利用できないので、小さなパックに詰めて腹部のハッチから取り出す形にはなっているが。
ここまでは気付かれずにこられたものの、長く人間と一緒に暮らしていればいずれは気付かれるだろう。そういうことも含めて、人間達とは違いすぎるため、理解してもらうのは難しい面も出てくると思われる。
それら諸々については、ことが終わってから考えるとして、
「それでは、行ってまいります」
外套をまとい背嚢を背負ったレイラは、やはり穏やかな笑顔を浮かべて、詰所を後にした。フードを目深にかぶっていることもあり、賤民達の街を通り抜けても、人々からはレイラであることは気付かれなかった。
そうして賤民達の街の側の門を抜けて外に出てしばらく歩いたところで外套を脱ぎ、丁寧に畳んで背嚢に収め、西を見詰め、
『バッテリー残量、九十四パーセント。自己診断、問題なし。オールグリーン。危機対応モード、起動』
と、と、と、と走り始めた。そしてそれはたちまち途轍もない速度となり、知っている人間が意識して見なければもはや<人の姿をした何か>であることすら認識できないような、
<高速移動体>
となっていた。時速にして約百五十キロ。センサー類をフル稼働し、人や馬車と遭遇しても速度を緩めることなくすり抜け、あるいは飛び越え、
「え…?」
「なんだ……?」
つむじ風と共に何かが通り過ぎたようにしか、人間達には感じ取れなかった。
なお、彼女が元々運用されていた人間社会においては、ロボットが『走る』時には車道を通ることが義務付けられており、同時に、<制限速度>以上では走れないようになっている。しかしここには彼女を縛る<法>はない。
『移動距離、二十キロ……前方に街……』
<王都ルデニオン>と同じく粗末な柵の向こうに巨大な城壁という造りの<街>が見えてきたことで、レイラは速度を落とす。
王都ルデニオンのいわば<衛星都市>、<ラデノセシオン>であった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
碓氷唯
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる