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レイラ
一つ屋根の下で
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パティリエカは、僅か十歳にして王族としての立場や役目をわきまえた聡明な子供だった。
さりとて、いくら聡明だと言えど幼い子供であることは変わらず、ふとした弾みに子供らしい甘えが出てしまうのだった。レイラに甘えてしまうのも、それである。
ただしこれは、レイラの様子を見ていた者達からの証言を基に国王が思い付いた<懐柔策>の一つという面もある。いたいけな子供をあてがっておけばそれのために<ベル・ルデニオーラ>に肩入れしてくれるであろうという。
王族として相応しいとは言い難い振る舞いを見せるエギナに対する温情も与えつつ、同時に、たとえ我が子であっても国のためになるなら利用する、
<国を統べる者>
としての器と覚悟も併せ持っていることがこれで分かるというものか。
それについても、レイラも承知しながらも関知しないことを徹底していた。レイラが運用されていた世界の常識では非情には思えても、冷酷にも思えても、この世界では必要なことであるのも彼女には分かってしまう。ゆえに、彼女はあくまで、自身にできる範囲でパティリエカのことも尊重するだけだ。
自分に甘えたいと考えるパティリエカも、蔑ろにはしない。
だから少女の目を真っ直ぐに見詰めて、どこまでも穏やかに、真摯に、
「先ほども申し上げましたが、私は嘘を吐くことができません。ですから、七日で帰ってくると申し上げた以上、七日で帰ってきます」
言い含めるように諭すように告げた。
「レイラ様……」
潤んだ瞳でレイラを見上げるパティリエカは、不意に、何かを決心したかのように強い視線を向けて、
「それでは、私は、レイラ様がお帰りになるまでこの屋敷にてお待ちしております……!」
涙を溜めたままでありつつ、明確な決意を込めて、小さな拳を握り締めて、宣言した。
「パティリエカ様、それは……!」
さすがに脇に控えていたブルーディスが声を上げるものの、
「パティリエカ様が待っていてくださるのであれば、私もさらに励みになります」
「本当……!?」
見詰めあう二人の姿にそれ以上は口出しできず、
「……陛下のお許しがあれば、やむをえません……すぐに使いの者を出し、判断を仰ぎます」
と引き下がった。
そしてブルーディスの言ったとおり使いを出すと、国王からはその場で許可が下り、パティリエカも、しばらくの間とはいえ、レイラの屋敷に滞在することとなった。もちろんこれも、レイラを引き留めておく狙いもあってのことである。
「ええ……?」
まさか王女様と一つ屋根の下で暮らすことになるとは、シェイナも戸惑うしかできなかったのだった。
さりとて、いくら聡明だと言えど幼い子供であることは変わらず、ふとした弾みに子供らしい甘えが出てしまうのだった。レイラに甘えてしまうのも、それである。
ただしこれは、レイラの様子を見ていた者達からの証言を基に国王が思い付いた<懐柔策>の一つという面もある。いたいけな子供をあてがっておけばそれのために<ベル・ルデニオーラ>に肩入れしてくれるであろうという。
王族として相応しいとは言い難い振る舞いを見せるエギナに対する温情も与えつつ、同時に、たとえ我が子であっても国のためになるなら利用する、
<国を統べる者>
としての器と覚悟も併せ持っていることがこれで分かるというものか。
それについても、レイラも承知しながらも関知しないことを徹底していた。レイラが運用されていた世界の常識では非情には思えても、冷酷にも思えても、この世界では必要なことであるのも彼女には分かってしまう。ゆえに、彼女はあくまで、自身にできる範囲でパティリエカのことも尊重するだけだ。
自分に甘えたいと考えるパティリエカも、蔑ろにはしない。
だから少女の目を真っ直ぐに見詰めて、どこまでも穏やかに、真摯に、
「先ほども申し上げましたが、私は嘘を吐くことができません。ですから、七日で帰ってくると申し上げた以上、七日で帰ってきます」
言い含めるように諭すように告げた。
「レイラ様……」
潤んだ瞳でレイラを見上げるパティリエカは、不意に、何かを決心したかのように強い視線を向けて、
「それでは、私は、レイラ様がお帰りになるまでこの屋敷にてお待ちしております……!」
涙を溜めたままでありつつ、明確な決意を込めて、小さな拳を握り締めて、宣言した。
「パティリエカ様、それは……!」
さすがに脇に控えていたブルーディスが声を上げるものの、
「パティリエカ様が待っていてくださるのであれば、私もさらに励みになります」
「本当……!?」
見詰めあう二人の姿にそれ以上は口出しできず、
「……陛下のお許しがあれば、やむをえません……すぐに使いの者を出し、判断を仰ぎます」
と引き下がった。
そしてブルーディスの言ったとおり使いを出すと、国王からはその場で許可が下り、パティリエカも、しばらくの間とはいえ、レイラの屋敷に滞在することとなった。もちろんこれも、レイラを引き留めておく狙いもあってのことである。
「ええ……?」
まさか王女様と一つ屋根の下で暮らすことになるとは、シェイナも戸惑うしかできなかったのだった。
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